25店目「神様との晩餐 その4」

「ミツルさん、キマイラごときに手間取っている暇はないですよ。そろそろ本当の敵が現れます!」



再びキマイラと対峙する僕に、ヘブンズはボソッと呟く。


えっ、どういうことだ?


咄嗟にヘブンズの顔を見ると、ヘブンズは僕にお構いなしに詠唱を始めていた。

キマイラは大きく息を吸い込み、再度ブレスの態勢をとった。


「太古の氷塊!」


キマイラはブレスを吐くよりも早く、キマイラの胸に巨大な氷の塊が直撃した。

たまらずブレスを吐き出したキマイラだったが、照準が定まらず全く別の方へ向かっていった。


ザシュ!


倒れていたはずのセリナの体験が、キマイラの右足に突き刺さる。

噴き出す緑の血しぶき。

キマイラはたまらず膝をついたところに、カシムの剣がキマイラの胸を切り裂いたのだ。


ズズーン…

大きな音は立てて崩れ落ちるキマイラ。

僕はシャムシールの柄を再度握りしめ、とどめとばかりキマイラの首を狙って振り下ろした……はずだった。


やばい!

咄嗟にその場を飛びのいた僕の前を、二つの魔法の球が通り過ぎた!


誰だ!

僕は魔法球が飛んできた方向に目を向ける。


砂埃が落ち着きはじめると、砂埃の中から人型のシルエットが浮かび上がった。

あれは……断罪の鎌の魔術師オルカだ!

彼が僕に向かってファイアーボールを打ち込んだんだ。

でもどうして?


砂埃が晴れるとそこには断罪の鎌のパーティが立っていた。

魔術師オルガ、剣士フォルクス、斧術士でリーダーのザガン。

三人ともAランクの実力者。

ただ、普段の素行の悪さから、彼らに依頼する者も少ないという。


「てめえら、一体どこをほっつき歩いてたんだ!」


エンジェルボイスの女性剣士アイシャが、フォルクスの胸ぐらに掴みかかった瞬間、彼女の手首が大量の血をまき散らしながら宙を舞った。


「ぎぃやああああぁぁl」


痛みで叫ぶアイシャの胸に、フォルクスの大剣が貫いた。

ビクンと小さく痙攣したアイシャ、そのまま地面に倒れて動かなくなった。


殺した……!?

僕らにキマイラと相対していた以上の緊張が走る。


「キマイラを倒してもらっては困るのですよ」


ザガンは長柄の斧を構えながら不敵に笑った。

フォルクス、オルカも武器を構える。


「なぜだ?一体どうしてこんなことをする!」


獣人のボックスが唸るような声をあげる!

確かにそうだ。このことがバレると彼らもただでは済まないはずだ。


「依頼されたからだと言っておきましょう。依頼者のことを漏らさないのは冒険者のルールでしょ?」

「俺らを殺しても証拠が残るぞ!ぜってぇに逃げられねぇ!」

「証拠?ああ、武器で斬られた死体が残るということですか?それなら心配ありません。魔獣たちがひとかけら残らず食べてくれるでしょう。」


ピューイ。


ザガンは小さく口笛を鳴らすと、倒れていたキマイラが立ち上がり、斬られた足をかばいながら進軍を開始した。

どうやらスタンピードを引き起こした本当の指揮官は、ザガンらしい。

彼を止めないと、ウメーディが蹂躙されてしまうだろう。


「さぁ、始めましょう。ギルド長に来られてもやっかいですからね」


ザガンはゆっくりと僕の方へ歩いてくる。

しかし、僕らは【断罪の鎌】だけを相手にするわけには行かない。

キマイラを止めないと、結局スタンピードを止めることはできないだろう。


「【ビーストウォリアーズ】【エンジェルボイス】は、キマイラを止めてくれ!アインツ、リネア、セリナ、ミトラも彼らを手伝ってくれ!僕とヘブンズ、カシムで奴らを倒す!」


僕は精一杯の声を張り上げて、指示を出した!

リーダーではない僕の指示にも、素直に従う【虎の牙】パーティメンバーたち。

アインツが【ビーストウォリアーズ】と仲間の敵を討ちたい【エンジェルボイス】の面々を説得する。


「私らの相手を三人でするつもりですか?なめられたものですね!」


ザガンの斧が通常では届かないはずの距離から襲い掛かる。


ギィン!


咄嗟に剣で受ける僕の手がはじかれる。慌てて剣を構える前に、ザガンの斧が僕の頭に叩きつけられた。


ガンッ!


虎の仮面がザガンの斧をはじく。強い衝撃と痛みを感じはしたが、ほぼ無傷でザガンの攻撃を受け止めた。


「やはりマジックアイテムでしたか。本来なら死んでいたものを!」


ザガンが再度斧を構える。

確かに虎のマスクでなければ、今の一撃で即死だった。

さすがAランクパーティの筆頭。今まで戦ったどの相手よりも強そうだ。


「ミツル、死なないでね!」


ミトラの声が僕の耳に響く!そうだ、こんなところで負けてはいられない。

僕は生きて元の世界に戻るんだ!


カシムとヘブンズも戦いを開始したようだ。


ヘブンズとカシムの息の合った連携攻撃に、防戦一方のオルカとフォルクス。

このまま押し切って欲しいと一瞬ザガンから目を離した瞬間、彼の足が僕の腹部にめり込んだ。


うわぁぁ。


数メートル吹き飛ばされ、地面を転がる。

立ち上がろうとした僕の顎を、ザガンの足が蹴り上げた」


「私と戦っている間によそ見ですが。ずいぶん余裕ですね」


もんどりうって倒れた僕を、ザガンは上から見下ろした。

これは気を抜いて勝てる相手じゃないぞ。

僕は顎をさすりながら立ち上がった。

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