25店「神様との晩餐 その8」
「そろそろ僕がここへ来た理由を話すね」
神様は持っていたグラスを空けると、真面目な顔をして僕の顔を正面から見た。
「ブーッ、ハハハハハッ、そのマスクを付けたまま真面目な顔で僕を見ないでくれよ」
真面目な顔が一変、神様は大声で笑い始めた。
いや、これあんたが無理やり付けさせたマスクだよね?
笑い転げる神様を見て、徐々に怒りがこみあげてくる。
「いやぁ、笑った笑った、ごめんよ」
神様は落ち着きを取り戻し多様だが、口元が今も緩んでいる。
一体、何の用なんだ?
「実はねミツル君、達成したんだよ」
えっ、達成したって?まさか……。
「君にお願いしていた異世界料理の記事のおかげで、異世界料理店の廃業が激減してね。むしろ今君が紹介してくれたお店が行列の出来る人気店に生まれ変わってるんだよ」
えっ、それは凄い!
「それというのも君自身の知名度にも関係しててね。君が魔獣討伐やクエスト攻略などで名前が売れだすのと同時に、君の記事を読む人が爆発的に増えたんだ。そうなると、分かるだろ?」
「僕の記事を読んだ人が、紹介したお店に行く」
「そう、そうなんだよ。おかげで君が紹介したお店で潰れたお店は一軒も無い。みんな君に感謝しているんだよ」
僕は何もしていない。ただ、仲間たちと楽しくご飯を食べて記録しているだけなんだ。
「だからさ、もういいんじゃないかって。君の【使命】はこれで達成さ」
えっ、ということは……
「そう、君は元の世界に帰れるんだよ。ご苦労様。こんなにも早く【使命】を達成したのはここにいる『シンジ』以来だよ。もっとも彼は元に世界には戻らなかったけどね」
「はっはっは!ずいぶん昔のことを!」
ギルド長は笑いながら、グラスを傾ける。
そういや、ギルド長はここに残るという選択をしたんだっけ。
「ミツル君はどうする?何なら今すぐにでも帰してあげるよ」
神様はそう言うと人差し指を伸ばしたまま頭上に手を伸ばし、何かをかき混ぜるようにくるくると指を回し始めた。
すると、神様が指を回した範囲の空間にぽっかりと穴が空き、空気がその穴に吸い込まれ始めた。
「君が望むならさ、この穴から日本へ帰れるよ、ね、どうする?」
こんなのでも神様だ。
簡単に時空に通路を作ってしまう。
でも僕の気持ちはどうなんだ。
ずっと帰りたかったのに、何かやり残したような気持ちでいっぱいだ。
そんな僕の気持ちを察したのか、神様は指を回すのを止めた。
すると、時空の穴はすぅぅと閉じていき、元通りの居酒屋に戻った。
「ミツル君、急いで決める必要はないよ。僕も少し忙しすぎたのかもね」
「いえ、神様。僕の気持ちはもう決まってます」
・・・・・・・・・・
「ねぇ、ミツル!早く行きましょ!」
「ああ、ちょっと待って。この料理に使ってるスパイスを調べてからだ」
「もぉーまたぁ?でもいいわ。ミツルらしい」
神様が僕の前に現れてから、一か月。
僕は相変わらず、ウメーディの街にいた。
あの時、僕が日本に戻らなかったのはやり残したことがあったからだ。
やり残したこと?
そう、もちろんこの世界の料理を食べ尽くすこと。
日本でいると決して味わえない、このファンタジー世界の料理はまだまだあるのだ。
ミトラ、アインツ、セリア、リネア、カシム、ヘブンズ、そしてギルド長シンジ。
彼らと共に行動していれば、様々な未知の料理に巡り合える。
僕の新しい夢は、おいしい料理をこの世界中の人に広めることだ。
一体何年かかるか分からない。
何年かかっても紹介しきれないかもしれない。
でも、これが僕が選んだ道。
僕はトラ顔紳士として、この世界の料理を伝える伝道師になるんだ。
いつか日本から僕と同じように、この世界に来る人もいるだろう。
でも心配しなくても大丈夫。
僕が彼らに美味しい異世界料理店を紹介してあげられるのだから。
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異世界食レポ!~現地の料理店を冒険しながら紹介~を最後まで読んでいただきありがとうございます。
また、食レポさせていただいた、大阪・兵庫の飲食店スタッフの皆さんもありがとうございました。
次回作もよろしくお願いいたします。
異世界食レポ!~現地の料理店を冒険しながら紹介~ めしめし @meshimeshi
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