第6話 男嫌いのお嬢様とクール系女装SP


 シャルロッテからマイナスドライバーを借りた後、僕はさっそく、電源タップを解体してみた。


 ネジ止めされているだけの簡単な造りなので、解体するのにそこまでの手間は掛からない。


 数分程で裏側にある四本のネジを外し終え、ふたを開けて、タップの中に目を向けて見ると……そこには案の定、緑色のプリント基板の姿があった。


 その小さなプリント基板を人差し指と親指で摘まみ上げると、シャルロッテの前へと掲げて見せる。


「シャルロッテ様。これは、盗聴器です。何者かが貴方様の会話を盗み聞きしております」


「う、嘘、でしょ……?」


 顔を青ざめさせ、その場に呆然と立ち尽くすシャルロッテ。


 僕はそんな彼女に対して、静かに声を掛ける。


「このお部屋に、今まで、シャルロッテ様以外に来られた方は?」


「ア、アタシ、そんなに友達いないから……以前まで雇っていたボディーガードと、ハウスキーパーの伊藤さんくらいしか、部屋に入れていないわ……」


「なるほど。では、以前まで雇っていたというボディーガードの履歴書をお見せしてもらってもよろしいでしょうか? できれば、そのハウスキーパーの方のも」


「わ、分かった」


 シャルロッテはコクリと頷くと、そのままリビングを出て、自分の部屋へと向かって行った。


 そして、数分ですぐに戻ってきて、僕に一冊のファイルを渡してくる。


「このファイル、前まで雇っていた人の履歴書とかまとめて入っているやつ! これでいいかな!」 


「ええ、ありがとうございます」


 僕はファイルを受け取ると、その書類の一枚一枚に目を通していく。


 そんな僕を近くで見つめていたシャルロッテは、落ち着きを取り戻したのか……疑問の声を上げた。


「ね、ねぇ、レイ。貴方、何でその電源タップが盗聴器だって一発で分かったの?」


「色です」


「色?」


「はい。この電源タップだけ、他の部屋の物と色が異なっていました。シャルロッテ様の部屋にあるものの殆どは、使用して1~2年の、比較的新しいものが多いです。ですがこれだけ、色焼けを起こしていて少し黄ばんでいます」


「え、えぇ? アタシの目には色の差なんて、全然分からないんだけど……この電源タップも、新品のように白く見えるよ?」


「よく見ると微妙に色が異なります。あとは……そうですね。市販のものと少し形が異なっていますかね。まぁ、盗聴器だと分かったのは、殆ど勘みたいなものですよ。どうやらその勘は当たりだったみたいですが」


 そう答えると、僕はファイルを注視する。


 ファイルにある書類は四枚。つまり、ボディーガードの数は四人となる。


 一人目、日本人女性 黒髪ポニーテール 山下清美 18歳。

 二人目、アメリカ人女性 茶髪ロングヘアー ハンナ・K・テイラー 19歳

 三人目、オーストラリア人女性 金髪ショート クレア・エバンズ 18歳

 四人目 日本人女性 黒髪ショート 真壁香澄 20歳


 4人の経歴に特に目立って変なところはない。まぁ、経歴詐称などは書類の上ではどうとでも可能か。


 書類に一通り目を通した後、僕は、ファイルをパタンと閉じる。


 するとそんなこちらの様子を見て、シャルロッテは声を掛ける。


「ど、どう? 何か分かった?」


「いいえ、これらの情報だけでは何とも。ですが、容疑者の顔を覚えておくことに越したことはないので。見たところ、シャルロッテ様が今まで雇ってきたボディーガードは4人。もし、これらの人物が再び貴方様の近くに現れるようなことがあったら、その方は黒だと思った方がよろしいでしょう」


「……わ、分かった」


 シャルロッテはそう言って僕にコクリと頷きを返す。


 そしてその後、彼女へファイルを返すと……シャルロッテは目を丸くさせて、再び開口した。


「貴方、とっても優秀なのね。今まで雇ったボディーガードで、盗聴器に気付いた人は一人もいなかったわ」


「僕……いえ、私は、今まで変わった環境に身を置いていましたので。こういったことには特別鼻が利くんですよ」


 今まで経験したことを踏まえると、僕はボディーガードというよりは、傭兵に近い立ち位置にいると言えるだろう。


 時に軍にとっては、情報は一人の命よりも重いもの。


 僕の師は、常に盗聴器の類には目を光らせていた。


 だからこの鼻の良さは、師匠譲りのものといえる。


「これを仕掛けてきた人は、いったい何のために、アタシの部屋に盗聴器を忍ばせたのかな……」


 シャルロッテは顎に手を当て、俯き、不安そうにそう呟く。


 その言葉に、僕は静かに答えた。


「……ひとつ、シャルロッテ様に伝えておかなければならないことがございます」


「? 何?」


「咲守家の当主、私の祖母、咲守桜子からの情報です。シャルロッテ様が通られている学園に――――貴方様を狙っている暗殺者が紛れ込んでいる可能性があるそうです」


「え……?」


 僕のその発言に、シャルロッテは目を見開き……盗聴器が見つかった時よりも数段、驚いた表情を浮かべる。


「な……え? は? あ、暗殺者……? な、何を言っているの、貴方……。だってここは、銃を持っている人なんてどこにもいない、平和な法治国家、日本なのよ? そんな馬鹿なことが―――」


「残念ながら本当の話です。僕の任務は、その暗殺者から貴方様を守ること。……見つけ次第、始末しても良いとも言われております」


「し、始末って……な、何を言って……」


 僕はスカートの下、太腿に取り付けてあるホルダーから瞬時に拳銃、ベレッタナノを引き抜く。


 一瞬で銃を引き抜いたので、スカートは少し揺らめくだけだった。


 僕の手にある銃を見て、シャルロッテはギョッとした表情を浮かべる。


「な、え……えぇ!? そ、それ、まさか本物の拳銃!?」


「確かに日本では、銃などの武装は銃刀法違反で固く禁じられています。ですが……プロにとっては国の法律など関係なく、どうとでも、日本に武器を持って来ることは可能です。まぁ、僕の場合は、政府公認の立場にいますので……違法な手段でコレをこの国に持ち運んだわけではありませんが」


「本当……なのね。本当に、アタシを狙っている暗殺が……」


 ようやく現実を受け入れたのか、シャルロッテは額に汗を浮かべながら大きくため息を吐く。


 そして、こちらに困ったように笑みを浮かべた。


「分かった。一人が良いからって、ボディーガードをお断りしている場合じゃないよね。殺されるのは……御免だもん」


「状況を御理解いただけました?」


「ええ。レイ、貴方をアタシのボディーガードとして認めるわ。どうか、アタシを助けてちょうだい」


「お任せを」


 こうして僕は、正式に、シャルロッテ・Lジェイ・ウィルフォードのボディーガードとなった。


 ……僕の目的は、あくまでも、両親を殺した殺人鬼への敵討ち。


 だから、早く暗殺犯を見つけて、この任務をとっとと終わらせてやるとしよう。

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