第26話 発想論4
三十一、単語カードに書く内容
前回は単語カードにキーワード単位でネタを書くことで部品とし、その量をもって才能ある作家に対抗していくという主旨の話を書いた。今回はその内容についてもう少し詳しく説明したい。
単語カードを数作るのであれば、ネットで検索した方が早いし量も桁違いではないかという感想を抱いたかもしれない。それは二つの意味で勘違いをしている。
ひとつ目はこの単語カード(以下部品と呼ぶ)は知識ではなく「知恵」なのだ。つまり物事を知っている知っていない程度の存在ではなく、あなた方自身の血肉になるための知恵なのである。であるから、それはあなた方のためのものであり、他人には理解の出来ない部品なのである。「去年の青い花」と書いた部品があったとする。その部品は青い花自体のことを書き留めたものではなく、そこにはあなた方自身が何を感じあるいは何を考えたかの結果が記されている。あくまでもネタ帳という部品リストの一つでしかない。同時にあなた方の価値観を通した「去年の青い花」であるので唯一無二の大事な存在であるのだ。
ふたつ目は今回の話の主旨である「部品に書かれた内容というものは一体なんであるか」がまだ説明していないから理解ができていないことである。この「部品に書かれた内容」(以下記事と呼ぶ)は何をもって表現されているかというと、「あなた方のイメージのタイトル」でなければならないのだ。
大分難しくなってきたと思うので具体的な例をだしてみよう。あなた方がある日公園に行ったとする。そこにあるベンチで付き合い立てのカップルが座っている。そのきょりはまだ拳二つくらい離れている。あなた方はその距離感を見てこれは自分の小説に使えるからとっておきたいとする。そのときどういう記事を書くだろうか。人によっては「拳二つ分」と書くかもしれないし「初々しい距離」と書くかもしれない。記事の内容はあなた方の感性で構わない。大事なのはこの風景を「一枚の写真」としてとらえたときにどんな「タイトル」をつけるかだからだ。そう、つまり記事とは「写真(絵画)のタイトル」でなければならないということだ。イメージとセットになった部品というわけである。
この部品はあなた方の頭の中にしか存在しない。またあなた方にしか意味のないものだ。しかしながらそれがあなた方の感性を発揮するための唯一の武器であることを理解してほしい。作家とは所詮感性と経験でものを書くものだ。技術や理屈はその補助でしかない。であるとするならば、その感性と経験をどうストックするかにこだわることで人とは違うことが発想できるようになる。わたしがこれまでうるさいくらいに生き方や経験について述べてきたのは、すべてはこの発想が理解できるようにするための準備でしかない。あなた方が作家としてやっていくための武器を持たせるには何が一番良いか。それはせっかく得た感性や経験を漏らすことなく蓄積していく方法である。その方法は難しいものであってはならない。誰にでもできる方法でなければ我々凡人が運用することはできないからだ。何か気になったらメモをとるような感覚で部品を作っていく。メモと違うのはあなた方のイメージと連結されたものであるという点だ。「日々勉強」という言葉はもっともらしいが実践するのは恐ろしく難しい。しかしながら、あなた方はこの方法によって自分の感性と経験を蓄積していける。それも一つの小説を書く為に考えたものではなく、普段の蓄積を利用してあらゆる小説を書けるようになるのだ。
発想とはどこまでもイメージである。大事なのはそのイメージを最大限利用するための手段と蓄積方法である。あなた方はこのことを理解し、凡人なりの努力として初めていくことができれば、どんな小説でも書けるようになる。
プロというのは自分の表現したいものを書くのではなく、相手の要求するものを書ける能力がないと続けていくことは出来ない。最初は自分の書きたいことを書いてヒットしても、だんだんと読者の期待や出版社の意向という見えない圧力によって、書かなければいけない質というものができてくる。そのオーダーを気づかないあるいは満たせない作家は脱落していく。
大事なのはでどんなときでもどんなものでも書けるというタフさである。この点において、あなた方はまだまだ想像の埒外で価値観を持てないだろう。しかしながら今から準備と対策をしていかないと、プロになったとしても早々にガス欠して廃業になってしまう。プロットを書けるとか書けないとかはどうでもいいことだ。本当に大事なのはあなた方の感性と経験を反映したイメージのタイトルを記事にした部品という単語カードをどれだけ持っているかだ。ネタ帳を持っているのであれば、それをこの方法に置き換えてみてほしい。ネタ帳に書かれている内容が、知識なのか感性なのか、この話を理解しているのであれば判別できるはずだ。くどいが大事なのは感性の方である。知識はググればいい。感性はあなた方にしかないのだから、書き留めておかないと使えないのだ。
今回はこれくらいにしましょう。ビジネスには設備投資という言葉があります。皆さんが作家業をしたいのであれば、何の設備投資をすればいいのでしょうか、ということをいつもくどくどと書いております。人に勝ちたければ剥き出しの才能で真っ向勝負するのではなく、感性や経験を貯める設備を拡充させて「規模」で勝てばいいのです。小説だけではなくビジネスとは勝ち負けです。そのことを肝に銘じて頑張ってください。
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自主企画「第一回 さいかわ葉月賞 テーマは「夏」」を開催いたしております。
今回はわたしと専任の選者四名が選考をいたします。
https://kakuyomu.jp/user_events/16818093082082662779
そろそろ終盤です。良作ばかりですので読むだけでも勉強になると思います。小説は真剣に書かないと成長できません。是非とも真剣に書いた作品から何かを感じ取ってほしいと思います。
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