第19話 側にいて
眠っているルキアのせいで動くことが出来ない私はベッドに座ったまま窓の外を眺めた。
真っ暗であの広い青空は見えなくなってしまったけど、未だに雪が降り続けるお陰で少しだけその暗闇は光を帯びていた。
パチパチと暖炉の火は燃え続ける。
私はなんとなく手持ち無沙汰になり目の前で無防備に寝るルキアの柔らかい髪をそっと撫でた。
こうして寝ている姿を見ると、あんなに大人な彼がまるで小さな子供のように見える。
私は少し微笑みながらも彼の頭を撫で続けた。
『…』
そうして彼の髪に指を絡めていると、いつも隠れているルキアの耳に小さな黒いピアスがしてあるのを見つけた。
まさかこんなところにピアスをつけていたなんて。
そんなことを思いながら私はジッと彼のピアスを見つめた。
ユナ様に貰ったんだろうか。
こんな近くで見なきゃ気づかない。
そうしてジッと眺めていたら、突然目の前に金の粒が舞った。
『…!!』
何かと思い顔を見上げれば、そこにはあの時出会った金の蝶々がいたのだ。
あの子を追いかけた先で私はアーキルに巡り会えた。
もう二度と出会えないかと思っていたのにまさかまた出会えるなんて。
私はそう思って蝶々を見つめそっと片手を伸ばした。
金の蝶々は私の差し出した指先に止まると、少しだけ羽を羽ばたかせてその場に留まる。
あまりに綺麗なその羽は輝く透明なガラスにも見えた。
"ーーけ、気づけ"
『…ぇ』
ふと、誰かの声が聞こえた気がした。
私は誰か他の人がここにいるのかと辺りを見渡す。
しかしこの場所には、ルキアと私しかいないのだ。
小さく声を上げると、突然ルキアが目覚めて起き上がった。
驚いて目を開くも、ルキアは少し周りを睨むとこちらを見て首を傾げた。
「…何かあったのか?」
『何もないよ、何かあったとすればルキアが突然起き上がったことかな』
「いや、お前の声がしたから…」
『私の?え、今の私の小さい声聞こえたの?』
「ああ。何かあったのかと」
『何もないよ』
何故、咄嗟に嘘をついてしまったのだろう。
私はいつの間にか消えてしまった金の蝶々の姿を少しだけ探して俯いた。
もしかしたらまたアーキルに会えるかもしれないと期待したからだ。
けど、誰かの声は確かに聞こえた。
しかも、前にも同じようにこの声を聞いたような気がする。
そう、あの小屋にいた時も。
この話をルキアにしようかと悩んだものの、私は黙っていた。
「なあユキ。俺に隠し事はするなよ」
その言葉に、小さく心臓が跳ねた。
まるで私の心の中を読まれたような気がしてそっと頷いた。
彼に嘘をつくなんて、私はどうかしてる。
『何もないって。信じてよ』
「ならいいんだ。…ここにいてくれ」
ルキアはそう言って、向こうを向いた。
何だかその後ろ姿が悲しそうで、私はまた彼のその髪に指を絡めた。
『…どこにも行かないよ、私はここにいる』
「…ああ、お前は確かにここにいる」
そうして私たちは静かに眠りについた。
小屋に戻らなくてはならないのに、何故か今はただこの場でルキアと一緒に目を瞑っていたかった。
時計の針は、22時1分を示していた。
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