第12話 祝いの席はささやかに


「じゃあそろそろ質問は終わりかな。

 おいらどっちにしろ、対ボス無双の効果についてカロス様に報告したいし、一度あっちに戻るよ。


 そんなにかからないと思うけど、しばしのお別れということで。じゃ。」


 色々助かったし、タロンがこれからもついてくれると心強い。

 私も素直に感謝を述べる。


「ありがとう、タロン。これからもよろしくね。」


 後ろ姿のまま手をひらひら振るとタロンは飛び立っていく。


 しかし、アイテムプールを何気に確認していた私は、また聞きたいことができた。

 急いでタロンの服の首元を引っ張り繋ぎ止める。


 首が締まり、ぐえっ、っと低い声を盛らすタロン。


「タロン、これ。

 アイテムプールに『ブレイブ・ソウル』ってアイテムがあるんだけど……これ何?」


 タロンは不満たらたらな顔だ。


「普通に声をかけるとかあるだろ。おいらのこと何だと思ってんだ。はぁ。」


 ごめんってー、っと反省の色の少ない声で謝るメグ。


「えーと、何々。うぅん、そのアイテムは聞いたことがないな。」


「またまたー。機嫌損ねちゃってはぐらかしてるのー?」


 タロンは考え込んでいる。


「いや、本当に知らないよ。

 冒険者に付くことは何回かあったけど、裏を返すとおいら、その程度の知識しかないからね。

 

 けど何か訳ありげなアイテムだね。大事に持っておくといいだろう。

 土産話がもう一つできたな。おいらも暇があれば調べてみるよ。」


 ありがとう、と私は伝える。


 そこで、おそるおそるフランたちが私たちに声をかけてきた。


「ねぇ、メグ。さっきから話しているその方、天使か何かじゃないの?私たち畏れ多くて遠巻きに見てたんだけど……。」


 それを聞いてタロンが偉そうに踏ん反り返る。


「畏くもカロス様の使い、タロンとはおいらのこと!

 これから下界でしばしメグの世話をする。怖れ敬えよ!」


 影のかかった笑顔でタロンに手をかけるメグ。


「そうなの、この偉そうで揉みがいのあるほっぺなのがタロン様なのー。」


 タロンのほっぺを掴んで、ぐにぐに弄ぶメグ。


 タロンの威厳はまさに3秒天下といったところだった。

 オカリナのメンバーに代わる代わるほっぺをつままれるタロン。



「やらかーい。指が吸い付くー。」


「肌理の細かさ、弾力、癖になるかもです……。」


「タロンか……。この感触を生かせるあだ名をつけたいわね。」



 ほっぺを少し赤くさせてほうほうの体で逃げ惑うタロン。

 最後には、覚えてろよー、と捨て台詞を残し天界へと帰って行った。



「行っちゃったー。」と名残惜しそうなフラン。


「じき戻るっていってたわ。

 さすがにやりすぎたから、ほっぺを揉むのは偉そうなことを言ったときだけにしましょうね。」



 ところでメグメグ、とカナ。


「アレスさんとの模擬戦の勝利、おめでとう!

 同じパーティのメンバーとして鼻が高いわ!!」


「メグちゃん素敵です。

 対ボス無双のスキル、本当に効果があったんですね……!」

 とリリエラも興奮している。


「それでみんなで話していたの。

 今夜はメグメグの大勝利と初入所、そしてオカリナへのパーティ参入を祝って、祝勝会を開こうということになったの。いいわよね?」


 みんなが私を祝ってくれる?とても嬉しいことだ。


「ありがとう!私プリカ養成所に来て良かった!!」


 フフッとフランは笑う。


「そういうセリフは祝勝会にとっておくのよ。」



 私は武器などの片付けの後、寮舎に通された。

 私の部屋は二段ベッド2つの4人部屋だったが、自分以外は遠征中の3人パーティということで誰もいなかった。


 プリカ養成所ではパーティが部屋の割り当てに優先されるらしく、ちょうど4人パーティの私たちは申請が通れば近いうちに同じ部屋になるということだった。



 寮舎の案内もそこそこに、私たちは食堂の一隅を陣取り祝勝会を開いた。


「「「「カンパーイ!!」」」」


 ジュースが入ったコップを勢いよく合わせる私たち。

 ぷるんつはゼリーをすすっている。



「メグちゃん、オカリナへようこそ……てへへ。

 そして素晴らしい勝利、本当に素敵でした。」


「私はメグメグを一目みたときから何があると思っていたのよね。」とカナ。


 でもさー、とフラン。


「これからの戦い、メグの能力が活かせるように私たちも立ち回りを考えていかなきゃいけないわよね。」


「へへへ、所詮私は雑魚戦だとスライム以下だから……。」


 それ良くないっ、とビシッと言い放つフラン。


「みんな適材適所なのよ。メグの能力のおかげでオカリナの潜在能力はぐっと開いたわ。」


「ぜひぜひ、連携を取りながら助け合いましょう……!」


 ところでさぁ、とカナ。


「この辺りで一番簡単にボスと戦える場所ってどこかしら?

 メグメグの能力を存分に活かすならそこを考えないと。」


「ゴブリンの洞窟なら深さはそれほどでもないけど、私たちそもそもゴブリンに歯が立たないのよね。


 ボスって大抵深い階層にいるから、巡り合うだけでも大変って感じ。」


 うーんと考え込む4人。



 しばらく頭を悩ました埒のあかない課題をフランが、パンッ、と手を打って終わりにする。


「まぁ、急いで何かしないといけないわけじゃないし、養成所での学びから得られるものもきっとあるわ!

 まずはそれぞれが一つ一つできることを増やして行きましょう!」


「そうですね。ささっ、メグちゃん。せっかく用意したご馳走が冷めちゃいます、頂きましょう……!」




 ゆくゆくは自分のスキルを活かせる何かを考えたい。

 ただ今は仲間の用意してくれた宴を無駄にしないため、感謝を示してご馳走になるメグであった。


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