第23話 発想論1

二十九、発想の準備としての分解の意義


 物理的に静止しているものを動かすとき、一番のエネルギーが必要となる。ロケットをイメージしてほしい。あの巨大な機体のうち宇宙空間に到達するのはごくわずかである。ブースターを含めた大部分はすべて地上から飛び上がるためだけに存在している。地球の重力に逆らうためにあれだけ壮大なシステムが必要なのである。

 もちろん、エネルギーたる燃料を入れていないとロケットを飛ばすことはできない。厳密には燃焼効率もあるだろうが、原則燃料はロケットが大きければ大きいほど必要になる。宇宙空間に出るまでひたすらに燃焼を続けて上昇を続けなければならない。

 宇宙空間に行けば、方向転換のエネルギーのみですむ。泳ぐかのように機体を自由自在に方向転換できるだけのエネルギーでいいのだ。


 さて、これは何のたとえか。察しがついているかもしれないが、公募をしてプロデビューするためのあなた方のストーリーである。機体の大きさはあなた方の想いや志の大きさであり、飛び上がるつまりデビューするためには最初に莫大なエネルギーがいるということだ。すべてがうまくいってプロになりファンがつけばあなた方は宇宙を旅する船のように、わずかなエネルギーで多くの反応をもらえるようになる。

 一番大事なのは燃料に相当するものというのは何であるかだ。これまでの話を読んできたのであれば理解できるだろうが、もちろんやる気や熱意という精神的なものではない。作家デビューからプロ活動までにしておかなければならないのは「蓄積」である。それが多ければ多いほど、高く飛ぶことができる。燃料不足で宇宙どころか空中で分解するような目にあわないためにも、燃料はたっぷり入れておきたい。ロケットとは違い、「蓄積」は無限にできる。それはなぜかというと、蓄積はあなたの「頭の中」にできるし、その補助として電子機器があるからだ。


 漫然と公募を書き続けることはまったくもって効率的ではない。でありながらも続けないと受賞もできない。あなた方はそんなしんどいサイクルをこなさないといけないわけだ。

 しかしながら、それは小説を書くというただの「作業」だ。大事なのは仕事である。それは考えることであり、蓄積することである。いよいよこれからは、何をどう蓄積すれば良いのかの核心に触れていくことになる。公募生活の傍らプロデビュー後に困らない基礎体力の増進もさることながら、才能に勝つための蓄積の準備と実際の蓄積をしてかなければならない。プロットを書きましょうというのはその氷山の一角でしかない。よもやここに至ってプロットを書くことに抵抗があるとは思わないが、そもそもわたしが伝えたいのは、一般にいうプロットというものではない。そのあたりも最終回までに説明していきたい。


 前置きが長くなったが、「蓄積」とはネタの蓄積である。しかしながらこのネタの蓄積を普通にやっていては才能豊かな作家には勝てない。わたしはどこまでも勝つこと(デビューさせること)にこだわっている。それも凡人であろうが関係ないことを証明したいと思っている。趣味の延長線上で公募を書いているのは論外であるが、なんらかの戦略をもって臨んでいる人の役に立てるようにしたいと思っているのだ。


 まずは「分解」ということについてもう少し詳しく説明しようと思う。分解は重要というのもあるが、これからの考え方の基礎であり常識になる。まずは分解することについて理解をしておこう。

 複雑という言葉があるが、文字通り「複数あって雑然としている」わけである。わたしたちは経験量によってどれだけ複雑なものであっても単純だと思えるようになることを知っている。人には複雑に見えてやる気すら出ないことであっても、経験豊富な人間から見れば単純なことに思えている。わたしは家事が得意ではないので、パンを作る作業や工程を複雑だと思っている。どちらかというと自分でできるようには思えていないくらいだ。しかしながら大体の人間は数回パンを作ったことがあればプロ並みとは別であるが、それなりにできるようになるだろう。それは複雑な工程を分解してイメージできるからである。

 つまり、わたしはこれまでくどくどと言ってきた「経験をする」というのは、物事を分解して理解すると同義なのである。ネットの情報を手に入れたことと本当の理解との差はどこにあるのか。感覚的にはわかりそうであるが、文字にすれば分解できるかできないかの違いということになる。つきつめて解答を得るならば、「理解とは分解」なのである。


 どれだけ分解できるか。あるいは分解しようと思えるかが理解力である。ネットで調べてフーンというのは理解ではないのだ。この一点において、分解することの意義が十分に伝わると思う。才能がある種のひらめきであるのなら、我々はそのひらめきを分解することによって達成してしまおうというわけである。しかも同等で満足することなく、この先の理論によってより発展的かつ蓄積として増やしていける。順々に説明していくが、分解がまずは大前提のベースであることを理解していただきたい。


 分解についてもう少し具体的な話をしよう。学生時代英文法というものを勉強したと思う。その時、あなた方は何をやらされたのか覚えているだろうか。そう、主語、動詞、目的語……と一文を分解したではないか。英会話の一文も分解することによって理解をしてを勉強してきた。あれが主語、動詞、名詞という分解したときの名前がなかったら、一文一文をパターンみたいなものとして、何となくで理解しなくてはならない。しかし分解する方法を知っているから他の文章を読んでもその構成を把握することができる。つまり、分解できないということは一文が理解ができないことではないだろうか。

 このように日常の当たり前を理論として取り入れることで、才能などというあやふやでただ恐ろしがっているしかないものに勝てそうではないか。最後の締めとして述べるが、あなた方には考えることによって常に勝機があるということだ。しかしながら、ただ書き続けるというところにその勝率はどのくらいあるのだろうか。手元はとめずに頭を最大限に活かしていこうではないか。


 今回はこれくらいにしましょう。一度に理解はできずとも、分解イコール理解であるという点だけは心に留めてほしいと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る