エキサイトランド編
【第五話】お嬢様の睡眠時間はカーチェイス?
彼女は助手席で眠っていた。彼は、その寝顔を見て自分自身が感情的になり、理性を失ってしまわないかと怖かった。だから彼は彼女に話しかけることにした。
「お嬢様、目的地まで残り三十キロメートルです。」
「むにゃむにゃ……。」
彼女は寝ぼけた様子である。起きているのか寝ているのかはっきりしない。
「お嬢様、その返事は何ですか。僕を侮辱しているなら許しません。起きなければ、見ぐるみを剥がして白状させますよ。」
彼が言うと、彼女はピクッと震えて目を覚ます。
ブー、ブー、ブー
後続車が警笛を鳴らす。それは、まるで「遅いぞ!」と言っているかのようだった。後ろの車は車間距離を詰めてくる。彼が急ブレーキを踏めば、衝突は避けられないだろう。
「……煽り運転か。」
彼は呟いた。速度の標識は、時速五十キロメートルである。彼は標識の速度を守って運転している。決して遅くはないのだ。
「メーターは時速五十キロメートルだが……、もう少し早めるか……?」
彼は迷ったが、そのままの速度を維持した。後ろの車はパッシングし、右車線に入る。こちらの死角に入った。そして、速度を上げて追い越さずに、彼らの車と並走する。
「追い抜くのか、追い抜かないのか、はっきりしない車だ。」
彼は自分の車を傷つけられないかと心配だ。
バンッ、バンバンバンッ!
並走する隣の車が、彼らの車の荷台に、銃弾を打ち込む。
「奇襲か。アイスシールド!」
彼は、車全体に防御の魔法をかける。
バンバン、バババババ、バンバンバンバン
車に打ち込まれた銃弾は、彼の防御の魔法で吹き飛ばされる。
「少し、傷がついたが、大丈夫だ。」
さらに悲劇は続く。並走する車が、彼らが進行している左車線に向かって幅寄せする。
「危ないな……。」
彼は車の速度を少し遅くする。速度メーターを見ながら、時速五十キロメートルから時速四十キロメートルにした。攻撃してきた車のナンバーを控える。
「ナンバーは、ゼロ、ナナ、ニ、イチ、変な番号だな。」
その番号の車は、彼らの前方に入るために左の指示器を示す。彼らの前方に入った瞬間、前方より泥のようなものが発射された。
「視界を遮るつもりか。」
彼は即座に窓ガラスにウォッシャー液を噴射し、車の泥を洗い流す。
「アイスシールド、強化!」
彼は窓ガラスのシールドを強化する。前方の車のエンブレムを見た。そのエンブレムは、間違いなくベリー王国の王族のものである。
「お嬢様が乗っていることを知っているならば、とても悪質です。許せません。」
彼は腹が立っていた。彼女を狙う何者かによる奇襲で、より慎重に行動しなければならないからである。
「あの車は……、お姉様の所有物です。」
彼女は青ざめた顔と震えた声で言った。
「また(第三王女)ですか……。」
彼は深いため息をついた。彼女はその様子に、何かを察知する。
「あなたは、お姉様と知り合いのようですが、何かあったのですか?」
彼女が質問した。彼は少し躊躇っていたが話すことにした。
「
「ええっ、初耳です。元彼女ですか。」
「第三王女の名前は“レモン”。魔法学校の野外実習で同じチームになりました。僕は彼女を好きになって、告白しました。あるとき僕は自暴自棄になって、別れを伝えました。」
彼と第三王女の話を聞き、彼女は驚いた。何と表現すればいいのか、その言葉は見つからなかった。彼は、その雰囲気を感じ取り、少し休憩しようと考える。
そのとき、彼は二百メートルほど前方の左手に飲食店を発見する。左に指示器を示し、飲食店に立ち寄ることにした。
彼は飲食店の駐車場を見て、一番端に車を停めることにした。車の存在感を消す魔法を巧妙に仕込む。輪止めにタイヤが当たり、車に反動が伝わると、彼は少し高揚感を得た。
「着きましたね。」
彼女は目をギラギラと輝かせ、辺りを見渡した。
「お嬢様、非常に残念なお知らせがあります。目的地にはまだ到着していません。」
彼はシートベルトを外し、車のドアを開ける。
「お嬢様、僕と一緒に御食事はいかがですか。」
彼は彼女に一礼して食事に誘う。
「ありがとう。食事をいただきますわ。」
飲食店の扉の左側に、看板がある。
“チェリーのカフェ”
「いらっしゃいませ。二名様ですね。カウンター席でよろしいですか。」
「はい。」
店内の扉を開けると、壁一面覆い尽くすほどのヘッドホンと衣装ケースが目に入った。店員は、彼ら二人をカウンター席へと案内した。彼らはカウンター席に座る。
