第3話
1時間ほど経過しただろうか。
涙を隠すように口元より更に上げたマフラーを外し、男は黒尽くめの服から薄汚れた宇宙服に着替えた。
胸に灯るのは眩い恒星のような希望ではない。
ただ宇宙に広がる真の暗闇のような絶望感でもない。
…だって今から赴くのは、それこそチープな言葉だが無限の可能性を秘めた宇宙なんだから。
『いくらお前が宇宙飛行士だからって、そんな…一人で行く必要ないだろう』
『そうだ!お前だって知ってるだろう、宇宙とここの時間の流れは違う。例え戻ってこれたとしても、何も残っていない可能性があるんだぞ』
宇宙に存在する、未知の技術なら或いは。
この滅びに向かう星を一から再生させる御業が見つかるかもしれない。
そんな戯言を残したお偉い方は、その三日後に滅びゆく星の巻き戻らぬという専門家の発表に絶望し、眠りの殻へと家族と共に閉じこもった。
他の者も同様だ。
滅びゆく星に絶望しながら暮らすより、幸せな夢を見ながらいつかの終わりか始まりを待ちたいと同じ選択を選び取った。
唯一、20数年を過ごした悪友共だけは最後まで一緒に宇宙に飛び立つと言ったが…
「悪いな。この宇宙船は一人用なんだ」
男は再び溢れた涙を隠すように、ヘルメットをぎゅっと深くまで被った。
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