25店目「神様との晩餐 その3」

グォオオオン!


キマイラが唸り声をあげると、見渡す限りの魔獣たちが全て集まってきた。


キマイラと僕たちを中心に魔獣たちが僕らを取り囲んだのだ。

その数は五百体を遥かに超すだろう。

僕らはキマイラを倒さないと、この場から逃げ出すことも出来ない。


しかし、魔獣たちは取り囲んだまま一定の距離をとって待機しており、僕らに襲い掛かってくる者はいない。

まるで僕らを逃がさないように取り囲んだだけのように見える。


グォオオオン!


再度キマイラは大きな唸り声をあげると、ドラゴンのような大きな羽を羽ばたかせ、宙へと浮かび上がった。


来る!

本能的に察知した僕たちは、武器を構えキマイラを睨みつける。


タンッ


口火を切ったのはミトラだった。

ミトラの放った矢が首筋に突き刺さる。

首から緑色の血が流れるも、それほど大きなダメージにはなっていないようだ。


タンッ


続いて【ビーストウォリアーズ】の狩人キャメルの矢も突き刺さる。

しかし、これもミトラ同様に表面を薄く貫いただけだ。


キマイラは赤く鋭い目でミトラを睨みつけると、恐るべきスピードでミトラに向かって空中から降下してきた。


キィィン!

ミトラの前に躍り出たアインツとボックス。


「ぐはっ!」


キマイラの攻撃を盾で受け止めるも、勢いを止めきれず地面へと叩きつけられた。


そこに、武闘家イワン・剣士リップス・槍術士ライアンが同時にキマイラに襲い掛かった。

イワンの拳が腹部にめり込み、リップスの斬撃で傷をつけ、ライアンの槍が雨季刺さっても、キマイラの堅い皮膚に阻まれる。


バシッ!


キマイラの前足での攻撃が、避けようとしたイワンの肩口にヒットする。


「ぐぁぁああ」


イワンは数メートル帆と吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がった。

すぐに立ち上がったイワンだったが、彼の腕は明らかに別方向に曲がっていった。


「イワン!」


駆け寄ろうとしたリップスに、キマイラの爪が彼女の鎧を引き裂いた。

その場に倒れ込むリップスに、キマイラは前足で彼女の背中を踏みつけたのだ。


「ギィヤァァァ」


リップスの悲鳴と同時に、ミシミシと骨が軋む音が聞こえる。

キマイラは挑発するように僕らを睨みつけ、リップスを踏みつける力を強くしていった。


「ウギャア…ガハッ…」


吐血しながら苦しむリップㇲ。その体は地面にめり込んでいる。


「その子を放してもらおうか!」


カシムがキマイラの前足に向かって斬りかかると、キマイラは後ろに飛びのきその攻撃をかわした。


タンッタンッ。


飛びのいた先にミトラの矢が迫る。

キマイラの腹部に2か所、高速の矢が突き刺さった。


ミトラ、逞しくなって……


戦闘中にも関わらず、僕はミトラの成長を嬉しく思う。

某県当初おどおどしていたミトラが、こうも立派に戦えているのだ。

僕も負けてはいられない。


僕はアプリ【バトルフィールド】を起動させて、キマイラに向かってスマホ画面を連打する。

無数の鉛玉がキマイラの皮膚を貫いたのだ。


キマイラの体は緑色に染まってきている。

一発ずつの威力は少ないものの、着実にダメージを与えているようだ。

僕の攻撃の後に、リネアやカシムの攻撃もキマイラに届く。

ヘブンズの魔法攻撃がまともにキマイラの胸にヒット。胸がえぐられ大量の血が噴出した。

倒れていたアインツやボックスも立ち上がり、再び盾を構えなおした。


よし、これなら勝てそうだ。

僕はカバンからノーマッドの鍛えた剣【シャムシール】を取り出した。


グウォォォォォォン!


僕がキマイラに飛びかかろうとした瞬間、キマイラは身の毛もよだつような唸り声をあげた。

その瞬間、ビリビリと空気が震え、強い恐怖心が体の底から湧き上がる。


う、動かない。


突然僕の足が前に進まなくなった。いや、足だけではない。

腕や体も金縛りにかかったまま身動きが取れないのだ。


それは僕だけではない。


キマイラと接近戦で戦っているカシムやセリナ、【ビーストウォリアーズ】のパーティメンバーも同様に動きを止めてしまった。


これは【威圧】だ。

しかし、ただの【威圧】ではない。もっと体の底から震えが来るくらい強力な威圧だった。


バキッ、ドカッ


「うわぁぁぁっ」


動きなくなったセリナとカシムを、キマイラは無慈悲に前足で殴りかかる。

まともに剛撃がヒットし、地面に倒れ込んでも金縛り状態からは抜け出せないようだ。


突然キマイラは、体を反らせ大きく息を吸い込んだ。

キマイラは再び宙に浮かび上がり、僕らに向かって強力な炎のブレスを吹きかけた。


「きゃぁぁ!」

「ぐわぁぁぁあっ!」


僕らは成すすべなくそのブレスを直接受けてしまった。

僕らはあっという間に炎に包まれ、高熱が全身を焦がす。

喉も焼けつくほど痛く、声を出すことすらできない。

しかし次の瞬間、全身が水で覆われ、体を覆っていた炎は跡形もなく消え去った。


「もう体も動くはずです」


ヘブンズだ。

ヘブンズは次々と水の玉を放出し、僕らを覆っていた炎を洗い流していく。


「ミツルさん、キマイラごときに手間取っている暇はないですよ。そろそろ本当の敵が現れます!」


えっ、どういうことだ?

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