3.屋上とグラウンド

「きーんこーんかーんこーん…」


キーンコーンカーンコーン…


このチャイムはいつのチャイムであろうか。

そう。放課後を伝えるチャイムである。


ならば、この気の抜けたキンコンボイスは一体誰のものなのだろうか。

そう。何を隠そう柊裕翔のものである。


では、なぜこんな気の抜けた声で壊れたラジカセのようにキンコンボイスを連発するのだろうか。







そう。迷子である。








一年間も、ずっと、別に転校してきたわけでもないのに、なぜか、この二時間、な・ぜ・か。


彼は…

迷子なのである。


「いやはや参った。この世界は僕に優しくない地形をしてるんだった。」


要約すると、『エグめの方向音痴だったの自分でも忘れてました☆』と言ったところか。なんて遠回りな言い方か。お前は平安貴族かっての。誰も周りにいないのに変に知識人振りやがって。


…ゴホンッ。

とにかく言い回しがわかりにくいこの男子生徒、裕翔は、校庭のど真ん中で立ち尽くす。

一体彼はどうして…どうして教室を探すのに、このだだっ広いだけで建物のたの字もない場所に行ってしまったのだろうか。コレガワカラナイ。


もちろん校庭には用はない。彼はかの邪智暴虐な不思議っ子、恵望の面を拝みに来ているのだ。(いや、恵望が運動部な可能性も素粒子レベルで存在するにはするのだが、そんな思考は裕翔にはないとだけ言っておこう。)さっさと屋内に戻らなければ…


しかし!裕翔はここを動くわけにはいかなかったッ!ここに来てしまった以上、動いてしまうのは悪手だと!


小学校の通学路でさえ満足に辿れない…徒歩五分のスーパーにお使いに行くのに、お

小遣いを使ってなぜか成城石◯に単騎で凸り、帰り道の金が無いのでそのまま交番のお世話になった…


この経験を元に裕翔は熟考する…そうッ!立身!

動かない!ただひたすらに!まるで、某うんたら電機のCMに出てくるインスパイアザネクストなあの木のように!!どっしりと!!


…裕翔の脳はそこで停止する。

愚直にも、木の気持ちを心に理解しようと、思考を放棄したからである。

…赤い夕陽の照ったあとに残った温かみのあるグラウンドにおいて、その場に三角座りをするその様は。


そう、以外の何物でもなかった。


「『不動如山動かざること山の如し』…」

「あのぉ〜…武田信玄になっているところ申し訳ないのですがぁ〜…邪魔なのでどいてもらっていいですかぁ〜…」

「うをびっくりしたいつの間に…」

「びっくりするのはコッチの方ですよぉ〜。なんでこんな所に座り込んでるんですかぁ〜?」

「迷子です。」

「…なるほどぉ〜。そういうことなら、迷子センタ〜に案内しますけどぉ〜?」

「済まないが、向かわないといけないところがあるんだ。送ってくれるんだったら、そっちの方で頼む。」


そんなアホのもとに近づき、勇敢にも声を掛ける人影がいた。

話しかけてきた陸上部らしい一年生の美少女は、裕翔の話を聞いて納得したかのように首を縦にふる。

彼女の納得が一体どのような納得だったのか、頭の良かった裕翔には知る由もないだろう。


今この瞬間、裕翔は、当たり前が当たり前じゃなくなることで、ポンコツになってしまっているからである。

さしずめ今回は、五時間目と六時間目…そして放課後の五分をただの校内散歩で終えたことが原因だろう。

思考回路の一番大事なつなぎ目がブッチされ、IQが大幅に低下。『何かを考えることは、何かを考えないことと一緒では?!(革新)』や、『そろばんの玉を全ておはじきや、駄菓子屋に売ってる角張ったモチみたいなやつに付け替えたら面白そう!』みたいな1KBにも及ばないほどの脳内処理を行った結果がこれなのである。


決してこの喩えが字数稼ぎなんてことは、言っちゃいけない。


「なるほど〜…一年の教室を探していらっしゃったんですね〜。」

「?なぜ僕が一年の教室を目指していることが分かったんだ…?」

「ふふ〜。ただの簡単な推理ですよ〜。真実はいつも一つ!…的なやつですよ〜」

「素晴らしいな。運動ができる奴は勉強もできるし、彼女もできて、何でも初見でこなしてみせるというのは本当だったのか…。」

「そんな完璧超人どこにもいないと思いますよ〜…普通に冗談ですよ〜。たまたま、私の友達my best friendが、屋上にいる先輩がどう〜…みたいな話をしていたので、そうなんじゃないかな〜って〜。」

「ああ、そうか!君はあの窃盗犯のクラスメイトだったのか!それは僥倖。見つけられたのが、君で良かった。」

「…エモちゃんの第一印象、ただの盗人みたいになってるんですね〜。こりゃ大変だぁ〜。」


友達が窃盗犯まがいの扱いをされているのを聞いて少し渋い顔を浮かべつつも、彼女は『ああ。アイツね?まぁ…アイツならそれぐらい平気でやるっしょ!w』みたいな、すっごい失礼の極み脳内をしていた。

圧倒的容量不足ながらも裕翔の脳は、彼女のひたむきに発する脳電波をなんとなく感じ取り、裕翔は『ほとんど毎日あんなやつと一緒の空間で生活しているんだろう…』と思ったのか、少し柔らかな目つきを彼女に向けることにした。


「ではちょっと〜、先生にちょっと抜けてくるって伝えてくるので〜、そのまま動かず待って下さいね〜…」


______________________________________


「はい〜というわけで行きましょうか〜。」

「はやっ。というか部活抜けるってそんなコンビニ行ってきますみたいなノリで出来んのか…?」

「大丈夫ですよ〜。実質この陸上部とかいう部活〜、私のかかあ天下のようになってるので〜。ちょちょいとすれば色々通るんですよ〜。」

「お前、一年だよな…?越前◯ョーマかなんかなのか?」

「プリンスじゃなくて、プリンセスですね〜…フフッ☆」

「こわい。…あ。そういえば名前を言っていなかったな。僕は柊裕翔。二年だ。よろしく。」

「は〜い。ご丁寧にありがとうございます〜♪私は一年B組の〜梦想恵海むそうえみって言います〜。きっとあの子に関わったら最後〜、一生面倒をかけられることになると思うので〜、これからよろしくおねがいします〜☆」


というわけで、一旦学校の校舎に入ることができた二人。

校舎に入ってからも、話はどうやらかなり弾んでいる様子。

実際裕翔もコミュ障というわけではなく、普通に赤の他人と楽しく会話できるようなボキャブラリーと品性は持ち合わせている。学校内に戻ったことで、頭のバグももとに戻っている。

やっとマトモな会話をしているようでこちらとしても安心だ。


「…そう!そうなんですよ〜!!やっぱりエモちゃんには、尿◯責めが、一番いいと思うんですよ〜!!(^ω^)」

「(^ω^;)」


そうですよねやっぱりそう思ってましたよ。

どうして作者は情景描写が薄いんだ?とアレほど思っていた自分が馬鹿だった。見抜けない自分が馬鹿だったとは。

こうも、インパクトもりもり過ぎて脳内妄想が星◯列車の三分の二ぐらいの速さで爆走するから、描写なんてもん考えるスペースが頭蓋骨の間に存在しないからだったんだな。

ったく。いつになったらほんへ始まんだよ。

んで?次の話に続くんでしょ?

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