第8話 基礎の見直し2

十二、考えていますか?


 作家において思考力というのは重要視すべき要素だと思います。文章というのその人のインテリジェンスを映し出します。どれだけ上手く装おうとしても、読者には作家がどんな考え方をしているのか、どういう思考経路を辿って書いているのかは、わかるものです。

 あなた方は、小説を書いてお金をいただく仕事を志しているわけです。そこに向かって「なんとなく書きました」というスタイルで進むことはいかに無策であるかということを自覚してほしいです。まずは「考える」という癖をつけるところから始めましょう。


 そもそも、考えるということはどういうことなのでしょうか。ここでは哲学的な話でなく、小説を書くにあたり、という範囲で考えてみましょう。考えるということは創造することであり、想像することでもあり、計算や設計することであります。極論すれば、「なんとなく」以外の状態は何らかを考えているということになります。


 考えるということを意識的にしているのか、考え方を持って考えているのかと問われると、答えに窮すると思います。自分がどういう考え方をすればいいのか、というスタイルを確立していないと、小説を書く時に一貫性を保つことができません。それ以前に完成させることもできません。わたしはプロットについてうるさく語っていますが、何もプロットを書けと強要していわけではありません。つまるところ、「もっと考えろ」と言っているのです。その手段としてプロットを持ち出しているだけなのです。


 わたしに言わせると、プロットを書く必要がないと思っている人は、物事を事前に考える必要性を感じていない人です。現状把握、原因分析、結果予測。そんなものよりもとにかく思いのまま書いて、ノッてきたら筆が進んでいく。そんな風任せな書き方を良しとしているから、考えるということを苦行と思ってしようとしないのです。

 素人の思いつき小説であればそれで十分でしょう。ですがあなた方は職業として小説を書いていかなければなりません。自分の思考スタイルを持っていないことになんら不安を持っていないことを自覚して、考え直してほしいのです。


 プロというのは「自分の中にあるボトムの能力を上げる」ために努力します。調子の良い日を基準に楽観的に長所を伸ばせばいいだろうとだけ考えるのは浅はかです。どんな時にでも書ける思考力、考え続けるためのネタ探しを大事にしてほしいのです。


 本作でわたしの言っていることの大半は「制服はキチンと着ろ」というような当たり前のことです。かつ、その理由は極めて精神的でわかりにくいものです。あなた方には、それを馬鹿にしたり疎かにしたりして、隙だらけな考え方で結果が出せない人間のままでいてほしくないと思うので、うるさく書いているわけです。わたしの言っていることは「他にも道がある」という前提で読んでいても何の役にも立ちません。「これしかない」と信じてやってみることでしか、希望の光は見出せないのです。


十三、「思っていること」と「考えたこと」は別次元の話。


 たとえばわたしが、「AはBである」と書いたとしましょう。すると反射的・感情的に「AはCであるでもいいのではないか」という反論したくなる人がいます。というよりも、大半の考えるということに慣れていない人はそうなります。

 本人はBの裏をかいたり、Bの欠点を突いたつもりのCであると「思っている」のですが、この「思っている」というのがまた厄介で、「考えている」といるということと似てはいるのですが、実はまったく違う性質のものなのです。


 「思っている」というのは、現時点で湧き出した(それもわたしがBであると言ったから発生した)突発的な感情であったり、漠然とした過去の「個人的」な体験でしかありません。ためにしに数日経って同じことを論じてみると、そういう人は「考えて」はいないので、「その場で思った」ことを言いだします。それも前回とは違ったことを言い出したりする始末です。


 あなた方は「思っている」ことを言う人に振り回されてはいけません。人のもっともらしい意見に翻弄されるのは「思っている」ことと「考えている」ことに違いがあることを知らないからです。もっともらしいことを言う人はいますが、そういう人に限って責任を問うたり、実践してみよと言うと、「自分はただ言っただけ」というのです。しかも本人は、「思っている」ので、そこに罪の意識を感じることがないのです。ですので、深刻な邪魔者としてあなたの前に君臨し続けます。


 さらに大事なのは、あなた方はそういう「思っている」だけの人間になってはいけないということです。読者に自分の世界感を披露する立場なのです。しっかり考え、一貫性を持った理論になるまで考え続けなければ一冊の本を書き上げることは困難です。いかに書き方のスタイルは人それぞれとはいいながらも、思っているだけの感情的な人間でしかなければ、作家として成長は望めません。書きたいように書くのは素人の世界です。プロを目指すならば、どこまでも設計力を養い、その通り書ける技術を習得しなければなりません。これは特別な話でもなんでもなく、オムレツ作るならフライパンを使いこなせというくらいの最低限の話です。異論や疑念が生まれる余地のない、ごくごく当たり前な話なのです。


 物事を批判的に見る目は必要です。ですがそんなことの前に、しっかりと考えることのできる人間を目指してください。それにはまず、物事をまっすぐ捉え、そこにある根本や真髄に近づく力を「考える」ことで養ってにほしいのです。

 

 屁理屈を言える人は頭の回転が速いわけでは断じてありません。むしろ逆で、感情に振り回されているだけの可哀そうな人なのです。ただノイズしか出せないラジオに何の使い道があると言うのでしょう。作家を目指す前に、まずは人として恥ずべき部分を改めていき、作品に反映できるようになってほしいと思います。読者も馬鹿ではありません。そういう作家には敬意と賞賛は惜しまない筈です。あなた方が書く作品の内容はまったく関係はありません。その向こうにある「考えている作家」を見ることで、ファンはついてくるのです。


 今回はここまでにしましょう。今回は考えるということに特化してみました。おそらく大半の読者がこのレベルで無策であろうと思ったからです。「思っている」こと「考えている」ことの違いを実生活で感じる努力をしてみたください。「もっともらしい正論を言うけど形にできない人」がいましたら、よい教材ですので、注視してみてください。というよりも、わたしたち全員、多かれ少なかれその程度の人間だと、まずは認めるとこから理解すべきなのかもしれません。


(続)



☆お知らせ☆


自主企画「第一回 さいかわ卯月賞 テーマは「春」」を開催しております。わたしが選者をいたします。(参考作品としてわたしも出しています。)

https://kakuyomu.jp/user_events/16818093074716315948


「これを機に犀川に目にもの見せてくれようぞ!」という、腕に覚えのある方はいかがでしょうか。皆さまのご参加をお待ちしております。(くれぐれもルールをキチンとお読みの上、ご参加くださいね)。

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