お友達を呼ぶ魔法
「クロの魔法、完成した」
日曜日の朝。朝ご飯のピザトーストを食べ終わったところで、リオちゃんがそう言った。
「え……。もう? 早くない?」
「私が手伝ったからね」
「はあ……」
リオちゃんって、もしかしてとてもすごい魔女だったりするのかな?
クロを見ると、なんだかすごくやりきった顔をしてる。少しだけ疲れが見えるけど、充足感に満たされてるような、そんな顔。むふー、みたいな。かわいい。
「まほう。すごい。できた。ほめて。ほめて?」
「クロすごい! とってもすごい! なでなでしちゃおう! なでなでー!」
「むふー」
具体的にどうなったのか分からないけど、それでもすごいことを二人でできたんだと思う。だから褒める。すごく褒める。たくさん褒める!
「リオちゃんも褒めてあげる!」
「遠慮する。それよりも説明」
「あ、はい」
そうだね。説明は大事だ。椅子に座り直して姿勢を正した。
クロの魔法っていうことは、私もしっかり聞いておかないといけないだろうから。
「クロの魔法、便宜上、友達召喚とするけど」
「友達召喚……」
どうしよう。そのまますぎて突っ込んだ方がいいのか分からない。リオちゃんが何も気にせず説明を続けようとしてるから、おとなしく聞いておこう。
「友達召喚はこのお家ありきの魔法になってる。召喚されると裏庭に落ちて、クロに伝わる。召喚の条件は、クロと似通った背格好であることと、魔法を使えること、そして悪い人じゃないこと」
「すごく曖昧じゃない?」
「ん……。世界によって価値観が違う場合もあるから。とりあえずクロの価値観を基準にしてるから、多分大丈夫、のはず」
本当かな? 疑ったところで私にはどうしようもないから、信じるしかできないけど。
「ともかく。これでクロの魔法は完成。安全装置もかけたから、大丈夫……」
リオちゃんがそこまで言ったところで、クロが突然立ち上がった。その視線はまっすぐキッチンの方へ。つまり、裏庭の方向だ。
何があったのかはすぐに分かった。説明を聞いたばかりだから。きっと、誰かが召喚されたんだ。
クロが私の方に振り返る。どことなくそわそわしてるのが分かる。私に許可なんて取らなくても、会いに行ってくれていいのに。
「いいよ、クロ」
そう言ってあげると、クロが走り出した。あっという間にキッチンの扉を開けて通り過ぎていく。私も見に行こう。
「リオちゃんはどうする?」
「んー……。私は、待ってるよ。逃げられるかもしれないし」
逃げられるって、どういうことだろう? 少し気になったけど、私もクロを追って裏庭に向かった。
「わあ……。ここ、どこかな?」
そんな声が向かう先から聞こえてきた。
「おきゃくさま……! かんげい。いらっしゃい」
「わあ、ちっちゃい魔女様だ! かわいい!」
「かわ……。あう……」
うん。とりあえず、平和なやり取りだね!
扉を抜けて、裏庭に出る。そこにいたのは、クロと同じ背格好の魔女……だけじゃなかった。
クロの魔法によって綺麗になった裏庭の中央、そこにいるのは、長い青髪に青いローブの女の子。背格好はやはりクロと同じくらいで、元気はつらつとしていて可愛らしい。
問題は、その周辺。動物がいた。
かっこいい狼のような動物が一匹と、子犬のような動物が一匹、そして女の子の頭の上には小さなドラゴン。そう、ドラゴンだ。ついにドラゴンまで来てしまった。
「あのあの! ここはどこですか!?」
「ここは……」
あ、クロが詰まった。まあどこと聞かれても困るよね。我が家としか言えないかも。
「ここ。わたし。いえ。おきゃくさま?」
「お客様なのかな……? なんかね、変な光があってね、それに触れたらぶわーって包まれて、ここにいたの!」
それがこっちへの転移らしい。変な光って、なんだろう?
でも、悪い子じゃなさそうだから、それは後回しにしよう。今は先に。
「クロ。自己紹介か、案内か」
私がそう言うと、クロがはっとしたように手を叩いた。
「じこしょうかい。わたし。クロ。よろしく」
「クロちゃん! ミリアはミリアです! よろしくね!」
ミリアちゃんというらしい。なんだかクロとは対照的な子で大丈夫か不安になるけど、クロはうんうんと頷いてる。大丈夫、かな……?
「この子たちはミリアのお友達! ウルとラキとフレル!」
ミリアちゃんが名前を呼ぶたびに、呼ばれた子が小さく一鳴きしてくれた。
ウルが見た目狼の子で、ラキが子犬、フレルが小さいドラゴン、だね。私は記憶力に自信があるわけじゃないけど、ちゃんと覚えてあげたい。どの子もかわいいし。
「どうぶつ。もふもふ。なでたい」
「撫でたいの!? いいよいいよどうぞ撫でて!」
ミリアちゃんが快諾すると、クロがそろりそろりと動物に、子犬のラキの方に近づいていく。その子が一番怖くなさそうだと思ったのかも。
おっかなびっくりとした様子で近づいて、ゆっくりと手を伸ばしてラキに触れる。ラキは特に警戒する素振りもなく、自分からクロの手に頭をこすりつけにいった。
「ふわふわ……!」
ふわふわらしい。もふもふなのかな。私もすごく触りたい。
そう思ったのが伝わったのか、ミリアちゃんが笑顔で私に言った。
「そこのお姉さんもどうですか? 今ならウルをもふもふできます!」
「えっと……。それじゃ、お願いします……」
私も前に出て、狼のウルの方に歩く。あ、そういえば、私は自己紹介してないね。
「その前に……。私は小夜。クロの姉です。よろしくね、ミリアちゃん」
「クロちゃんのお姉ちゃんですね! よろしくお願いします!」
うん。やっぱりこの子、すごくいい子だ。
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