第28話 技術論1
三十三、小説における技術とは何か
小説における技術とは何であろうか。日本語の文法だろうか。レトリックや複線などの修飾構造上のテクニックだろうか。あなた方はどう思っているだろうか。
もちろん答えなどないのであるが、少なくとも文法や内容や構成などの小技などはここには上がらない。そんなものはとうに勉強済でなければならず、わからなければ市販の参考書でも読めばすむことだからである。それらは知っていて当たり前、できて当たり前の知識であって、ライバルに差をつけられる箇所ではない。
小説における重要な技術はただ一つ、「説得力」である。読者をいかにあなた方の世界に引き込み夢中にさせるかの技術のみが、他の作家との違いを生み出せるポイントなのである。無数に存在する異世界ファンタジーであろうと現代ドラマであろうと、大切なのは読者を夢中にすることができる技術である。話が独特で際立ってオリジナリティーが高い作品などそうそう存在するものではない。限られた世界観、ありふれた登場人物やキャラ設定で差別化することはとても難しい。逆に言えばそこを頑張っても勝機はないということである。うんうん唸って新しいシチュエーションを考えるくらいであれば、自分の得意な世界に読者を呼び込んだ方が戦いようがあるというものだ。カレー屋さんがうんうん唸って時流に乗ったと思ってたとえばタピオカ屋を始めても、それは一時的に流行るかもしれないが、一生のビジネスにはなりえない。本著は小説家を目指しかつ長く活動を続けるのを目的とは人を対象にしている。地道かつ誰にも真似のできない考え方や手法を持ってプロ活動に挑んでもらたいのが主筋である。
おきまりの話であろうがテンプレ通りであろうが、面白い作品は面白い。それは説得力という魅力があるからだ。説得力というのは目には見えない接着剤のようなもので、それが何で作られどんな効果があるのかなど考えたことがある人などほとんどいないと思うが、書けない内容に七転八倒するよりも、書けるものに説得力を持たせる方が結果を早く出せるのではないだろうか。と、あなた方にはまず考えていただきたい。
説得力の一番の難しさは、一言ではいえない点だ。さまざまな要素や理由が積み重なって説得力になっていく。であるので、そのひとつひとつを磨いていくことによって説得力は養われていくといってもいいかもしれない。(あると思っていただいている前提ではあるが)本著が何故説得力があるのか。そこにはあらゆる要素が詰まっている。わたしがある個所ではある技術を、別の個所では別の技術を使っているからその積算によってボディーブローのように効いてくるということだということをまずは知っておいてほしい。
さて、本格的な技術論に入る前に注意を促しておくと、わたしの言う技術論は思考方法である。であるから表面上まねてもまったく意味をなさない。きちんと理解し納得し実践を繰り返してものにしていかないと効果はでない。インプットとアウトプットを適正にこなしていってはじめて手に入る代物である。ちょっと齧ってわかった気になるのが一番ダメであることを釘を刺しておきたい。その無様さは子供が大人の悪いところを真似して失笑されるが如しであるからご注意願いたい。
作家によってはどんなテーマやジャンルでも書けるという人がいるかもしれない。それはそれで立派な才能であるし努力の賜物なのであろう。少なくともわたしは異世界ファンタジーを書く勇気がない。経験量が少ないが書けないわけではない。しかしながらまったくもって「説得力」のある小説を書ける気がしないのである。それはなぜか。ひとつはわたしが書くのが気恥ずかしいというのがある。わたしが魔法を詠唱しているシーンや戦闘シーンを書いたとして、読者が夢中なって読んでくれるイメージがわかないのだ。説得力を持って書くこともできるかもしれないが、自分自身が確信をもって書き続けるには心理的抵抗が大きすぎる。普段恋愛や現代ドラマのような「目の前にある事実」を書き連ねているので非日常的なものが書きづらいのだ。
しかしながら、あなた方はわたしのそんなくだらない弱音やある種の自尊心に付き合う必要などなく、書きたいものを読者にきちんと読んでもらえる質まで仕上げなければならない。異世界ファンタジーであれば読者が無意識に入り込める世界観やストーリーを提示しなければならないし、自分が確信をもって読者に説得を試みなければならない。
説得力は小説という作品に対する総合的な力といっても過言ではない。どんなに上手な文章を書いたとしても説得力がなければ売れない。逆に言えばアマチュア中級くらいの文章力でも魅力的な作品は売れる。複線がどうだの構成が何だの関係なく、ストーリーがキャラが読者を手離さない小説が勝者なのである。であれば、あなた方が身に着けるべき技術とは「いかに読者を説得させられるか」という技術である。あなた方のやる気を誘い出すためにカタカナ用語でたとえると、「ファンタジスタ」を目指そうということである。
今回はこれくらいにしましょう。次回から具体的な技術論に入りたく思います。しっかり理解し、しっかり真似て、プロデビューの糧としてください。
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