第13話 いざ、新しき遠征へ


「起きて……起きて……」



 むにゃむにゃ。

 またしても私の安眠を阻害する声。


 私起きてますよ、もう食べられないって言ってるじゃないですか。


「うふふ、ごちそういっぱぁーい……。

 まだいけそうって?乙女にあんまり恥をかかせないで下さい……ぐぅ。」



 埒が明かないと踏んだタロンが、私の布団を強引に剥ぎ取る。


「いつまで祝勝会気分でいるんだ、メグ。今日も学校。身仕度しないと遅れるよ!」


「ひゃあ。……なんだ、朝なのね。

 ってもう7時半じゃない、起こすのが遅いわよ!」


「声かけしたのはもう4度目だよ。自分の寝起きの悪さを恨むんだね。」



 何を隠そう今更だが、私は典型的な寝坊癖があるのだ。タロンがいなければ1、2限はすっぽかす社長出勤になっていたに違いない。


 乙女は身だしなみが命。といっても時間もあまりないので軽く髪に櫛を入れ、いつものツインテールにまとめる。


 リュックに必要なものを詰め込んだあと、ぷるんつを乗せ、急いで寮を後にする。

 寮舎と教室のある校舎がそこそこに近いのはいいことだ。ギリギリと言わず、少し余裕をもってのセーフと相成った。


「おはよう、メグ。1人で慣れない朝の準備、大変じゃなかった?」


 フラン、流石に鋭い。


「タロンがいないと寝過ごすところだったわ。カロスさん様々ね。」



「メグちゃん、今日は1日座学になりますよ……。

 メグちゃんの教科書や体操着はまだ届かないから、しばらく私が見せてあげますね……。」


 そう言って机を寄せるリリエラ。当然のことながら距離が近くなる。間近でにっこり微笑むリリエラ。



「あら、メグメグとリリィは仲良しなのね。ふふふ、うっかり一線越えちゃえばいいのに。」

 と前から熱い視線を送るカナ。


 リリィってリリエラのことよね。え、カナは何を言っているの?

 とキョトンとした私に、頭を痛めてるような表情でフランが補足を入れる。



「あぁカナね、女の子同士がいちゃいちゃする姿がたまらなく好きなの。アホなのね。


 他のパーティにもよく馬鹿にされるけど、メグ、その辛さを共有できる仲間が増えて良かったわ。」


 なんだなんだ。良くわからないがそんな気持ちのシェアはごめんだぞ。

 どうにも話が飲み込めない私は聞く。


「カナ、女の子のことが好きなの?」


 その質問に、いいえ、断じて違うわ!と鼻息荒く答えるカナ。


「私はカップルの付かず離れずの程よい距離感を眺めることに生き甲斐を感じるの!私は決してその中に入らないわ。


 禁断の思いを抱きながら、でも自分の気持ちに抗えない!


 もうちょっと踏み込みたい!でももうちょっと離れていなくちゃ……。そんな感じ!そんな感じなの!!


 でも至極残念なのは、そんな女の子同士のカップル、周りに全くいないことね……。」



 そらせやろ。



 私たちの年齢だと男女のカップルですら話を聞かないから仕方ない。

 齢十数にして思いっきり性癖を歪めている人がこんな近くにいたもんだなぁ、となぜかしみじみ思う私であった。



 そうこうしているうちにホームルームが始まり、授業へと流れていく。



 そう言えばタロンの話。

 いつの間にかいた印象だが、実は昨日の祝勝会の途中でひょっこり私の元に帰ってきたのだった。


 一緒にごちそうにありついた後、カロスさんの様子や色んな土産話を話してくれた。



 大抵は天界の情勢や流行り物などトリビアめいたものだった。しかしその中に聞き流せない、ブレイブ・ソウルの話もあった。


 タロン曰く、ブレイブ・ソウルとは人間や人間にほど近いモンスターがごくごく稀に落とすドロップアイテムということだった。


 互いに死力を尽くして戦った戦闘の後に、敗者の力の残滓がアイテムとして吹き出ることがあるらしい。

 その1つがブレイブ・ソウルということだった。



 しかし分かったのはここまで。

 ブレイブ・ソウルが何のために役立つアイテムなのか。それとも意味のないアイテムなのか。


 そういった情報はタロンの今の段階の調査ではまだわかりかねる、ということだった。


 タロンは情報が不完全ですまないね、と言っていたがこの短い期間でこれだけ話をまとめてこれたなら上々だろう。


 タロンは案外義理堅いやつかもしれない。そう感想を抱いたメグはタロンに感謝の抱擁を返すのだった。




 授業もあと1つで放課といったとき、リリエラがこそこそと口に手をあて話しかけてきた。


 先生が板書に熱心なのを確認し、私は耳を貸す。


「あのね、メグちゃん。私、オカリナが挑戦するダンジョンがないかなって調べていたらいいところが見つかったの……。


 このあとみんなで相談したいんだ。どう……?」


 うってつけの話だ。

 いいよ、と満面の笑顔を返す私。


 タロンといいリリエラといい、みんな、熱心に動いているなぁ。



 帰りのホームルームが終わり、4人が集まった。

 早速リリエラが話を振る。


「実は挑戦するのにちょうどいいダンジョンがみつかったの……。

 階層はやや深いけど道中にでるのはスライムや小さな動物に虫ばかり。私達でもボスまで辿りつけそうなの。」


 それを聞いてフランがキラキラ目を輝かせる。


「お手柄じゃない、リリエラ!何ていう洞窟なの?」


「タンタラ洞窟といいます。冒険者にも旨味がなく、実害もない洞窟なので放棄されている場所らしいです。ただ場所が少し問題で……。」


「遠いのね?」とカナ。


「そうなんです。山を一つ越えて、更に草地を分け入ったところになります……。」


 行くのは大変そうだが、いい話でもある。私は気に入った。


「タンタラ洞窟、挑戦賛成に一票いれます!せっかくリリエラが探してくれたダンジョン、無駄にしたくないです。」


 フフッ、とカナ。


「いいじゃない?どんなモンスターも私の棍棒の錆にしてやるわ。」


 うーんと迷っていたが最後にフランも飲んだ。


「行くのは次の休みを使って、ってことになるわね。火炎札、たくさん作っておかなくちゃね!」



 こうしてオカリナは次の休みにタンタラ洞窟に挑戦することとなった。

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