第3話

 深夜、あちこちを駆け回り、どうにか人手不足の仕事を見つけることが出来た。日の出まで働くだけが、やはり体力仕事は疲れる。仕事の合間を見て、ポーションを飲み疲労を癒す。


 「おい、新人。こっちも手伝え!!」


 「はい。今行きます」


 解雇されるわけには行かないので、出来る限り従順に動く。それだけで、とりあえずは雇っておいてくれるからだ。


 仕事をしながら、頭の中で明日の予定を立てていく。いつも通り仕事をして、昼に家に帰って……あ、幻想樹のこと調べないとだから、冒険者協会にも行って。結構ギチギチなスケジュールになりそうだが、姉の望みを叶えるためだと思うとやる気が湧いてくる。


 仕事を黙々と続けていると、少しずつ空が明るくなってくる。もう一杯ポーションを飲んで、スパートをかける。そこから一時間ほどで仕事が終了になった。

 

 「新人、おめぇ朝のこっちで働かないか?」


 「お誘いは嬉しいですが、他の仕事があるので」


 「そうか。暇が出来たら来いよ?」


 「はい」


 上司と軽く雑談をしたあと、急いで家に帰る。次の仕事まで後二時間あるが、家の事をいろいろやっていたら二時間なんてあっという間だ。


 家に帰り、真っ先に姉の部屋に行く。まだ寝ているだろうが、昨夜のことがあるので気が気でないのだ。小さく寝息を立てて眠る姉を確認してから、キッチンに行き朝ご飯を作る。何も買ってきていないので、家で保管してる野菜で作っていく。


 料理を持ってもう一度姉の部屋に行く。


 「あ、起きてたんだ」


 「さっき起きたの」


 「体調は?」


 「大丈夫だよ。元気元気。それよりも、いい匂いだね」


 姉のベットの隣にある椅子に座り、作ったご飯をスプーンですくい姉の口元に運ぶ。昨夜血を吐いたせいでお腹が減っているのか、昨日よりも食べるペースが速い。

 とはいえ、速く与えすぎるのは胃腸に良くないのでこっちでペースを調整する。


 「今日もお仕事?」


 「うん。ちゃんと昼には帰ってくるから」


 「私より、君の体のほうが心配になるよ。ホントに大丈夫?」


 「大丈夫だよ、出来る範囲でしかやってないから」


 「なら安心かな。君には健康でいて欲しいからね」


 ご飯を食べながら元気に話す姉。昨日の先生の話を聞いて限りだと、今は安定しているらしい。それでも急いだほうが良いだろう。本気で姉の願いを叶えてあげたいのなら。


 「ご馳走さま。美味しかったよ」


 「よかった。じゃあ片付けて行ってくる」


 「気を付けて、いってらっしゃい」


 キッチンに行き食器を洗ってから、急いで着替える。最低限身だしなみを整えてから家を出た。




 夕方仕事が終わり普段ならあとは帰るだけのはずだが今日は違う。幻想樹の情報を求めて家とは反対のほうに歩いていく。その先には冒険者協会という、冒険者を束ねる建物がある。


 ここ王都は付近に未攻略の大きな迷宮が複数あるため、名の知れた冒険者も集う場所だ。だから、誰か一人でも幻想樹について、知っている冒険者がいるかもしれないと思い足を運んだ。


 思っていたよりも賑わっている。全体を軽く見ただけだけど、ここにいる全員魔力の総量が桁違いだ。さすが冒険者。とりあえず……カウンターで聞くか。


 「ご用件はなんでしょうか」


 「幻想樹の情報が欲しいんだ」


 「幻想樹ですか……。少々お待ちください」


 さすがに噂が広く知られているだけあって多少は情報があるのだろうか。なかったにしても、後ろには多くの冒険者がいる。話を聞く相手には事欠かないはずだ。


 「あんちゃん。幻想樹を探してるのか?」


 後ろからいきなり声を掛けれて驚く。


 「ワリィワリィ。俺はBランクのガイだ。よろしく」


 「僕はケイです。よろしくお願いします」 


 「あんちゃんランクは?」


 「僕は冒険者じゃないんです」


 「そうか。幻想樹の情報を聞いていた理由は?」


 「見せてあげたいんです、大切な人に」


 「なるほどねっと。あんちゃん話が終わったらそこのテーブルに来てくれ」


 ガイさんが指で酒瓶が大量に置かれたテーブルを指す。こうも早く情報を持っている冒険者と会えるとは思わなかった。会えたことに安堵しつつ、受付嬢のほうに視線を戻す。


 「過去に二件だけありました。ですが、どちらも情報が違っておりまして……」


 そんな感じで説明を聞いていく。まとめると、二件あった幻想樹発見の報告は、書類の概要が違っており、また発見座標に出向いても何も無かったとのことらしい。

 名の通り幻想。そして最後に幻想樹を見つけた、二つのパーティの名前と大体の活動範囲を教えてもらった。


 その後ガイさんの座っているテーブルに向かう。


 「お、あんちゃん。座りな」


 「はい。あの……」


 「ん?言いたいことがあるならパッと言ったほうがいいぞ?」


 「幻想樹を見たことがあるんですか?」


 「いんや、ない。だけど他の奴よりは知っている」


 腕を組み、深みを増した声でそう断言するガイさん。僕としても、聞けることはすべて聞いておきたい。


 「幻想樹。冒険者なら、いや冒険者じゃなくとも一度は聞いたことがあるだろう幻想の樹。というのはまぁ、世間に広がる噂の範疇だ。だから、そこにない話をしよう。一つ。幻想樹は通常の人間には見えない。二つ。幻想樹が出現する辺りは魔物の巣窟になる。三つ。幻想樹を見たものは何かを奪われる」


 後半のそれは全て知らない情報だった。見えない……それが一番の問題になる。そして出現と話していたことから、移動するんだろう。最後の奪われるってのが曖昧だ。だが、それ以前に……


 「何故、そこまで詳しくご存知なんですか?」


 「受付の嬢ちゃんに聞いただろ?俺はそのパーティのメンバーだったからだよ」

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