「チェリーのカフェでは、各国の名物や物産品を用意しています。エキサイトランド名物の“フルーツタルト”や“クリームシチュー”はおすすめです。」
彼は店員の説明を聞く。クリームシチューとフルーツタルトを注文する。
「なるほど……、食べてみたいですね。クリームシチューとフルーツタルトを二つ、お願いします。」
「ご注文はクリームシチューとフルーツタルト、二つですね。承知しました。」
「はい。」
数分後、彼らの目の前には、クリームシチューが並べられた。
「クリームシチューは、家庭によってわずかに味の差があります。初めから味付けがされている“ルー”を使えば、誰でも簡単に同じ味が作れます。エキサイトランドのクリームシチューは、茹で卵を薄くスライスし、放射状に並べ、上からビーフカレーを回しかける……という少し変わった斬新なクリームシチューなのです。」
彼らは、クリームシチューを一口味わう。
「美味しいですわ!」
「美味しいですね!」
彼らは同時に美味しいと言う。その美味しさのあまり立ち上がって踊りたくなってしまう。
「何だか、とても踊りたい気分だ……。」
「わたくしも、踊りたい気分です。」
「お客様、これがエキサイトランドの所以でございます。エキサイトランドは音楽の国でもあります。街の音楽が鳴り止むことはありません。店内や、街のあらゆる場所で踊り回ることは、この国の日常なのです。ここで長く生きる人々は、毎日騒音に悩まされています。難聴の患者が多いのです。そして、エキサイトランドの公用言語は手話です。イヤホンやヘッドホンは彼らには欠かせないものなのです。」
店員の説明に耳を傾ける。彼らは、イヤホンとヘッドホンを購入した。
「エキサイトランドの街を歩く際は、遮音性の高いイヤホンをつけてください。そうしなければ、あなたの耳は五分以内に難聴を引き起こします。」
店員が言うと、彼女は驚いた。
「えっ、難聴ですか。街の中は一体どうなっているのでしょうか。」
彼女は興味が湧いた。そして、街について知りたいと考えたのだ。
「お店を出て十メートルほど歩きますと、エキサイトランドの入り口がございます。入り口の門番に話しかけて、チケットを受け取ります。街を出る際にチケットを再び渡すと、無料でイヤホンがもらえます。ぜひ、行ってみてはいかがでしょうか。」
店員の言葉を聞き、彼らはエキサイトランドの街へ向かうと決意したのだ。
「とても楽しそうですね。すぐに向かいましょう。」
彼女の行動力に、彼は驚きを隠せなかった。
「お嬢様、まだフルーツタルトを召し上がっていません。」
「あら……、そうでした。」
彼女は思い出したような表情をした。彼は少し笑っていた。
「お取り置きも受け付けますよ。」
店員は何かを察したように言う。
「では、午後六時にまた来ます。」
彼女は店を出る。店員は笑顔で「承知しました。行ってらっしゃいませ。」
店員が言った言葉は、彼女の耳には聞こえなかった。彼がそれに気づいたときには遅かった。すでに彼女は音が聞こえなくなっていた。
「……お嬢様、僕の声が聞こえますか?」
彼女は彼を見て首を傾げた。彼は焦った。彼女の耳が聞こえなくなっていることに気づいた。
「(お嬢様は、呪いにかかっています)」
彼はメモ帳を取り出し、ボールペンを使って文字を書いた。彼女は驚いたが、それを受け入れた。
「……。」
彼女は何かを喋ろうとする。しかし、声は出ないかった。彼女はボールペンを持ち、メモ帳に文字を書いた。
「(音が聞こえません。声が出ません。)」
店員は、彼らを見つめている。口角が上がり笑顔に見えるが、目の奥は笑顔ではない。
「何も苦労せずに生きられると思ったならば間違いです。ここは、あなたの生まれた国ではありません。他人に親切にできる余裕は、この国にはありませんよ。」
彼らは、店を出て車まで歩く。店員は見届けていたが、しばらくして高らかと笑うのだ。
「ハハハハハハ!」
店員は首を百八十度回転させ、彼らを嘲笑する。彼は後ろを振り返り、店員を再び見た。すると、首が百八十度回転している。さらに左手と右足も百八十度回転し始め、うねうねと動いた。
「あれは……、魔物に呪われています。今すぐここを離れなければ!」
バン、バンバン、ドゴン!
大きな音とともに、すぐに建物は崩れ落ちた。倒壊した建物の下から、店員の腕がうねうねと伸びる。彼らの足を掴もうとする。彼らは急いで車に乗り込み、建物から離れた。
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