無名氏野ねむはもう存在しない。《sideねむ》
……。
うるさい!
鳴り響く電話音にご機嫌斜めになりながら、布団から抜け出し、乱暴に止める。嫌々ながら確認すると相手はマネージャーだった。いやそれは正しい表現とは言えない。
元マネージャーと言った方が良い。もう配信者は引退したのだからもう電話は掛かって来る筈が無いと油断してた。連絡先を消さなかった私にも非があるとは言え、こんな日が出てる内に電話なんてかけないで欲しい。こちとら昼夜逆転してるんだから朝の八時にかけられても困る。
「"はぁ"い"、お早うゴザイ"マス"」
酷い声だ。そう自分の喉から出た声にそう反応を返す。まあ配信でも無いし、良いや。そっか、配信なんてもう気にする事は……
『おはよう、ねむチャン♡元気だったカナ?オジサンのオジサンはいつも元気だよ‼️ナンチャッテネ!ジョーダンだよジョーダン。オジサンの冗談はねむチャンには少しキツかったカナ。ゴメンネ』
「……はぁ、えっと『変人は自分が変な事には気づけない』でしたっけ」
『……OK。んじゃっ、改めてお早う。まじでさ、コレ辞めない?いくら配信者のプライバシー云々って言っても俺の精神が持たないんだけど。毎回別々の配信者の連絡でコレしてる俺の身にもなって?』
「いやぁ、しょうがないじゃないですか罰ゲームなんだからぁ」
この人は私が所属している事務所のマネージャー。ウチの事務所には"配信者のプライバシー管理を守る為"と言う
「で、私に何の用ですか?私はもう辞めた筈ですよ。だから無名氏野ねむはもう存在しない」
『だったら何で、さっきのパスワードを答えたの?そんなモノ知りません。で通せば良かったじゃん』
つい、いつもの癖で答えてしまっただけだ。だからそこにあんまりツッコまないで欲しい。
『……本当はさ、戻りたいんでしょ?』
「ッ……!そんな簡単に戻れたら私だって苦労はしませんし、そもそも辞めませんよ」
私だって本当はもっと配信をしたかった。物真似をしたかった。人を楽しませたかった。でもそれが叶わないのが現実だった。
「そんな事言う為に電話かけて来たのなら、今すぐ切りますよ?私は暇じゃないんですよ」
イライラして、つい声を荒げる。そもそも起きたてで頭も回ってないし、とてつもなく眠い。
『あーその分じゃ知らないみたいだね。大変な事になってるの』
「大変な事?」
思わずオウム返しをしてしまった。何だろう。
『SNS見てごらん?君の事で皆大騒ぎしてるから』
そう言えば卒業と一緒にSNSを開くの辞めてから初めてだ。今更。皆辞めたのに気づいたのかな?
こうして私はエゴサをしてすぐ、一つの動画に辿り着く。物真似Vtuberが物真似されている不思議な動画を。
そして数時間後、私はその人と会う事になり色々な事が起きるんだけど……まあそれはまた今度の話。
配信者 無名氏野ねむは◾️人いる。 カケラ @kakera171
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