ベリー王国編
【第三話】お嬢様はベリー王国の迷宮へ向かう
車の速度が落ちた。彼女はそれを察知し、目的地に着いたと考えた。彼は迷宮の入り口付近に車を停めた。彼は車を降りて、助手席のドアを開ける。
「どうぞ、足元に気をつけてください。」
「ありがとう。」
彼女は車を降りた。迷宮の扉の前まで歩く。彼に目線を合わせると、彼はこくりと頷いた。
彼女は迷宮の扉に触れ、扉を開けた。すると、地響きのような音が聞こえた。数メートル先に、矢を構え、こちらを見る何者かを発見する。
「敵が現れました……!」
彼女は焦った。引き返そうと思い、扉に触れようとした。しかし、背後より追い風が吹いて、触ることができない。そのまま、バタンという音とともに迷宮の扉は閉じた。
「……扉が閉まりました、もう引き返せません。」
彼女は冷や汗をかいている。
「お嬢様、僕は背後にいますから、お嬢様は先頭で闘ってください。」
「えっ……、先頭で戦うのはあなたじゃないの?」
会話をしているうちに、敵が近づいてきた。敵は矢を放ち、彼女のスカートを撃ち抜く。
「きゃあ、危ないです。ばらばらの魔法!」
彼女はゾンデ棒に力を込める。先端部から薔薇の葉や茎が勢いよく発射される。それは一瞬にして敵に突き刺さった。
「ギャアア。」
敵の苦しむ声が聞こえ、すぐに敵は倒れた。
「大切なスカートが破れてしまいました。」
彼女は落ち込んだ。
「お嬢様、お見事です。薔薇の魔法ですか。最初から華麗な魔法を見せていますね。魔力切れにならないといいですが。」
彼は彼女を挑発する。
「いつ魔力が切れるか分かりません。いざというときは助けてください!」
彼女は必死だった。
「お嬢様が倒れそうなときには、助けますよ。基本的には背後にいます。」
彼はニヤリと笑っていた。
「わたくしは、戦闘が得意ではありません。ゾンデ棒を魔法道具に使う日が来るなんて考えたこともありません。装備も軽装ですし……、生きて帰れるのか不安です。」
彼女の不安を払拭するように、敵は倒れ、跡形もなく姿を消した。付近にはベリーの実が落ちている。
「敵を倒して、ベリーの実を手に入れたようです。良かったですね、お嬢様。レベルアップしました。さあ、次へ行きましょう。」
彼らは数メートル先に進んだ。すると、道は二つに分かれていた。彼女は左右どちらに進むか悩んだ。
「迷宮は、壁に沿っていけば必ずゴールまで辿り着ける仕組みなのです。だからわたくしは左へ進みます。」
「……御意。」
彼らは左へ進んだ。すぐさま前方に大きなヒグマが現れた。ヒグマは彼女に襲い掛かろうとする。
「スズナ、スズナ、スズナリ!」
彼女がゾンデ棒に力を込めて唱える。リンリンと鈴の音が鳴り、スズナの花と葉、茎が勢いよく発射される。ヒグマの動きを抑制した。その隙を狙って彼女はゾンデ棒を横に振る。
「切りつけよ、ばらばらの魔法!」
彼女は叫ぶ。ゾンデ棒の先端から、多量の薔薇の花弁が現れた。それは、まるで刃物のように、ヒグマを切りつけた。ヒグマは暴れ、彼女に再び襲いかかろうとする。
「う、嘘でしょ、まだ倒れないの……、もう魔力切れです。あと少しで回復するから待ってください!」
彼女はヒグマに背を向けるように、回避しようとした。しかし、ヒグマは彼女に飛び掛かり、彼女の背中を鋭利な爪で切りつけた。
「うっ、うう……!」
彼女は背中に鋭い痛みを感じた。彼女は死を覚悟した。その時だった。
キラッと、何かが光る。それは、まるで閃光弾のようだった。ヒグマは彼女に覆い被さるようにして倒れた。彼女は背中の重みに耐えきれず、その場に倒れ、意識を失った。
***
彼女が目を覚ますと、そこはテントの中だった。彼女は、温かな光と、温かな寝袋に包まれていた。
「……お嬢様、やっと目覚めましたね。」
彼は彼女に顔を近づけて呼吸を確認した。
「近いです。」
彼女は顔を赤くした。彼は顔を遠ざけた。
「……生きていて良かった。」
彼は小さく呟いた。
「この迷宮のボスが、いきなり現れました。予定外です。しかし、簡単に仲間にすることができました。第六王女の動物愛護の効果は絶大ですね。」
