25店目「神様との晩餐 その5」

立ち上がった僕の腹に鈍い痛みが走る。

ザガンの拳が僕のお腹にめり込んだのだ。


ゴォォォォッ

咄嗟に頭をかがめた僕の頭上を、ザガンの巨大な斧が通り過ぎる。

間一髪。

フーッとため息をついた瞬間、僕の目の前に炎の塊が迫っていた。


思わず後ろに倒れこんだ僕のお腹を、間髪入れずにザガンの足で追撃をかける。


ぐぅぅっ


お腹を踏みつぶされ呻く僕に、ザガンの斧が僕の首を狙って振り降ろされた。


キィィン


何とか剣で攻撃を受け止めた瞬間、ザガンの足が再度僕の顎を蹴り上げた。


ゴロゴロと地面を転がされる僕だったが、勢いを利用してなんとか立ちあがった。

強い…

今まで数多くの敵と戦ってきたが、ザガンほど隙を与えてくれない奴は初めてだ。、

彼はおそらく、僕の何十倍も戦闘を経験しているのだろう。

特に対人との戦い方がやけにスムーズなのだ。


僕は剣を構えつつも、スマートウォッチを起動させた。

ハンズフリー設定をチャットGOTさんに紐づけしているため、指示するだけで最適なアプリを発動する。

今回取得したアプリが、このシステムコントロールアプリなのだ。


「オープン」


ゆっくり僕の方へ向かってくる相手に向かって、ぼそっとつぶやいた。

すると、僕の目の前にステータス画面が現れる。

そのステータス画面は僕のじゃない。

ザガンのステータス画面がチャットGOTさんを通して、僕の目の前に現れたのだ。


しかし、そのステータス画面の多くは、モザイクがかかっている。

ザガンという彼の横に注意書きで何か書かれているようだが、モザイクがかかっていてそれすら読むことができない。


「へー、君は他人のステータスも見れるんだね、でも見えないでしょ。隠蔽をかけているからね」


えっ、ステータス画面は僕にしか見えないはず。

確かこれが見えるのは転移者だけという話だったけど…ということはザガンも僕と同じ転移者……!?


「そうだよ。僕も君と同じ転移者なんだ。ただ、20年以上前からここに住んでいるけどね……」


ザガンは言い終わらないうち、僕の目の前から姿を消した。

素早く動いたわけではない。完全に姿を消してしまったのだ。


「右わき腹!」


チャットGOTさんの声が聞こえた瞬間、僕は右わき腹に剣を構える。


ギィィィン!


金属音が鳴り響き、ザガンの斧が僕の剣に衝突する。

突然ザガンが僕の背後に現れ、斧で僕の脇腹を薙ぎ払おうとしたのだ。


勢いあまって、そのまま地面に転がされる・


「右によけて!」


咄嗟に右に転がった僕の背中を、突然目の前に現れたザガンの斧がかすめていった。


「バトルフィールド!」


僕が叫ぶとスマートウォッチから大量の弾丸が、ザガンに向けて発射された。


「くっ」


ザガンは斧で防ごうとしたが、受けきれずにいくつか被弾した。

その隙に距離をとる僕。再び僕らの周りに緊迫した空気が張り詰める。


「さきほどのスキルは瞬間移動です。一瞬で目的地へと運んでくれるレアスキルです」


チャットGOTさんが説明してくれる。


「初期レベルでは数メートルほどしか移動できませんが、熟練すると大陸間の移動も可能になるスキルです」


なるほど、それで気配が感じなかったのか。

これもチャラ神様から与えられたスキルなのだろうか?

それよりも……


「どうしてザガンは僕たちを狙うんだ?僕らは同じ立場じゃないか?」

「同じ立場だと?」


さきほどまで冷静だったザガンの口調が急に荒くなる。

なんだ、何に引っかかったんだ?


「貴様には元の世界に戻るための使命が残っているんだろう?俺にはもうない、もうないんだよ!」

「えっ」


油断した僕の頭上にザガンの斧が振り下ろされる。

ま、間に合わない。


キィィン!

僕の頭上よりも高いところで、金属音が鳴り響く。


「よぉ、危なかったな」


僕の背後から聞き覚えのある声が。

ギルド長だ。彼がザガンの攻撃を受け止めたのだ。

でもどうしてここに?


「おいヨシオ、お前まだこんなことをやってるのか?」

「だれがヨシオだ!ちっ、もう片付けたのか、相変わらずの化け物だな」


ザガンは素早く後ろに飛びのくと、ピューイと口笛を鳴らした。

すると、彼のパーティメンバーである【断罪の窯】の面々が彼の元に集まった。


「ここは撤退しますよ」


再び落ち着きを取り戻した彼がそう言うと同時に、彼らたちの姿は空気に透けるように薄くなっていった。


「待て、ヨシオ!」

「ヨシオじゃない!ザガンだぁぁぁ……」


ヨシ……ザガンたちは完全に姿を消してしまった。

ギルド長に聞きたいことは山ほどあるが、今はパーティメンバーのことが心配だ。

僕はギルド長を置き去りにし、ミトラたちの元へ駆け寄った。


グォォオン

ズゥゥゥゥン……!


ひと際大きなうめき声と同時に、キマイラが地面に崩れ落ちた。

倒れたキメラの禍々しい獅子の眉間に、ミトラの矢が深々と突き刺さっていた。

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