第35話 白馬に乗って

暗い森をトキに引っ張られながら走り続ければ、やがて彼が立ち止まってその場で指笛を鳴らした。


その途端に馬の鳴く声が聞こえ一頭の白い馬がトキ目掛けて走ってきたのだ。



『!?トキ、馬呼べる魔法持ってるの!?』



「魔法じゃないわ馬鹿!それより今はとにかくさっさと乗れ!!」



しかしそんなことを言われても馬になんて乗ったことない。

私より全然背の高い馬は月光に照らされ輝いていた。


どうしようと思いながら動けずにいると、耳元で再びため息が聞こえトキが馬に飛び乗った。

華麗なその身のこなしは見ていて惚れ惚れする。


そうして白馬に乗ったトキはその上から私に手を差し伸べてきた。



「ほら、掴め!!」



『う、うん!』



森の向こう側からは人々の怒鳴り声が聞こえる。

民の怒りが、近くまで迫っていた。


私は差し出されたトキの手を掴むとそのまま馬に乗った。

後ろから私を包むように手綱を握ったトキは、やがて森の中を馬と駆け抜けていった。




「ったくもう巻き込まれたくなかったんですけど!?」



『ごめんって!!でも僕を放置することだって出来たのにトキは助けてくれたじゃん!!』



「あいにく困ってる人は放っておけない性格でね!それで損したのは初めてだけど!!」



『損したって決めつけるのはまだ早いよ!僕たちならやれる、守護神を見つけて女神様を救おう!』



「はっ、ったく付き合ってやるよ!どうせさっきもう既に顔は見られたんだし、オレも賞金首にされてんでしょ!」



『…生きよう、絶対君を死なせないから』



「ほんとだよ!責任取れよ!!」



そう言い合いながら、トキと私は馬で森を駆け抜けた。

優しい彼の姿に私は覚悟を決めて前を向いた。


もう絶対に、失いたくない。


私はトキを守ってみせる。



そう強く祈った。


 






















「よしいいぞ、引き剥がせて来たんじゃない?」



『ここはどこ?エスティマ国ってどのくらいで着くの?』



「ここはまだリアネス。オレの愛馬は速いからな。夜が明ける前にはエスティマ国に着くよ」



『そうなんだ!ありがとねトキ。あと、お馬さんも』



「マジで一生感謝しろよな」



『勿論』



「ねえ王子様、これ呼びずらいからリキ様って呼んでも?」



『…うん、リキで、いいよ』



暗闇を駆け抜けて行く中で後ろからトキがずっと話しかけてくれていた。

彼の言う通りこの白馬の足は本当に速くて、頬に当たる風が痛いくらいだった。


もし本当にリキ自身がトキに出会っていたら、彼らは友達になれたのだろうか。

でもあの子は人が苦手なようだったから、トキとは出会えてもいなかったかもしれない。


そんなことを思いながら走っていると、やがて広い広い草原へと出た。


建物が一切ないこの広い草原は、高くに位置する月光の光を浴びてキラキラと輝く。



『わぁ…綺麗…』



「ここ、オレも気に入ってるんだ」



広い広い空には無数の星が瞬き流れ星が流れている。

あまりに美しいその空を見て私は目を輝かせた。



広い草原の中を私とトキは2人きり、長い間馬でかけて行った。







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