新しいお家
「うわあ……。雰囲気あるなあ……」
「おー……」
私は大事な妹の手を握り、呆然とその屋敷を眺めていた。とても大きな二階建ての建物で、広い庭も完備されている。ちゃんと管理しておけば、きっと豪邸とも言える建物だったはずだ。
でも今は、誰も管理していない。手入れしていない。庭は荒れ放題で、建物の見た目は幽霊屋敷そのものだ。さすがは心霊スポットにまで選ばれた家なだけはある。
ここが私たちの新しい家になる。妹との二人暮らしだ。正直、心配なことはとても多いけど。
「おうち。おおきい。すごい」
きらきらとした目で家を見つめるかわいい妹。この子と一緒なら、きっと頑張れる。
私は妹の手を握って、門をゆっくりと開けた。
うわ、すごい音……。正直心が折れそう……、いや大丈夫いけるいける!
私は小森小夜(こもりさよ)。どこにでもいる中学三年の学生だ。成績優秀というわけでもなく、運動神経抜群というわけでもない。髪と目の色も日本人らしい色だ。少し長めの髪をローポニーテ―ルにしてる。
学校はもちろん普通の公立中学校。制服もよくある濃紺のセーラー服。私立と違って特徴もない。
そんな感じで私はわりと普通だと思ってるけど、妹は全然違った。
小森黒乃(こもりくろの)。小学五年生。平均よりも少し小さく、運動は苦手。でも特に勉強せずともテストはほぼ満点を取れるほどに優秀。長い黒髪で、愛称はクロ。
ただ、話し方が特徴的だ。言葉も少したどたどしくて、日本語難しい、とたまに言うほど。ちなみに正真正銘の日本人。ちょっと変わってるかもしれない。
でも、それよりも何よりも変わってるのは、魔法を使えるということ。
そう。魔法だ。比喩表現でも手品でもなく、魔法だ。気付けばいつの間にか使えるようになっていた、らしい。手から炎や水、雷を出せたりする。たださすがに他人と違うという自覚があるみたいで、家族以外には見せたことがない。
家族。私たちの両親。私たちは間違いなく両親から愛されていたけど、二人ともクロの魔法を知って、人が変わってしまった。明らかにクロを避けるようになったのだ。
いや、避けるとはまた違うかな。完全な無視。徹底的な無視。側にいようとも、クロをいないものとして扱っている。ご飯ですら三人分しか作らない。
私としては、クロは大事な妹だ。かわいいかわいい、世界で一番大切な妹。両親のそんな態度が許せなくて、私たちは家を出た。
ただ、当たり前だけど未だ義務教育すら終わってない子供二人で生活なんてできるはずもない。普通なら。
「いえ。いる? がんばる」
そうしてクロが用意したのが、この家だった。私たちが生まれるずっと前から放置されていたこの家を、クロは魔法で使えるようにしたらしい。認識をずらしたとかなんとかで、他の人はこの家をないものとして見てしまうのだとか。
家があることは知ってるけど、家に入ろうとは思えなくなる、だとか。なにそれ怖い。
まあ、そんなわけで。この家は私たちが自由に使えることになった。ほとんど犯罪みたいな気がするけど、どうせ誰も使ってないしきっと大丈夫。多分。
ちなみに、クロがこの家を選んだのは、この家を管理してる人と友達で、相談したら使っていいと言われたから、らしい。まともに管理されてないのにどういうことか分からなかったけど、きっと魔法でなんやかんやあったんだと思う。正直、よく分かってない。
いろいろと不思議な妹だけど、私にとっては世界でたった一人の愛しい妹だ。これからも守っていきたいと思ってる。
荒れ放題の庭を二人で歩いていく。庭からして本当に広くて、噴水まであったらしい。当然ながらその噴水も跡地みたいな状態だけど。
「おにわ。つくる。たのしそう」
「あはは……。余裕があれば、ちょっと手入れしてみたいね」
たくさん花を植えたり、可能なら噴水も修理とかしてみたいけど……。私にはそういう技術がないからなあ。お金もないから修理を頼むこともできないし……。でも、できればがんばりたいよね。
そんなことを考えながら歩いていたら、家の前にたどり着いた。もともとは白い建物だったみたいだけど、今は変な草が巻き付いていたり、ヒビがあったりと雰囲気がすごい。遊園地のお化け屋敷でもここまでじゃないと思う。
ドアの鍵は……かかってない。入れそうだ。
ドアをゆっくりと開けると、こっちもまた何かがきしむ音とともに開いていく。この音ですでに怖すぎて困る。修理とか、どうすればいいのかな。
そうして、家の中を見てみると。
「わあ……」
とても広いホールがそこにあった。大広間って言えばいいのかな。吹き抜けになってるみたいで、上にも広い。部屋の中央には大きな丸いテーブルがあるけど、足が折れてるみたいで傾いてしまってる。足下はガラスの破片とかが散乱していて少し、というよりかなり危ない。
その大広間の両側に二階に続く階段があって、階段の先の廊下はここからでも見えるようになってる。この部屋の左右と、階段先の廊下の左右にもドアがある。他の部屋に続いてるみたい。
大広間の奥にもドアがあるから、あそこも調べてみないとね。
「あいさつ。こんにちは」
「ん?」
そんなクロの声に視線を下げれば、クロが手を上げて挨拶していた。そんなクロの目の前には、なんだか白くて丸いもの。小さなお手々と尻尾みたいなものがある。とっても楽しげな顔もある。
「ぱけ!」
うん。うん。よし。
本物の幽霊屋敷とはさすがに聞いてないんだけど!? なんかデフォルメされたおばけって感じだけど、でもこれやっぱりどう見てもおばけじゃないかなあ!?
「くくく、クロ?」
「しょうかい。する」
クロがとても冷静だ。すごいよ、さすが私の妹だよ。でももうちょっと危機感を持ってほしい。
「こばけ。このいえにすんでる。かんりにん」
「へ……?」
もしかして、この家を管理してるっていうのは、このおばけのこと……? いや、まって、そういえばこばけって……。
「もうひとり。おばけ。あっち」
クロが指さす方を見る。階段の上の廊下、その中央。大きな白いおばけ。丸みを帯びたフォルムはそのままだけど、少し縦に長くなってる。
「ばけばけ!」
そんなおばけの鳴き声。鳴き声? おばけって鳴くの? いや、いいやもう鳴き声で。
おばけとこばけ。この二人……二匹? どっち? いや、まあ、うん。おばけとこばけが管理人ってことらしい。
クロはこの二人に許可を取ったってことだね。よく許してくれたものだと思う。なんだかすごく親しげだし、すごいな私の妹。いろんな意味で。
少し呆然としていたら、おばけがこっちに下りてきた。なんだか不安げな表情に毒気を抜かれてしまった。よく見るとなんだかとてもかわいいし。
「ばけばけ! ばーけ!」
うん。挨拶、かな? 手を差し出してくれてるし。握手、だと思う。私はちょっと笑顔が引きつるのを自覚しながらも、おばけの手を握った。
「よろしくお願いします」
そう言うと、おばけは嬉しそうに笑ってくれた。
それにしても……。おばけって、触れるんだね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます