第12話 基礎の見直し5

十八、自分を変える気があるかどうか。


 馬を水辺に連れていくことはできても、水を飲ませることはできないとは良く言ったもので、やはり自分自身がやると思わないことは、他人にはさせられないものです。まわりは利害や理非を説いてその気にさせようとはしますが、所詮は本人次第ということです。

 あなた方においても、「生まれ変わるくらい、自分の今までの考えかたを全交換をして、一からやり直すぞ!」という気概を持っている方がどれだけいるでしょうか。そんな人は間違いなくゼロです。そもそも簡単に人は考えを変えることはできませんし、わたしも最初からそれを期待して書いているわけではありません。ですが、何かをしなければ結果は変わりませんので、わたしはわたしの考えにしたがって、こうして書いているわけです。


 自分を変えるというのは非常に難しいです。理由は色々あるのでしょうが、変え方を知らないというのが一番大きいです。本書でよく嫌味の対象になる「学校の勉強」でも、自分を変える授業はありませんでした。一種の洗脳教育にあたりますからなくて当然なのですが、人生を乗り切る上ではやはり「自分を変える」自由さというのは大事です。これが出来ないから、色々悩み、ストレスを感じるのだと思います。

 小説を書くに対しても、自分を変えられるかというのは作品の幅を大きく広げます。大きく広げる必要があるかどうかは目指す小説にもよるとは思いますが、キャラの書き分け(思想・思考面)や物の捉え方など、アドバンテージになるものは多いと思います。


 今すぐにわたしのいう通りにするんだ! ということでは決してありません。ですが、自分自身に「このままの自分の価値観で描き続けて良いのだろうか」と問いかけてみてはほしいと思います。自分について自分が一番理解していないのは皆同じです。ですので、自分自身と向き合う時間を作っても良いと思います。時にはお話を作ってでも、自分自身を勇気づけたり慰めたりするのも大事です。自分のコントロールも小説を書くにおいて大事な訓練ではないでしょうか。


十九、作家になりたいですか?

 

 さあ、いよいよ基礎はこれで最後です。そしてわたしから最後の問いかけは、「作家になりたいですか?」になります。どうでしょう。真正面から答えられますでしょうか。

 もし、まだ躊躇したり、「なれたらいいなぁ」というレベルであれば、まだプロ作家への努力を始める段階ではないと思います。別に資格がないとかそういう話ではありません。心の準備ができていないからです。

 冒頭の馬のたとえにもあった通り、馬であるあなたが「おいしそう」に水を飲むのが理想的です。いやいや飲んでは何の意味もありません。ましてやわたしや周囲がどうこう言うからやってみるなんていうのは愚の骨頂です。決してうまくいきません。


 大事なのはどこまでも、「やりたい」という前向きな気持ちと、「そのためなら一からやり直せる」という覚悟です。あなたにこれらが揃ったとき、はじめて歩むべき道です。揃っていないのであれば、無理に作り上げてもダメです。自分の中で考え、納得できる答えが出るまではその時期ではないのです。こういうものは、ふと自然に切り替わったりするものです。真面目にウンウン唸ってても出ないことが、ある日、ぽっと閃いたように何かの価値観を掴むものです。もちろん、悩んでいなければそんなことは起こり得ないのが前提ですが、焦ってどうこうなるものではありません。機を待つというのは悪い事ではないのです。ですので、もう一度、あなた方の自分自身に問いかけてみてください。芯がしっかりしていないと、ちょっとしたことですぐにブレてしまいますよ。


 これは人生の進み方そのものです。わたしはあなた方がプロの作家になりたいという前提話をしていますが、プロの作家でなくとも、何かを目指そうと、あるいは結果を出そうとするのには必要なことであり、「生きる」という本質的な部分であります。是非ともここだけは時間をかけて考えてみてください。

 生きるというのは、覚悟することと言っても過言ではありません。あなた方においてもこれまで自身が覚悟して進んできたものがあると思います。そういったものが何故上手く結果を出せたのか、あるいは出せなかったのか振り返ってみてほしいと思います。


 作家は役者ではければならい、と同じように、作家は思想家でなければならいとわたしは考えております。それらは他人に向けてではなく、自分に対してです。常に何かを演じ、何かを定義づける。それは何のためか? 前に進むためにです。もう一度自分の心の中を整理してみてください。腐っても物書きなのですから、書き出してみてください。あなた自身の小説を書いて、読者として読んでみたときどう思うか。そういう切り口を考えたことはないと思いますので、是非とももう一度、地獄の道を歩む覚悟があるのか、問いかけてみましょう。ないのであれば、できるまで、じっくりと基礎の基礎から見つめ直せばいいのです。わたし個人の意見としましては、基礎の基礎から見つめ直した分だけ、人間の深み、ひいては作品の深みになっていくと思います。


 今回はこれくらいにしておきましょう。他の創作論を拝見することがあるのですが、優しくて丁寧なものが多いです。わたしのような意地の悪い創作論に飽きたら、他の人の創作論を読んで、自分の原点を見出すのもいいのではないかと思います。

 そろそろ、興味本位程度の野次馬が減ってきたと思いますので、真剣に求めている人向けにギアを一つあげたいと思います。がんばりましょう。


(続)

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