episode1ーリアネス国の王子ー
第11話 男装
心臓がバクバク音を立てて鳴り止まない。
まさかルキアに見つかるなんて思わなかった。
小屋を勝手に出てしまった事、そして勝手に外へ行きアーキルと出会ったこと。
どう説明すればいいのかと頭がパンクしそうになりながら私は彼を見つめた。
けど…
彼は今、私のことを確かに"殿下"と呼んだ。
そして私は今、"リキ"という人間なのだ。
もしかするとルキアに気づかれてない?
その可能性を信じ、私は何か返事をしようと口を開いた。
『っ…』
けれどそこで、リキに言われたことを思い出し口を紡ぐ。"無口でいい"と。
彼からそう言われていたことを思い出し、何も言わずに彼の元へ近づく。
するとルキアはすぐに背中を向け、足早に先を歩いてしまった。
何だか、心なしか彼の瞳に光がない気がしていつもの信頼するルキアの背中を見つめているはずなのに、どこか距離を感じて少しだけ寂しい気持ちになりながら後をついて行った。
森の中を暫く歩くとさっきまで降っていた雪が段々と止んできて空には陽が出て来た。
その眩しさに目を細め、私は彼が歩いた足跡を踏みながら歩いた。
ルキアってこんなに足が大きかったんだ。
私とリキは背丈も同じくらいだから、靴のサイズもぴったりだった。
ルキアがこちらを一切振り向かないのをいいことに足跡を辿る。
一歩一歩もルキアと比べると全然違うみたいだ。
そうして足元だけを見て歩いていたら、目の前を歩くルキアが突然立ち止まった。
一定の距離を保ちながら歩いていた私はルキアが立ち止まったのと同時に一緒に立ち止まる。
そうして彼の様子を窺っていれば突然ルキアがこちらを向いた。
そのことに思わず姿勢を正して彼を見る。
変なことをやっていたからバレた?
ルキアは背中にも目がついてるの?
そんなことを思いながら冷や汗を流し固まる。
ルキアの鋭い目に射抜かれて、何故だか少しだけ恐怖を感じた。
何か、何か言った方がいいのだろうか。
そう思いながらハラハラしていると、やがて私の背後から数人の足音が聞こえて来た。
その音に私も後ろを見れば、そこには兵士の格好をした人たちが集まってきていた。
そして私を見るなり皆すぐに畏まると丁寧にお辞儀をしてきたのだ。
「で、殿下、ご無事で何よりです」
「お怪我は…ありませんでしょうか」
皆口々に言うも、何故か怯えている様子だ。
それに心配をしているにしては皆一切こちらを見ない。
そのことに不思議に思いながらも小さく頷けば、やがて彼らは顔を上げた。
「今度は殿下から目を離すなよ、行くぞ」
そして先頭にいたルキアがそう言うと、兵士たちははい!と返事をし私の周りを囲んで歩き出した。
何だか、こんなに周りに大勢いると緊張してしまう。
私たち一行はルキアを先頭に森を歩き続けた。
その間彼がこちらを振り向くことは一切なかった。
『…』
兵士に見張られているのでルキアの足跡を踏むことも出来ず、ただ皆無言で歩き続けた。
長い間森を歩き続けると、やがて前方が開けてきた。
木々しかなかった森を漸く抜けたらしい。
積もった雪も段々と減りやがて地面がコンクリートに変わると小さな家がいくつか見えて来た。
可愛らしい赤やオレンジの屋根が特徴的なそんなお家だ。
初めて見るその家に内心はしゃいで見ていれば、その家の主らしき住人たちが私を見るなり持っていた物を落としお辞儀をしてきた。
そんなに慌てるようにお辞儀しなくてもいいのに、住人たちは皆同じように頭を下げる。
羊や牛の世話をしていた親子は私を見ると深々と頭を下げた。
母親らしき人は幼い娘に無理やり頭を下げさせている。
なんで、そこまで。
下手に私にはどうすることも出来ないので、小さくお辞儀を返すと後ろ髪を引かれる思いでその場を去った。
しかしある家を通り過ぎる時、お辞儀をしている住人の誰かの話し声がこそっと聞こえた。
「…悪魔の子供のお通りだ」
「しっ、聞こえる。バレたら殺されるよ…」
「魔法も大して使えない癖に偉そうな態度しやがって」
「…ムカつく、早く消えればいいのに」
「…あれが王子だと思うと反吐が出る」
『っ……』
その、あまりに酷い言葉に私は反応をしないようにただ前を見て歩いた。
ルキアの背中を見ればこの気持ちも少しは和らぐと思ったからだ。
しかしルキアはこちらを見てくれることはない。
その背中を見つめても、何故か酷く遠くに感じて前よりも孤独な気持ちになった。
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