第2話

雪の積もった道を10分ほど歩き着いたのは、研究所と呼ばれていた、くすんだ白の建物だ。


有名建築家が設計したということもあり、円形状の建物は一見するとお洒落だが、人の気配が無くなった今では過去の残穢に過ぎない。


中に入ると、まだ暖房設備が生きているお陰でほのかに暖かった。


その暖かさで思い出した…自分は寒さが嫌いなんだ。


『おい見ろよ、雹だぜ』


『寒い、雹は分かったからその開けた窓を閉めてくれ』


病院を思わせる無機質な廊下。


歩けばキュッキュッと音は鳴るが、それ以外の音や声は一切聞こえてこない。


そこには静寂だけが広がっているはずなのに、何故だろう…まるで走馬灯のように蘇る思い出が溢れて止まらない。


無意識にぎゅっと胸を抑え、呼吸を整えた先。


開かれた扉の先にあったのは無数のポッドが横たわる、霊安室を思わせるような部屋だった。


男は一番奥に横たわったポッドに身体を預けるような形で座ると、黒いマフラーを外さぬまま、ぽつりぽつりと文章にもならない言葉の欠片を紡ぎ始めた。


『絶対に』

『約束』

『今日』

『雪』

『楽しかった』

『星』

『一緒に』


「絶対に見つけてくるから。何としてでも帰ってくるからさ…」


また帰ってきたら、何も無い星になったけど適当に遊ぼうぜ、昔みたいに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る