第22話 誓い

私の言葉にルキアは黙ってこちらを見つめ続けた。

その瞳からは、無理だ、やめておけという感情が伝わってくる。


けど私は引き下がらなかった。

女神様が弱ってしまっている今、誰が彼女を救えるのだろうか。


例え私が悪魔の子だと言われようと、私自身が既に悪魔なんだとしても。

私は心の底から女神様を救いたいという気持ちがあったのだ。





そこでふと思い出した。

あの夜、アーキルは私を見ても何も言わなかった。


きっと私のこの姿を見れば皆消しに来るだろうに、アーキルは何も言わずただ私をあの雪の中から救ってくれたのだ。


それに女神と悪魔の話をする時も、彼は確かに悪魔の名前だけは言おうとしてやめていたようだった。



もしかすると彼は私が魔女の子だと知っていたのではないかと、そう思った。



それなのに私を殺さずむしろ助けてくれたのはどうしてなのか、疑問は増すばかりだ。





「…駄目だ」



『ルキア、私は本気なの。女神様を救うためには1人でも多くの人が彼女に協力しなきゃ』



「女神様のために守護神を集める人々は世界中、山ほどいる。それでも本物の守護神を見つけ出せていないんだ、そんな中でお前に何が出来るって言うんだ。雷と時の魔法使いに関してはどの国にいるのかも、存在しているのかも分からないんだぞ」



『…母が女神様と守護神の絆を引き裂いたのなら、引き裂いた者の血を引くものが自ら出向き守護神の居場所を見つけるべきよ』



「…皆手は尽くしてる、けど本物が見つからないんだよ。本物だった守護神のほとんどは闇に堕ちた。そんな奴らを、お前はどうやって救うんだ」




その言葉に、私はハッと顔をあげた。

そうだ、女神様の守護神は全員で5人。


炎、風、水、時、雷だ。




私は夢の中で、炎に包まれた"誰か"を見た。




もしかして…炎に包まれた"誰か"は、闇に堕ちてしまった本物の守護神…?











だとすれば、もしかしたら私は夢を頼りに彼らを救えるのではないか。














そう思って目を見開いた。










私はルキアの手を握ると、彼の瞳を見つめてゆっくりと口を開いた。










『大丈夫。私なら絶対救える。私には、導いてくれる光があるから』



















夢で会うあの金のユニコーン。







あの子は、もしかしたら守護神たちを救う"鍵"になるかもしれない。













そしてあの光る蝶々も。






















何故だか、きっとこの先も私を正解の道へと導いてくれる気がした。























「けど」













『私には、絶対私を守ってくれるあなたがついてる。何があっても、ルキアは私を守ってくれるでしょ?』






















そう強く彼に言えば、ルキアは目を見開いて私を見つめた。




僅かに彼の瞳がキラキラと揺れたのを、私は見逃さなかった。














そうでしょルキア。




















だってあなたはいつだって私の味方でいてくれた。























『…私を今まで生かしてくれたあなただから、一番信頼して言ってるの。お願い、私の願いを聞き入れて』



















今までは外に出るはっきりとした理由が見つからなかった。











けど、今の私の心にははっきりとした理由がある。















私がやるべきこと。


























それはきっと、女神様を救うことなんだ。























外の雪は止み、暗闇には光が差し込む。










窓には霜がつき、朝を伝える陽が差した。
















「…お前を、死なせる訳ない」
















ルキアは差し込んだ光の中、その場に跪いた。
























思わず今度は私が目を見開くも、やがてルキアはそのまま私の手を取り口を開いた。
















光はルキアのその伏せたまつ毛を照らし輝かせる。











「このルキアの命は貴方の物。いついかなる時も、このルキアが貴方をお守りすると誓いましょう。

そして…貴方の命尽きる時は、この命もお供させていただきます」














そう言ってルキアはそっと私の手の薬指にキスを落とした。
















外の光は誓いを見届けるように輝き、やがてルキアがキスした場所には黒色の指輪が現れた。


それと同時に彼の指には、金色の指輪が現れた。





















『っ…』

















現れた黒い指輪に私は目を見開いた。


こんな物初めて見たからだ。


















「…誓いの証だ。これで、お前がもし死ねば俺も指輪の誓い通り死ぬ」















『そ、そんな重い約束なんてしなくていいのに』














「お前が言ったんだろ、守って欲しいって。指輪の誓いは絶対だ。俺はお前から命令されればその通りに動く。お前が人を殺せと言えば殺すし、お前が俺に死ねと言えば俺は死ぬ」






『や、その、そんな誓いを結ぶほど?私はただルキアに守って欲しいだけであって』







「俺が本当にお前を守ると信じてもらうためだ。

この約束があればお前も安心出来るだろ?

それに、お前の指輪が消えない限り俺は生きているってことだ。何が起きても、離れていてもお前を守る者はここにいるという証明にもなる」















まさかルキアがここまで本気で私を守ろうとしてくれるとは思わなかった。



けど今の言葉に私は酷く安心した。



きっと旅に出れば、いくらリキだったとしても罵声や偏見は当たり前だろう。


そんな中でルキアだけは絶対に側にいるという安心感があれば私は何だか無敵でいられる気がした。







『…ありがとう、ルキア』









「ああ。お前を守るのは、俺の役目だから」















そう言ってルキアは私の髪を優しく撫でた。






















彼が真実を伝えてくれたおかげで、私の目指すべき場所を見つけた。










何があったって、ルキアとなら何でも乗り越えられる。












そんな不思議な安心感が、私の指に宿った。


















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