彼はテントの入り口を開けた。ヒグマが彼女をじっと見つめていた。先ほど彼女の背中を切りつけた張本人である。
「一緒に冒険してくれるらしいです。名前をつけましょうか。」
彼はヒグマに名前をつけるように言った。
「ヒグマルにしましょう。」
彼女が名付けると、ヒグマルは喜んだ。
「お嬢様の背中の傷は、僕の治癒魔法では完璧に治すことはできません。しかし、刻印として左手首に小さくまとめることができました。」
彼は彼女の左手を優しく握った。彼女が左手首を確認すると、そこには魔法陣が刻まれていた。
「迷宮を攻略したら、大きな病院で診てもらいましょう。」
彼は言った。彼女の目は、どこか遠くを見つめている。
「国の発展のためには、必ず代償が必要なのです。それを、今まで誰かに任せてきた……、その代償もまた必要なのです。」
彼女の目には涙が溢れた。
「……どうして、涙が出てくるのでしょうか。」
彼女は、自分でも驚いている様子だった。彼は彼女の涙をハンカチでそっと拭いた。
「優しいのね。わたくしは、あなたの名前を聞きもしないのに、こんな優しくしてくれて嬉しいわ。良かったら、あなたの名前を教えてくれませんか。」
彼女は、彼の名前を聞いた。
「僕の名前は、ベンゼン・オルト・レンと申します。伝説の騎士“レン”とは僕のことです。」
彼はようやく名乗った。
「危険そうな名前ですね。ベンゼン、オルト、キシレン?」
彼女は真顔で言った。彼は顔を赤くする。
「騎士“レン”です。紛らわしいのでオルトと呼んでください。」
彼は目線を逸らしている。
「オルト、これから宜しくお願いします。あなたは、わたくしの名前を覚えていますか。」
「ベリー・シック・カスタード殿下。名前を忘れるはずありません。」
彼は彼女の瞳を真っ直ぐと見つめた。その瞳はブルーベリーの実のように、深い紫色をしていた。
「本当の名前は、カスタード・プリンです。」
「……えっ?」
彼は驚いて目を丸くした。
「冗談です。」
「ははは。それは面白いです。でも、お嬢様が自虐をするのは、あまり良い気分ではありません。」
彼は苦笑した。
「お嬢様が安心して冒険ができるよう、僕は命に換えても護ります。」
「それは、わたくしの考え方には合わないです。」
彼女は彼の頬に手を当て、じっと見つめた。
その吸い込まれそうな瞳に、彼はゴクリと唾を飲み込んだ。
「大切な人だからこそ、言葉にしてはいけない言葉があります。わたくしの命は一つだけです。あなたが代用することはできません。」
しばらくの間、沈黙が流れた。
彼女の言葉を聞いて、彼は眉間にシワを寄せた。
「僕は、一度全ての迷宮を攻略し、伝説の騎士と呼ばれました。しかし、伝説のスポーツカーのパーツは入手できませんでした。魔力を持つ王女の同行がなければ、パーツを手に入れることはできません。あなたの力が必要です。」
彼女は左手に刻まれた魔法陣を見た。危険を顧みずに冒険を続ける必要はない。
「この魔法陣、全てのパーツを入手するまで、魔法陣が消えないように仕組まれています。オルト、あなたはミスを犯しました。わたくしは、魔法陣の有無に関わらず、冒険を続けるつもりです。」
彼女は、自分の右手を左手の刻印の上にのせる。
「主の呪いを解け、ブルー、ブルーベリー。」
彼女の瞳が青色に変化し、まるでブルーライトのような光が左手を覆い尽くした。やがて光が消え、魔法陣が消滅した。
「お嬢様、お見事です。自力で魔法陣を解いてしまうとは、とても驚きました。」
彼は驚き、拍手喝采である。
「あなたの魔法陣は、この国の伝統の魔法です。すぐに解読できます。」
彼女は、淡々と言った。
「僕は、お嬢様を見くびっていたかもしれませんね。」
彼はニヤリと笑った。
「わたくしも、“伝説のスポーツカー”に乗ってみたいのです。休んでいる暇はありません。今すぐ出発してパーツを手に入れましょう。」
彼女は、すぐに出発の準備をした。
「ぐるる、オレに任せろ。迷宮を案内するぜ!」
「“ヒグマルが喋った!”」
彼らは、同じタイミングで驚き目を合わせた。
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