episode2ー悲劇の逃亡ー
第30話 救いの手
目を覚ますと、そこは城外だった。
後ろを振り向けば城は炎に包まれ赤に姿を変えていた。
私は頭を押さえながらもさっきのことを思い出して慌てて城へ戻ろうとした。
『!アーキル!!』
確か、さっき意識を失う前彼に抱き抱えられた。
何故アーキルがいたのかは分からないけれど、そんな彼が今ここにいないことに気づいて慌てて立ち上がったのだ。
『…っ!』
しかし脚を挫いたのか激痛で思わず膝をついた。
その瞬間ふと目に映った黒髪に、私は目を見開いた。
もしかして、さっきアーキルに会った時、私は既にユキに戻っていたのか。
この漆黒の長い髪は私であるという一番の証明である。
だからさっきアーキルは私をユキと呼んだのだ。
いつこの姿に戻ったのか分からない。
出来れば夢であって欲しかった。
けど、城が燃え兵士やメイドたちが死んでしまったのは現実でありこの目で見た確かなものだった。
『っ…』
なんで。どうして。
こんなはずじゃなかった。
私が、あの小屋から出たから?
全ては、ルキアの言いつけを破ってあの小屋を出た私のせいなのかもしれない。
『…っ、ごめん…なさいっ…ごめ』
もし私が小屋から出ていなかったら、こんなことにはならなかったのだろうか。
いくら自分に問いかけても誰も答えてはくれなかった。
しかしその瞬間
「い、いたぞ!!悪魔だ!!」
「魔女め!!!」
「貴様のせいで!貴様のせいで国王陛下は!!」
「ああ神よ、この悪魔にどうか制裁を!!」
「この、人殺し!!!!」
「私の夫はリアネスの兵士として民に尽くしてきたのに!!お前のような悪魔がいるせいで!!」
「貴様は数年前にロレンス国王に殺されたはずだろ!!
何故生きてる!悪魔!!!」
「殺せ!殺せ!!!!!」
『…え』
悲しむ暇もなく、私は気づくとリアネスの民たちに囲まれていた。
罵声と共に民たちの投げた石が当たる。
小さくても頑丈なその石は私の頭に当たり血を流していた。
魔女。
悪魔。
数年前に、殺された?
『み、皆…私は敵じゃ、ない…』
「黙れ!!この人殺し!!実の父を殺しエスティマの民も巻き添えを食らった!!」
「ユナ様やアーキル様もいたというのに貴様だけが城から出て来た!!」
「数年前にロレンス国王に捨てられた恨みでこんなことをしたのか!!」
「アーキル様もユナ様も結婚し漸くリアネスに平和が訪れそうだというのに!!貴様は!!」
そう言って民たちは私に鎌を振り翳した。
石が当たり血は止まらない。
罵声と共に、後ろでは城が燃え続けている。
人殺し。
私は、人殺しなの?
それに、アーキルやユナ様もまだ城にいたの?
二人は?無事じゃないの?
もう、何もかもが分からなくなった。
民の一人が炎の魔法を私に放った。
極小魔法ではあるものの、その魔法は私を貫くには十分だった。
『ぐっ…』
「貴様など炎に焼かれて死ぬべきだった!!」
「悪魔め!悪魔悪魔悪魔!!」
…ねぇ、ユニコーンさん。
私、どうしてこんなことになってるの?
私はただ皆と笑い合い、手を取り合い笑顔で過ごしたかっただけなのに。
「双子のリキはどこへ行った!!」
「あのクソ生意気な餓鬼のことだよ!!」
「やはり悪魔のフローレス家の子供にろくな奴などいないな!!!!」
「殺せ、魔女は確実に今ここで殺してやる!」
「おい!双子の男の方も探せ!!」
「このリアネスの災いの元が!!」
風が私の頬を擦り、ポタポタと血が流れる。
石が私の頭に当たり、どこからか血が流れる。
炎が私の身体を貫き、口から血を吐く。
苦しくて苦しくて堪らない。
民の怒りは、今全て私に向けられていた。
そんな時だった。
「やめて!!!!」
『っ!!』
目の前に、よく知る女の子が立っていた。
ボロボロになったメイド服を着て、その三つ編みは解けて髪はくしゃくしゃになっている。
そこに立っていたのは、あのアリアだった。
「貴様黒髪の穢らわしいアヴァースか!!」
「噂に聞いていたがまさか同じ黒髪の悪魔を庇うとはな!!!」
「貴様諸共殺してやる!」
「アヴァースが一人二人死んだところで何も世界は変わらないからな!!」
『…アリア』
彼女は、私のことを知らないはずだ。
ユキとして彼女には会っていないから。
それなのにどうして。
悪魔と呼ばれる私を庇うのだろうか。
「…ユキ様!!!逃げて!!遠くへ!ひたすら遠くへ行くのです!!私のことは気にせず逃げてください!!!」
『ど…して私の名前を』
彼女が私を振り向くと、そこには片目を瞑ったアリアの姿があった。
頭からは出血していて、明らかに今にも倒れそうな状態。
そんな状態で彼女は私の名前を呼び逃げろと叫んだ。
「…昔、殿下に聞いたことがあります。どうして最初は黒髪の私を見ても嫌がらなかったのかと。
そしたら殿下が言ったんです、幼い頃に亡くした大事な片割れが綺麗な黒髪なんだと」
『っ』
「…ユキ様、あなたは生きていたのですね。殿下はずっと貴方の帰りを待っていました。そして貴方と話して気づいたのです、この方は殿下ではなくユキ様なのだと。…殿下の言う通り、とってもお綺麗です」
そう言って、アリアは優しく微笑んだ。
声を失った私はやがてアリアが放った謎の魔法に包まれそのままどこかへと飛ばされた。
薄れゆくアリアと民たちを見て声をあげて叫べば、彼女は最後に笑って言った。
「そういえば私、アヴァースではないんです。
転移魔法を得意とするジザーズなんですよ、凄いでしょ?」
そうして私は、その場から消え去った。
そうしてたどり着いた場所は、私がいつも過ごしていたあの小屋だった。
「…ユキ、おかえり」
そしてそこには、私の格好をして微笑むリキが立っていた。
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