第36話 リキ
月明かりの下でトキは馬を止め休憩することになった。
先に彼が降りると手こずる私の身体をそのまま抱えて馬から降ろしてくれる。
そうして二人草原の上に座ればトキは持っていた小さなバッグから何かを取り出した。
「…ん」
『…いいの?』
そのバックから取り出した物は真っ赤なりんごだった。
トキはそれを二つ取り出すと一つを私に渡した。
貴重な食糧だろうに、こうして分けてくれる彼に本当に心から感謝をする。
「…どうせもう後戻り出来ないんだ。ここまで来たらオレもアンタと共犯者になってやるよ」
『…だから犯人は僕じゃないって』
「…そうだとしても、世界がアンタを悪者だと言えばそれは真実になっちゃうからな」
シャクっと音を立ててトキはりんごを口に含んだ。
私はそんなトキを見ながら持っていたりんごにかぶりついた。
甘いりんごの味が口の中に広がる。
何故だろう、あんなに悲しいことが起きたというのにお腹は空くんだ。
『…どうして、こんなことになったんだろう』
「…?こんな風にアンタが悪者になったのかって?」
『…どうして、罪のない命が奪われるんだろうって。どうして人は誰かに責任を押し付けたがるんだろうって』
「…そうすることでしか自分の存在意義を表せないからだよ。無くした命は戻らないし、無くした人は二度と戻らない。けど、アンタは生きてる」
『…生き残って、良かったのかな』
「自信持てよ。もうアンタには味方がいるんだから、ここにさ。巻き込まれて正直最悪だと思ったけど、まあたまには刺激ある人生も悪くないし」
そう言ってトキは食べ終えたりんごをその場で燃やすと両手を後ろの地面について空を見上げた。
彼のサラサラとしたオレンジの髪が風と共に靡き耳についた十字架のピアスが輝く。
その姿を見て、私は膝を抱えて指についた黒い指輪を見つめた。
『…大切な人を、置いて来ちゃった』
「?その指輪、何?アンタ結婚でもしてたの?」
『違うよ。これは誓いの指輪。僕を…育ててくれた人から貰った大事な物なんだ』
「…誓いの指輪、聞いたことあるよ。それがあるならアンタは尚更生きなきゃだね」
『…そう、だね。その人のためにも、生きなきゃ。生かしてくれた人のためにも、生きて生きて生き延びて、絶対に真実を見つけてもう二度とあんな悲劇を起こさないようにしなくちゃ』
そう言って私はそっと瞳を閉じた。
いつの間にか雪は止んでいて、ここにはまったく雪は積もっていなかった。
背中にあった大きな岩にもたれかかると、私は流れるように眠りについたのだった。
「…おやすみ」
眠る直前、トキの優しい声が耳に響いた。
私は、リキ。
リアネス国の王子であり、魔女アンナの息子。
心に誓った。
もうここに"ユキ"は存在しない。
僕の名前はリアネス国の王子、リキだと。
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