第13話 基本の話1

 二十、「勝てる小説」って何?


 もしかしたら、小説を書くための華々しいテクニックの話が始まるのではないかとと期待してくれていたかもしれないが、残念ながらまだまだ基本の話である。なぜならば、基礎や基本が出来てないところに小ざかしいテクニックを身につけても、基礎工事のずさんな地盤の上にビルを建てるようなものだからである。自壊するのは自業自得だが、倒壊して周りに被害を及ぼすのは迷惑きわまりない。本作はどこまでも「足腰があってナンボ」がモットーであることを思い出してほしい。


 さて、主題であるが、あなた方は公募やコンテストで「勝てる」小説を書かなければいけない。単に上手でも面白い話でもない。「賞を受賞するための小説」である。まずは、主題に対して自分なりの基準があるか問いかけてほしい。もしかしたら、勝ち負けを意識したことすらないかもしれないし、「一所懸命書いたから通過できるといいなあ」と思っているだけかもしれない。


 だが、あなた方が人を押しのけて前に出るためには、ここに一つの確信を持って前へと進みたい。あなた方が何のコンテストや賞を目指しているかはわからないが、「選ばれる」という洗礼は必ず受けなければならない。ならば、その中で少しでも生存確率を上げる考え方をしていきたいではないか。


 今回も基本レベルの話であるから、答えは実に単純である。それは、「読者に向けて書いているか」ということだ。

 何を今更と思うであろうが、わたしがカクヨムの作品を拝見していると、「読者に向けて書いている」と思える作品はそんなには多くはない。もちろん、なんらかの賞レースに参加している作品だけに限定しての話だ。たとえると、居酒屋で自分だけがペラペラしゃべっている作品になってしまっているものが多く、連れや周りの客に向かってペラペラしゃべって場全体を盛り上げようとしている作品が少ないという感じだろうか。


 では、「読者に向けて書いている」というのはどういうことなのだろうか。それは、あなた方が「読者」として読んだときに面白いと思うかどうかだ。これが実際にできるかの議論はまずは横に置いておいて、あなた方が自分の作品を読者として読んで、「結局、作者が言いたい事を言っているだけだな」と思えたら、それは「読者に向けて書いている」ということではないということだ。


 「勝てる小説」を目指すなら、作風や内容がどうであろうと、作者と読者は小説の中で常にキャッチボールをしていないといけない。作者が一方的に投げ続けるのも、読者が一方的に理解や解釈するのも、賞を得るための小説として選ばれにくいからだ。


 例外はいくらでもある。しかし、まずは基礎と基本をキチンを理解しようではないか。あなた方は、小説を書きながら読者が読んでいる姿を想像しなければいけない。ここの部分は読者に伝わるだろうか、ウケるだろうか、そもそも面白いと感じるだろうか。自分が語りたいとき、ボールには威力とスピードがあるものだ。ということは、読者が受け取りにくいという理屈になる。だから、常に読者をイメージしてボールを投げるパワーやスピード、あるいはタイミングや角度など、あらゆる要素を考えて投げなければならない。

 あなた方に小さなお子さんがいるとする。大事なお子さんに向かって自身の力を見せつけるために渾身の剛速球を投げるだろうか。あなた方は常に調整をしているはずだ、しかも、お子さんが上手にキャッチできたら、どんな笑顔をしながら褒めてやろうかと、考える余裕すらあるはずだ。そういう意識や視野を持って読者に向かって書いている作品は、全体を通した完成度が高くなっている、つまり、勝率が上がるということだ。


 プロの編集でなくとも、人の目が通って赤が入れられている作品は、自然と「読者に向けて書いている」方向へと向かっていく。しかしながら、あなた方の大抵は自分ひとりで戦い抜かなければならないだろう。であれば、作者としての自分と読者としての自分の二役をこなさなければならない。大変そうに聞こえるかもしれないが、なにも難しい事ではない。脳内で二人コントをすればいいのだ。「自分はこんなに頑張って書いたんやで」という作者側のボケに対して、読者側が「でもおもろないやんけ!」とツッコミを入れればいいのだ。大事なのは、ボケるときはしっかりとボケ、ツッコミを入れるときは容赦なく入れることだ。わたしの言っている事が特別なことに聞こえるかもしれない。だが、小説を書くにあたって、あなた方は複数の価値観を持った複数のキャラを動かしているではないか。それと同じで、小説全体を俯瞰しているキャラを二人、用意すればいいだけなのである。


 「勝てる小説」というのはテクニック以前に、読み手を意識して書いているかによるというのが理解できただろうか。自分の技量を誇示するために作った料理ではなく、食べてほしい人においしいと思ってほしくて作った料理が、審査員から選ばれやすいという自然な道理だ。それは何故か。審査員とて人間であり、食べる側だからである。


 まずは「上手な作品」「面白い作品」を書こうとする前に、「読者に向かって書いた作品」になるように意識してみてほしい。言い方は非常に失礼だが、個人の極まった個性など、アマチュア小説からは生まれてこないし出現などしないのだ。あったとしても、それは奇跡的な出来事だ。であれば、まずは確実に選考を通る作品作りをしようではないか。



 今回はこれくらいにしましょう。繰り返しなりますが、あなた方は「勝てる小説」を書かなければならないのです。なぜならば、他の作家たちを蹴散らし、まずは審査員に「いいね」と唸らせるための舞台に立つ事が必要だからです。そのためにはなりふり構っていられないと思います。一度、公募やコンテスト用の自作を読者になりきって読み直して、大きくツッコミを入れてみてほしいと思います。


 かなり先走って上級者向けの話をすれば、「賞のために書く小説」なんて、出版社や審査員という「読者」の求めるものに、「作者」として卒なく返事ができていればいいだけの、プレゼンテーション資料でしかないのです。ですが、今はキチンと足元を固め、自分のレベルを底上げしていこうではありませんか。


(続)

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