第25話 発想論3

三十一、部品を作る


 実感あるいは納得はできずとも、分解することによって理解できるという主張自体については頭に入ってくれたものと思う。難しい話ではなく、小さくしたものであれば理解がしやすいということだ。長い文章も単語を理解できれば内容が理解できるようになる。逆に言えば長い文章をどう分解すれば良いかわからない限り、なんとなくわかるという状況から抜け出せない、ということだ。

 まとめとしての「分解」について、あなた方が他の作家のシーンや台詞を分解してストックしておいたとする。それがいつどこで使われるか役に立つのかは置いておいて、結果的にそういったものがたくさん作られればそれは一つの「財産」であることはなんとなくイメージがつくと思う。言い換えると、分解された小さな情報が大量にあることによって財産になるということだ。ここに本発想論のベースがあることを次から説明したい。


 分解できた小さなものであれば理解しやすいということは、「最初から」分解された部品を自分で作っておけば、蓄積になるのではないか。ここに今回の発想論の基本がある。

 さんざんうるさく言ってきた「プロット」について、それを構成する最小単位を一杯自分の中に持っていれば、新しい小説を書く度にネタを考えずに「組み合わせ」でいけるのではないか、ということを考えたことはないだろうか。また新しい小説に対してプロットを書いた時、次回以降にそのプロットらしいものが何か活かせているだろうか。そう考えたとき、ほとんどが新規に作成し、また再利用不可になっているはずだ。

 であれば、あなた方が、いかにここでいう「財産」を増やし、その「組み合わせ」で小説を作っていけるかで「量」が書けるとしたらどうであろうか。凡人が毎度毎度考えている時間を大幅に短縮できるし、財産を増やすことによってプロになってもネタ切れせずにやっていけそうではないか。

 つまり、わたしたち凡才が異能天才に対抗するのであれば、「シンプルな情報」を「膨大な量」持って対抗することで、鋭いひらめきや思わぬ発想などには依存しない、「新しい小説」を書き続けられるということになる。ここに発想に対しての勝機があるとわたしは思っているのである。


 具体的なイメージを説明しよう。あなた方が学生時代にお世話になった英単語帳を思い出してほしい。一つ穴のリングで綴じられた「単語カード」と呼ばれていた紙に英単語を書いていたあれだ。あの発想を小説にも応用すればいいということだ。単語カード一枚が分解された最小限の部品だと思ってほしい。書かれているのは出来るだけ短い単語レベルのものだ。自分が分かればいい(※書き方については次回以降で詳しく説明する)ので、「昨日のサバ定食」でも「ふんわりとしたパーマ髪」なんていうのでもいい。とにかくプロットを箇条書きするようなノリでたくさん書いてみるのだ。ある小説の話や登場人物を考えてみるとき、何かモワっと浮かんできたものを単語レベルで書いておく。裏側にはちょっとしたメモを書いておいてもいいかもしれない。「満員電車のハンディー扇風機」と書いた裏に「開襟シャツ、花柄」などと書いておく。あくまでもあなたの中で気になったものを書き溜めていけばいいのだ。

 そうすると、真正面からプロットなどと御大層なことを考えずとも、その単語カードの組み合わせで話が作る事ができる。大事なのはあなた方の感性で書かれた単語カードであることだ。ふとあなた方が気になった他人の仕草や、知らなかった世の中の仕組みを単語として書いておく。そういうものがたくさん集まれば、あなた方には専用に書いた何本ものプロットではなく、無限のプロットがあることにはなるではないか。

 単語カードをどういう理屈で書くのかは次回以降で説明するが、今回の話で重要な点は「分解した最小限の理解できる単位」「その単位で蓄積をする」「組み合わせで小説を書いていける」という点だ。最後の組み合わせのところが実は一番重要「ではない」のであるが、あなた方が理解しやすいようにわかりやすいメリットとして書いてみた。


 発想ひとつとっても、「プロットを書け/書かなくともよい」という単純な問題ではなく、飛躍的な向上ができる手段があるということ。これによって「あの人の小説の発想にはかなわない」なんてことはほとんどなくなるだろう。少なくともプロデビューくらいの戦いであれば負けないどころかアドバンテージすらある。何よりもこの先長く書いていく上で、今までのような「使い捨ての考え方」で力尽きることはなくなるだろう。

 単語カードひとつひとつには意味はない。あるのはその量だ。であるから、あなた方は日常生活において常に量を意識して書いていけばいい。ぶっちゃけてしまえば、その内容や質などどうでもいいのだ。大事なのは量。あなた方のふとしたことのひとつひとつを「捨てていく」ことにも重大な意味があるのであるが、それらも含め、以後、順に説明していきたい。

 

 繰り返しになるが、一番大事なのは「勝つための発想論」であるということだ。最小限の情報を作る事、量を持つこと、それによって大きな利益を得ること。まずはこの流れを理解して頂ければと思う次第である。


今回はこのくらいにしましょう。今の時点では、いわゆるシナリオ形式の普通のプロットを書くことは結果的に利益をもたらしません。大事なのはネタの蓄積です。ここしばらく分解をくどくどと言ってきましたのは、その蓄積は最小限のものでなければならないという点を理解してほしかったからです。わたしたちはそんなに賢い人間ではありません。英単語をひとつひとつ覚えていった時代を振り返って、謙虚にできる事を着実にやって天才に勝てばいいのです。


 

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