ミリアちゃん

 改めて、ウルに手を伸ばす。ウルの方も警戒せずに撫でさせてくれた。ラキのように近づいてはこなかったけど、じっと待っててくれてたから信用はしてくれたらしい。

 ウルは、すごくふわふわで、もふもふだ。きっとミリアちゃんがとても丁寧に、愛情を持って面倒を見てるんだと思う。素直に尊敬するよ。

 そんなウルのもふもふを堪能していると、クロが我に返ったらしい。あ、と小さな声を上げて立ち上がった。でもラキを抱いたままだ。もふもふな動物なんてあまり触れないから、手放せなかったのかな。


「おきゃくさま。あんない。こっち」


 少しだけ悩んだ後、クロがミリアちゃんにラキを手渡した。ミリアちゃんはすごく機嫌が良さそうににこにこしてる。愛犬を気に入ってもらえて嬉しい、とかそんな感じかな?

 クロが動くから私もそれに続こう。ウルはまた撫でさせてもらえばいい。きっと大丈夫、のはず。

 クロが先に歩いて、ミリアちゃんがそれに続く。私は一番後ろで見守るだけ。


「クロちゃん、ここはクロちゃんのお家なの?」

「そう。おうち」

「おっきいお家だね!」

「おっきい。すごい」


 なんだか正反対な二人だけど、ちゃんと会話になってる。不思議な会話だけど。

 キッチンを抜けて、クロが大広間へのドアを開けたところで、


「ひっ……」


 ミリアちゃんが小さく悲鳴を漏らした。

 ミリアちゃんを見ると、怯えているのか見て分かるほどに震えてる。ウルも警戒しているみたいで、じっと扉の先を睨み付けてる。ミリアちゃんに抱えられてるラキはそもそもよく分かってないみたいできょとんとしてるけど、頭の上のフレルは静かに見つめるだけ。

 えっと……。この子たちは何をそんなに怯えたり警戒してるんだろう。ここにいるのは、リオちゃんだけのはず……。いや、それか? それなの?


「みんな。怖がってる。どうして?」


 クロも意味が分からないといった様子でおろおろしてる。そんな様子を見てると、私の方が落ち着いてくるね。

 ミリアちゃんたちの視線の先を見る。そこにいたのは、やっぱりと言うべきか、リオちゃんがいた。ミリアちゃんたちの視線を受けて、薄くだけど苦笑いを浮かべてる。

 やっぱりミリアちゃんたちの態度はリオちゃんが原因らしい。でも理由が分からない。リオちゃんは見たところかわいい子だけど。


「えっと……。ミリアちゃん。リオちゃんが怖いの?」

「リオちゃん……。あの子、ですか?」

「うん」

「関係を聞いてもいいですか……?」

「えっと……。クロの友達かな? 師匠が近いかも」


 私の友達と言えたらいいんだけど、さすがにそこまで親しいわけじゃないから。ちょっと寂しいけど、妹の友達と仲良しな姉の方が珍しいだろうし。


「友達……師匠……。そうですか」


 ミリアちゃんはそれで納得したらしい。ゆっくりと深呼吸をして、さっきまでの笑顔を浮かべた。


「ごめんなさい! ミリアはミリアです!」

「ん……。リオ。隠遁の魔女。よろしく」

「わあ、いい二つ名で羨ましい……! ミリアは森の魔女です! 森に住んでるから、だって!」


 森に住んでるから森の魔女って……。それはもう二つ名とかじゃないと思う。

 それにしても、一時はどうなることかと思ったけど、ちゃんとお話ができてるみたいで安心した。クロも安心したみたいで、ほっとしてる。

 でも、怯えた理由は聞いておくべきかも。クロとリオちゃんの話だと、今後も異世界の魔女、つまりクロのお友達候補は召喚されるみたいだし。


「ミリアちゃん、聞いてもいい?」

「はい? 何でしょう」

「さっき、すごく怯えたように見えたけど……。何かあったの?」


 原因は多分、リオちゃん。会話をした結果、怯えもなくなったみたいだし、ウルたちももう警戒はしてないみたいだから。


「あー……。えっと……。お恥ずかしながら、リオちゃんの魔力がすごかったので……」


 話を聞いてみると、ミリアちゃんとリオちゃんだと魔力の差がすさまじく大きいらしい。ミリアちゃんの数十倍だとか。

 もしも戦いになったら、ウルたちを逃がすことすらできない。だから怯えてしまった、らしい。本当に優しい子だ。


「ちなみにクロちゃんも魔力がすごいです。ミリアよりずっと多いです……!」

「えっへん」


 胸を張る妹がとてもかわいいのでとりあえず抱きしめておく。ぎゅー。


「おねえちゃん。くすしい。やめて」

「えー」

「ん……。じゃあ、もう少し……」


 なんだかんだと受け入れてくれる妹が大好きです。えへへ……かわよ……。


「あの、リオちゃん、でいいです? 小夜さんがなんか、顔が気持ち悪くなってませんか……!?」

「放っておいた方がいい。危ない」

「危ない!?」


 危ないって、また失礼な。嫌がる相手にこんなことはしないよ。多分。


「よし。満足。それじゃあ、クロ。おもてなしだ!」

「おもてなし」


 こくりと頷いて、クロがキッチンへと駆けていく。ジュースの場所とかはちゃんと教えてあげたから大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配だ。

 でも、こっちも気になるんだよね。リオちゃんがミリアちゃんを手招きしてる。多分説明をするんだと思うけど……。

 いや、いっか。リオちゃんも良い子だし、クロのことを悪く言ったりすることはないはず。張り切りすぎて空回りしそうなクロをフォローするべきだね。

 あの子、見た目では分からないだろうけど、かなりテンションが上がってるみたいだし。そう思うと、ちょっと心配だ。


「リオちゃん、ちょっとクロを見てくるね」

「ん」


 頷くリオちゃんに手を振って、私はキッチンに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る