配信者 無名氏野ねむは◾️人いる。
カケラ
無名氏野ねむは配信者活動を辞めた筈だった。
「よし、こんなもんかな」
あー。あ、ああっとマイクをチェックする。うん良さそう。初めての配信。なのに、絶対に失敗が出来ない。最初が肝心と言う言葉がある通り。出だしが重要だ。何のモノマネをやるか、誰に成りきるか。いや?俺の考えはいらないな。俺ごときが彼女の思考をコピー出来るとは思わないけど。やるしか無い。
こうでもしてないと気が狂いそうだ。まぁとっくに狂ってるか。こんな事してるんだから。今更としか思えない事を考えつつ、そう独り言に落ちる。
つい先日だろうか。彼女、いや無名氏野ねむが卒業した。彼女が元々いたのは大手ライバー事務所いちだいじでいつも元気で生意気、周りを引っ掻き回す明るいけど、何処か闇を抱えてるそんな性格だった。茶髪のショートボブで、高校生。
それが無名氏野ねむ。主に物真似配信や動画を出していた。一番有名なのはミラードッペルゲンガー配信。
内容は鏡だらけのセットでターゲットに突然電話がかかるんだ、それで何だろうと思って電話に出ると自分の声が向こうから聞こえてくる。そしてやがて「この声に聞き覚えは無い?」と聞かれる。
それで自分の声と答えると、鏡にターゲットのアバターのねむちゃんが映る。それを知った時のリアクションが面白い。いや、実際怖いけどね。後推しが可愛い。反応が最高。わらってるところすき。(かわいい、神)
ははっ、懐かしいなぁ。それからどれくらい経ったんだろう。二、三年?
そんな事を考えていても、もう彼女は戻ってこない、もう存在しない。推しとの出会いは一期一会。出会ったら死ぬまで推せ。師匠がそう言ってた。
んんっ、そろそろやるか。
今まで色々な人々を物真似してきた彼女を、有象無象に染まり個性が無いと言われた彼女を物真似する。本人にバレたら大変な事になるって?バレる訳が無い。さっき作ったばかりのアカウントで登録者はいないし、見る奴もいない。あぁ、分かってる。俺の言い訳だ。
でも、どうしても抑えられなかった。明るい理由で卒業?やりたかった事が出来た?……俺は納得出来なかった、耐えられなかった。その思いはやがて溢れ出し、こうなった。
「ふぅ……」
緊張する、口が渇く。前はこんなに緊張はしなかった筈なんだけどな。水をコップに注いで一口飲むと少し落ち着いた気がした。
「やろう」
パソコンを操作し配信を始める。マイクのテストをしてっと誰も見てない。よし。
『あ、ああ……あ、あ。あ!』
『こん虚無〜!無名氏野ねむです〜』
こうして、とある男の物真似系Vtuberの物真似配信が始まった。後にこの配信は色々な事が重なり、事務所を通して本人の耳に入る事になり大きく嵐を呼ぶ事になる。
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