第5話 基礎の基礎の見直し3
六、ニーズを考えていない。
どんな素晴らしい小説も、読者のニーズを外していれば売れることはありません。極論すれば、ニーズに合えば技術レベルや面白さなど二の次ということです。それは小説家の世界だけの話ではなく、実社会でもそうではないでしょうか。何故百円ショップが繁盛しているのか。同じ目的を果たせるのであれば安い方がいいから、ですよね。このご時世、コストパフォーマンスというニーズは物事を決める大事な要素なのです。
わたしが書いていた時代はインターネット黎明期で、まだ紙の本にありがたみがありました。しかし今はむしろスマホで読めないと売れない時代になりつつあります。電子書籍ビジネスは失敗すると長い間言われてきたのが嘘のようです。
そんな中、もはや斜陽産業たる出版業界で生き残るにはやはり需要を満たした供給をしていかなければなりません。あなた方の当面の目的は公募でそれなりの賞を受賞してデビューの道を切り開くことです。つまり、公募を主催している出版社やその審査員のニーズを読み取って書く必要がある、ということではないでしょうか。
まずはその賞が求めている作品であることが絶対です。そして、最終選考の審査員達が「この作品が良い」と求めたくなるニーズを掴まなくてはなりません。賞自体については募集内容や傾向から推測できますが、審査員達が何を求めているのかは不透明です。最終審査になると「要は売れる作品」、「爆発力はないけど即戦力になる作品」、「作者の成長に可能性を感じる作品」など、ニーズは様々です。審査員ではなく会社のお偉いさん方の経営・販売方針によっても変わります。あなた方が推測しても仕方がないことなのかもしれません。
ですが、「作者の成長に可能性を感じる作品」については、かなりのチャンスが潜んでいます。作品にではありません。書いている作品を通したあなた方に、です。公募や賞などは入り口でしかありません。実際にはそこから利益を出してくれそうな人材を出版社は探しています。作者自身について興味がないわけがありません。
ということで、「作者の成長に可能性を感じる作品」を作るにはどうすれば良いかを考えなければなりません。そのニーズを満たすことこそが、他の作者を押しのけてのし上がっていく道なのです。
蛇足ですが、「自分の世界を理解してくれ!」みたいな自己満足系の作品は選考開始後、早々にご退席いただくことになります。いいですね。お客さんのニーズを考える。この事自体を大事に思うところから考えを改めてください。
七、「作者の成長に可能性を秘めている作品」など、いきなり書けるわけがない。
いきなり絶望的な話からスタートですが、「六、ニーズを考えていない。」で訴えていた「作者の成長に可能性を感じる作品」をどう作ればいのかです。答えは今のあなた達には無理というものです。何故なら、それは現役プロという荒波に揉まれて養わていくものだからです。
とはいっても、今すぐに「作者の成長に可能性を感じる作品」というのにアプローチできないわけではありません。もったいぶらずに言いますと、「クオリティは八割の出来でいいから、話が面白い小説」です。わたしは「十割・八割理論」と勝手に名前付けしておりますが、小説に関わらず創作物において評価をされるのは、「面白みはなくとも完璧な技術力(十割)の作品」か「技術については向上の必要はある(それでも八割はないとダメですけど)が、話はとても面白く、作者に引き出しの多さを感じる作品」のどちらかです。前者はアマチュアが書くレベルではほぼ無理ですが、後者は努力でなんとかなります。それはどうすればいいのか、答えは”引き出しの多さを感じる”=プロットの量です。普段より職業として物書きを見ている人には、その作家の引き出し具合など作品を見ればそれなりに推測できます。ですので、少しでも最終選考に残れる可能性を増やすには、やはりプロットをたくさん書いていることのなのです。
大事なのは日頃の基礎鍛錬。これを疎かにして上達の道はありません。プロのピアノニストになるには毎日寝る間も惜しんで練習して当たり前だと思うのに、小説家になるのには毎日の勉強や訓練など必要ないと、どこか思ってはいないでしょうか。
仕事をしながら公募の作品を書いている方は大変でしょうが、大変だろうと困難だろうと、読者や審査員はあなた方の事情を斟酌はしてくれません、面白い小説を書けるかどうかが全てです。ですので、結果を残せる可能性を万分の一パーセントでも上げるには、訓練あるのみなのです。
今回はこれくらいにしましょう。「基礎の基礎の見直し1」から同3まで読んで、地味な努力しかあなた方の願いに報いる手段はないのだと観念できたのではないかと思います。これまでネチネチと嫌味を言ったり、発破をかけてきたましたが、ここまで読んでどこかプロの道を諦めそうになっているあなた方の気持ちに再び火が着けば幸いです。(と言いながら、もう少しだけネチネチと書きます)
(続)
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