第19話 重なる出張
「今度こそ二人でデートを」という目標も虚しく、デートプランが話題となってしまったことであらゆる施設が
「明日も出張?」
膨らんだ腹に手を当て
「社畜じゃあるまいし、キミと一緒にいる時間がどんどん削られてくよ」
「仕方ないわ。妊婦さんでも楽しめるマンネリ解消ツアーになっちゃったんだもの、少子化対策に目を向けるのは社長や株主だけじゃなくて国単位でしょう?」
「だからってなんで俺なんだ、特攻兵じゃないんだから国なんてどうだっていいよ。キミの出産に立ち会えなかったら毒薬を開発して試験段階で全員殺してやる」
顔だけ見ればただ口を尖らせて拗ねる美男子だが言っていることは洒落にならない。過激でもなんでもなく本当にやりかねないからだ。千鶴はこのままでは (胎児ではなく秀吾の) 教育によろしくないと思い、秀吾の手にクシャッと握りしめられている無残な企画書に視線を移して話題を逸らした。
「あら。今度は随分近いのね」
休職しているとは言え千鶴もしっかり室野観光に籍を置いているので情報漏洩ではない。したがって秀吾も全部ではないが千鶴がいつでも戻って来れるよう情報共有はしていた。
「まあね。最近グランドオープンしたブライダルホテルなんだってさ。マタニティーでもたまにいるじゃん、結婚式のあとにもなんちゃら式、って感じで出産前にまた式を挙げて記念撮影する人たち」
そういう彼らは結婚式を挙げていない。千鶴がまだ両親に伝えていないのだ。話題を出したものの二人の間に気まずい空気が流れたので秀吾もまた話題を逸らした。
「そ~いえば、ちーさんも明日、友達と会うんだっけ? (友達いたんだ)」
「友達、というほどではないのだけど、せっかくこっちに来たから久しぶりにお茶でもしようって誘われたの」
「……それって男?」
「そんなわけないでしょう? (シュウくんと同類にしないでほしいわ)」
お互いに失礼なことを腹のうちで考えていながらも千鶴はこのあとの秀吾の笑顔を目にして考えを改めることにした。
「そーだよね! なんか時々わけもなく不安になるんだよ、でもいつもこうして安心するんだ、俺ってちーさんだけには弱いみたいだ」
幼馴染の
――(ピュアなクズってこの世に何人いるのかしら)
ピュアなクズなど存在しないがそのように思えるほど秀吾は本当に何も考えていなかった。
そして翌日、秀吾は一泊の出張、千鶴は友達 もとい同級生に呼び出されて外出をし、
その先で遭遇するのだった。
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