第28話 悲劇の始まり

結婚式はエスティマ王国と呼ばれる国で行われると聞いた。

確かエスティマ王国とはあの女神様がいる国だ。


そんな場所でアーキルとユナ様は今日結婚をする。

あまりに突然の出来事に未だに信じられなかった。



「いいか、今日の結婚式にはエスティマ国のカルロス国王がいる。それに当たり前だがロレンス国王もいる。下手に喋らず大人しくしてろよ」



外に出る前にルキアはそう言って私に厳重な注意を促した。

そのことに頷けばルキアは約束だからなと更に強く言って来た。


他国に行くのは初めてだ。

リアネス国自体まだ慣れていないというのに他国に行くなんて何だか変な感じだった。



『…ねぇルキア、ユナ様の相手の人ってどんな方なの?』



ふとアーキルのことが気になって私は部屋を出ようとするルキアに問いかけた。

相手がアーキルだということはルキアは勿論知っているはずだ。


なのに一度もルキアからアーキルの名を聞いたことがなかった。


アーキルがエスティマ王国の王子だと言うことはなんとなく分かっていた。

だってユナ様がエスティマ国の王子との結婚が嫌だと何度も何度も言っていたから。


初めて会った時は確かに私はアーキルのことを王子様のようだと思っていた。

けれどまさか本当の王子様だったなんて思わなかったんだ。


アーキルについて何も知らない私は、せめて彼のことを少しでも知りたかった。



「…ユキは別に知らなくてもいい」



しかしルキアに彼のことを聞くとこうしてはぐらかされてしまった。

ルキアはいつもすぐに話を逸らす。


またもどかしい気持ちになりながらも、これ以上追求したら彼に疑われそうでやめた。








部屋を出ると二人の兵士が頭を下げて来た。

この二人は昨日私が部屋から出たのを知っている。

けどルキアには何も言わず黙ってくれていた。


そんな二人に見送られて城の階段を降りて行けば、一人のメイドが目の前へやって来てお辞儀をしてきた。



見たことのないメイドだ。

茶色の髪を一つに束ねたそのメイドは頭を下げながら口を開いた。



「ルキア様、国王陛下がお呼びです」



「国王が?…分かった。殿下、部屋へ戻って待っていて下さい」



メイドは頭を下げながらそういうとルキアが去るのを見届けてから私に一礼してから階段を下っていった。


何か緊急を要することでもあったのだろうか。

そんなことを思いながら私はルキアに言われた通り来た道を引き返して部屋へ戻ろうとした。



















その時だった。
































ガッ…













『っ…』






























後頭部に鋭い痛みが差し、私はそのまま階段の上に倒れ込んだ。


















後ろを振り向こうとしても、あまりの激痛に私はついに意識を失った。


















































暗闇の中で目が覚めた。


いや、夢を見ているのかもしれない。






















金のユニコーンが寄り添いその蹄で私の身体を揺さぶっていた。












起きろと、そう言われている気がして私は目を擦りながらゆっくり起き上がった。






















金のユニコーンは蹄を鳴らし何かを私に伝えようとしている。


けれど言葉が分からないからただぼーっと首を横に傾げていた。



















『…また何か悲劇でも見せるつもり?』













そう言って伸びをすれば、ユニコーンはまた蹄で私の身体をど突いた。











『いたっ!痛い痛い流石に痛い!』


















夢なのに痛みを感じるなんておかしな話だ。
















けれどユニコーンのその異常な焦り具合を見て私はだんだん何かがおかしいと気づき始めた。


いつもならユニコーンは私が起き上がるとさっさと先を歩いて行ってしまうのに、今はただ私の身体を揺らしたり背中を押してどこかへ行けと促しているようだった。



『…ユニコーンさん?』



私は急かされるように立ち上がると、ユニコーンのその小さな攻撃から逃げた。


立ち上がった私の背中に頭突きを食らわしたユニコーンの角が刺さり地味に痛い。


されるがまま押されるがまま歩けば、ユニコーンがパッと動きを止めた。




そうして後ろへと下がり脚で地面を蹴ると、そのまま勢いよく私に突進してきたのだ。


















『!?ま、待って!?ままま待っ…!!』

















やがて、私はなすすべもなすそのままユニコーンからの頭突きを食らった。


















その瞬間に身体がふわっと浮き、私は宙を舞った。


そして叫ぶ暇もなく、私は深い深い闇のドン底へと落ちて行った。











































『わぁぁぁぁぁあ!!!!!』

























そこで目が覚めた。















地面に叩きつけられるのと同時に目が覚めた私は、そこで絶句することとなる。






































出来れば、これがまだ夢であって欲しかった。



























さっきまで眺めていた父親の肖像画は燃え尽き、目の前には炎が広がっていた。















『!?ゲホッゲホッ!!!』

















階段で倒れたままの私は、その光景に目を疑った。















前を見ても後ろを見ても炎に包まれているこの場所が、現実だったからだ。





















私は荒い呼吸を繰り返しながら、その炎の中で床に這いつくばった。








































これは、まるで悲劇の始まりのようだった。












































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