第21話 基本の話7

二十七、くっつけるのではなく分解していく。


 今後説明する話のベースとなる考え方であるので、基本の話の最後として説明しておきたいと思う。

 物事をシンプルかつ創造的に思考するには、「くっつける」のではなく、「分解していく」という価値観が非常に重要である。複雑な物事や事態に対して、まずは「これをどう分解していけば手に負えるようになるか」ということ考えながら、バラバラにしようとする。どんなに大変そうなことであっても、バラバラにすれば一つ一つに向き合えるようになっていくからだ。この「向き合える」ようになるまでどう分解できるのかが、その人の力量といってもいいだろう。これは何もご大層なことではなく、むしろそれだけを考えれば良いのだという気づきによって、人生を楽にしてくれるものなのである。

 人生に対してしかりであれば、小説においても適用可能なはずだ。これまであなた方はたくさんの小説を書いてきたと思うが、小説を分解したことはあるだろうか。自分の作品であれ、他人の作品であれ、「くっついている」ものと捕らえたとき、いくらでも分解できると考えたことはないだろうか。

 そもそも何故分解するのか。こんなものは単なる手段のひとつでしかないのではないか。主語が大きくて反発もあるだろううが、特に文系の人はそう思うであろう。しかしながら、この分解するということには大きな意味と価値がある。これをものにできれば、人並み以上の結果を苦労せず手に入れられる。ひいては他の作品を上回るものを書ける可能性がアップするのだ。


 冒頭にもあったように、バラバラに分解することの直接的なメリットは「複雑な物事を理解・把握あるいは解決することができる」という点である。絡み合った釣り糸を丁寧に解いていくように、ひとつひとつを分解してみることによって、単純化していき物事の本質に迫れる。

 大概の複雑な事象に対して精神的にギブアップしてしまうのは、分解する方法がイメージできないからだ。あくまでもたとえ話なので、メーカの製品保障を受けられなくなるという点については目を瞑って聞いてほしいのだが、あなた方はパソコンを分解することができるだろうか。人によっては、そもそも分解していいものだと考えたことがないだろうし、人によっては開けていい場所にあるもの、たとえばメモリーあるいはSSDくらいなら交換できるだろう。また人によっては基板交換位できるかもしれないし、わたしのような電子デバイス関係に詳しい人であれば、ほぼバラバラにできるだろう。そのバラバラに分解できる度合いが経験値であり、もっとざっくばらんに言えば、その人の力量ともいえる。


 分解することのより意味深いメリットは「利用」できるということである。分解できる程度が小さければ小さいほど、利用できる間口は広くなる。ネジ一本にまで分解してしまえば、それはもう立派な部品箱といってもいいくらいだ。あなた方がもし多くの作品に対して、かなりの分解能力を持っていれば、それをどう利用しようかという思考方法が備わっているということだ。わたしは家事、特に料理が好きではないのであるが、料理が上手な人は、冷蔵庫の中にある食材が「そのまま」であるから、何を作ろうかを考えられる幅が広いのだと思う。あれが「料理されたもの」になってしまえば、そのレパートリーなど限定的でしかない。料理されてしまったものからみれば、分解されている状態、つまりそのままであるからこそ、献立が考えられるわけだ。この意義はあなた方の創造性に多大なる影響を与える。詳しくは今後説明するが、まずは「分解あるいは、くっついていないそのままであれば、それは何かの材料になるのだ」ということを理解してほしいと思う。


 ここまでの時点で少々難しかったかもしれないが、最後に分解という考え方の一番重要な意味を説いて終わりたい。分解するということについて、一番重要なメリットは何かと言うと、「ゼロからの創造を多面的にすることができる」ということである。これは冒頭部の「くっつける」という考え方――おそらく、あなた方が想像または実践している、プロットや小説の書き方――ではなく、バラバラな情報の中から発想をしてそれを編集していくという考え方に転換することによって、まったく違う小説の考え方、ひいてはプロになっても長生きできる考え方ができるということなのである。恐らく今は、あるいは今後も理解できない発想方法かもしれないが、「分解こそあなた方の最大の武器になる」ということ説明していきたいと思うので、概略的に話をしてみた。


 繰り返しになるが、最初から目の前に小説があれば分解はできそうである。しかし、もし新しく小説を書こうと考えたら、何を分解していけばよいのだろうか。これからは、このことについて説明していこうと考えている。

 恐らく、ここからが真の創作論であり、脱落者が出るところであろう。なので、先に申し上げておくと、今回より前、「基礎の話6」までを理解あるいは納得できたのであれば、あなた方はもう十分何かを身につけたと思う。今後の話に理解や納得が追いつかなくとも、それはそれでかまわない。その人なりの思考方法があることを、わたしは否定するものでも妨げるつもりもないからだ。手前味噌ながら、ここで読むのをやめてしまっても、何らかの意義はあったのではないかと思うのである。


 今回はこれくらいにしましょう。今まではどちらかというと生き方や人間とはということを主にお話をしてきましたが、次回からは考え方そのものになります。本話を読んで「さっぱりわからん!」となったのであれば、ここまでの話で十分だと思いますので、無理をせず、むしろ最初から読み直していただけるとうれしいです。

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