第3話 基礎の基礎の見直し1

二、学校の勉強の考え方から抜け出せていない。


 物書き志望の人の多くは高学歴文系出身の方が多く、真面目に文学を勉強してその延長線上で小説家を志す方も少なくありません。あなた方においても、大学や大学院で専門教育を受けて知識や見分はたくさん持っている人もいるのではないかと思います。

 ですが、まずは学校教育の考え方で小説を書いていくスタイルを脱却してほしいと思います。何故ならば、小説を書くことに教科書はなく、プロを目指すのに勉強のようなメソッドも理論もないからです。


 前回の現実的な仕事の話を思い出してください。社会に出れば学校教育で学んだことより、資料を大量にコピーをしてホッチキス止めする方がよっぽど大事であったりします。ご自慢の専門分野での実績よりも、複合機の紙詰まりを直せる方が、社会ではよっぽど重宝されたりするのです。あなた方の学校教育での実績など、社会活動の中ではほとんど意味がありません。特に小説などの芸術分野においては、学校の成績を自尊心の根拠にすると碌な目にあいませんので、改めて下さい。


 学校の勉強の何がダメかというと、「学ぶ」という受動的なスタイルだからです。わたし達は子供の頃より長い間このスタイルを強要され続けますが、社会に出れば自分の足で歩かなければなりません。プロ活動も年齢の関係ない社会活動です。学校のように先生がいるわけでも教科書があるわけでもありません。「上手な文章の書き方」を読破したらプロデビューできるわけではないのです。「仕事のできる自分」を作り上げないと、何万もの作家志望の中から頭を出すことはできません。学校の勉強の延長線上の「教えてもらう人ありき」の考え方で個人事業主になれると思いますでしょうか。


 本項目では、「学校の勉強みたいに真面目にやっていけばいずれはプロになれるわけじゃないんだな」と気がついてくれれば十分です。ちなみにですが、学生さんたちがプロを目指している場合は、本項目について、「そういう厳しい世界なんだ」と思っていただければ十分だと思います。


三、一人で書いている。


 素人の趣味としての創作活動であれば、好きなことを好きなように書けば良いのですが、あなた方は商売として小説を書きたいわけですから、多くの読者の目を気にする必要があります。アマチュアには必要のない批評や感想にも神経を尖らせる必要があるのです。何故ならば、あなた方は人気商売を選んだのですから。


 主題に戻りますが、あなた方は公募活動等を一人だけでやってはいないでしょうか。もっと正確に言いますと、誰かに読んで貰ったり、批評や批判の目に晒されながら書いていますでしょうか。あるいは、アマチュア仲間内の緩い環境の中でお世辞を多分に含んだ褒め合いの中で書いて、いい気になってはいないでしょうか。

 プロになるということは、お金を頂いて読んでもらうということです。読者にはお金を払った分の文句をいう権利があります。もっと言えば、作者には誹謗中傷を受け容れることも仕事の内であることを理解しなければなりません。あなた方は小説を売って生計を立てるわけです。時にはお客さんに媚びてでも一冊一冊を売らなければなりません。寝てても給料日になればお金がもらえるサラリーマンとは違い、自分の努力で売上げを立てていかなければならないのです。(厳密には出版社や編集者と一緒に利益追求をしていかなければなりません)


 ということで、一人で小説を書いて、公募に出し続けるのはとても危険です。何故ならば、誰もあなた方を批判も否定もしてくれませんから、あなた方はまったく成長しないのです。仮に書いたものをweb上で掲載したとしても、相手は素人読者です。今のあなた方に必要な批評やアドバイスなど返ってくるわけがありません。

 解決策は可能な限り相手を見つけることです。お金を払って作家講座を受講するのはあまりオススメしません。それは学校の勉強方法だからです。もちろん、そのレベルから技術の向上が必要であれば仕方がありませんが。

 できるだけプロの指導を実戦形式で仰ぐこと、あるいは慣れ合いのないデビュー志望同士で切磋琢磨することが必望ましいと、わたしは考えております。


 もちろん、一人だけで書いてデビューしたり大きな賞を獲る方はいますが、それは奇跡と言って良いくらいの幸運でしかありません。実世界では、カクヨムで活動しているレベルの「ちょっと上手な素人」などは掃いて捨てるほどいるわけで、あなた方はそのような集団から一人でも多く蹴落さなければなりません。できる限り最良で最短な道を突っ走る必要があります。


 わたしは素人時代より作家志望仲間たちと作品を競い合ったり、ボロクソ言ったり言われたり、どうあるべきかを議論したり、とにかく人の目を通して書き続けてきました。それによって自分の中だけでは絶対に生まれてこなかった価値観や考え方、あるいはテクニックを学ぶことができました。

 そういう環境にあっても、絶対に人の話を聞かないで二十年以上経った今も公募生活をしている知り合いもいます。自分一人で書き続けてプロになれるなんてことは絶対に期待をしてはいけないと、わたしは思います。

 

 もっと具体的な環境構築への方法を挙げるに至らず申し訳ありませんが、是非ともサークル活動や見知らぬ他人との交流を通して、少しでも自分の「就職活動」への価値観を刺激するようにしてください。


 今回はこれくらいにしましょう。ここまで読んで、間接的というか、遠回りな話をしているように聞こえるようでしたら、まだまだ小説家デビューどころか社会というものを理解しようとしていないと思います。足元をしっかりと見つめ直してください。おそらく、原稿用紙や画面に向かう以前のレベルの話ですよ。


(続)

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