第15話 基本の話2

二十一、好奇心を持って勉強をしましょう。


 作家として最低限必要なものは何かと問われれば、好奇心だとわたしは答えている。好奇心に満ち溢れていない人間は作家どころか、広い意味での「ものづくり」に向いていない。昔話をしてしまうが、わたしが若い頃知り合った作家たちは、好奇心の塊のような存在だった。常に「なんで」「どうして」を噴き出している。疑問を解決できるのなら地の果てだろうがマグマの中だろうが飛んでいってしまうような人種で、どこか地に足のついていないような危なかっしい人たちばかりだった。だから、「経験が大事だ」とか「勉強をしなさい」なんて改めて言う必要などなかった。好奇心は向上心に結びつき、自分で出典や根拠を求めて勉強や取材をするからだ。


 しかしながら、ネットの出現によって手軽に「知識」が手に入るようになると、好奇心の知識の部分はすぐ解決され、経験をする手間やコストを考えるとネットで調べた方がバリューがあると本気で思っている人種が増えた。それの良し悪しは置いておいて、情報過多による好奇心の毀損が、作家が作家でいられる寿命を削いでいるのではないかとわたしは思っている。だからこそ、作家において最低必要な装備品は好奇心だと考えている。好奇心は人間にとっての水であり、車にとってのガソリンである。それがなければ活動をすることができないのだ。


 さて、あなた方は日々勉強をしているだろうか。または取材や調べものをしているだろうか。作家にとって大事なのは座学だけではなく行動による好奇心の解決が大事である。本を読むのも大事であるが、自分の目や足で確信を得ていくことを常に意識して行動していかなければ、古いOSのままである。あなたのスマホのOSはある時期アップデートされる。機能が拡充されることもあれば、今までの不具合が修正されることもある。あなた方も一緒で、常に刺激に触れていないと、OSは更新されず、同じままの価値観でしかないから、書けるものがあっさりとなくなってしまう。


 好奇心がない人間がものを作るのはかなり難しい。小説だけではなく、ものづくり全般において、好奇心は考えるための大事なエンジンでもある。どれだけのものを知っているのか。どれだけの考え方をもっているのか。知識や思考の量は好奇心を寄せた分だけ増えていく。だから、好奇心のない人間は作家には向いていないというわけだ。


 どれだけ調べることができるのかというのは、一種の才能でもある。学術的なアプローチもあるだろうし、対人関係が必要なアプローチもある。ときには偶然という運すら必要なこともある。どんな方法にせよ、調べるという行為はインテリジェンスが問われる作業で、これは日々の研鑽と教養に依存する。

 それに対して、取材はどちらかというと行動やフットワークで解決することが多い。もちろん大事なのは好奇心がスタートであることなのだが、どんなことであれ、取材による体験は決してあなた方を裏切る事はない。プロになるとより専門的な所に取材に行けるようになるが、今のあなた方でも取材できることは山ほどある。モニターや原稿用紙に向かってウンウンいうのも大事であるが、取材をしてネタを増やし知見を深めることを疎かにしてはいけないと思うのだ。


 何度も念を押すが、これらはアマチュア作家にはまったく必要のない事である。楽しく書ければそれでいいからだ。しかしながらあなた方には目標がある。その目標に向かって、さらにその先のビジネス人生のためにできる取材やどんどんとした方がいい。今しかできないこともある。勉強というと座学しかイメージできないだろうが、そんなことはない。ものづくりにおける勉強は体験がすべてだ。知識は必要なときに手に入れればそれでいい。ネットがある今の時代であればなおさらだ。大事なのは知恵を学び経験を得ることだ。ここに疑問や疑念の余地が少しでもあるかぎり、ものづくりでご飯を食べていく事は諦めた方がいいと、わたしは作家ではなく、いち技術屋として忠告をしたい。


 本を読むのも大事な勉強だ。だが、ただ読書しても何の意味もない。それはただの消費行動でしかない。大事なのは好奇心を持って自分なりの考察やテーマを持って作品を分解したり解釈をしてみることだ。誤解なきように言っておくと、単なる読書も楽しみとしては重要である。だが、あなた方は勉強のために読書をする必要がある。ものづくりの基本はまねることからだ。先達の作品を読んで、何が良いのか、何がウケるのか、何故語り継がれるのか。研究と分解をしてみなければならい。「リバースエンジニアリング」という言葉あるのだが、分解することによって物を理解、把握していくことは技術屋としては至極当たり前な仕事である。作家もものづくりの一種であるのだから、同様ではないだろうか。


 勉強の仕方は自習自得すべきである。そこに知恵を働かせられないのであれば、作家をする意味がない。それは好奇心を放棄しているのと同義であるからだ。今のあなた方の本当のすべきことは文字を書く事ではない。物をあるいは人を深く理解し分析することだ。それにはまず、好奇心がなければ真髄まで到達できない。何度も言うが好奇心を持てるかどうかは、ある種の運みたいなものがある。努力でどうこうならない世界である。だからもし、あなた方が未知の物事に対してどうしても好奇心を持てないタイプであるのなら、職業としての作家になるのは考え直してほしい。常に好奇心をもって勉強できる人だけが前に進める世界であるからだ。歩みを止めればあっというまに押し流されてしまう。ものづくりは楽しくもあり残酷でもある分野だ。だからこそ、わたしはくどいくらいに好奇心を持って勉強しましょうと言うのである。


 今回はこれくらいにしましょう。長編を書くには時間がかかりますので、手をとめる余裕がないかもしれません。しかしながら今勉強や取材をしておかないと、ある日パタっと書けなくなります。くれぐれも後悔しないよう、常に勉強を怠らないようにしてくださいね。


(続)

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