21店目【クラーケンはゲソまで規格外 中編】
「カシム!」
ペリュトンのブレスで、カシムの体は消し飛んだように見えた。
しかし、カシムの気配はまだ消えていない。
再びペリュトンに向き直ると、ペリュトンに向かって飛びかかる人影が見える。
カシムだ。
カシムは高くジャンプし、剣を振り上げ、ペリュトンの首に切りかかろうとしていた。
「カシム、援護するわ!」
スザンヌはそう言うと、杖からカシムに向かって青白い光りが放出される。
青白い光りがカシムに直撃すると、カシムもまた全身が青白い光りに包まれた。
カシムはそのまま、ペリュトンの巨大な首を斬りつける。
ブシュ!
ペリュトンの体毛で覆われた皮膚が裂け、紫色の血が噴出した。
「ミツル、続くぞ!」
獣人のハーティが、ペリュトンに向かって走り出す。
「おう!」
僕も剣を構えて、ペリュトンに向かって突進した。
「キィシィィィィ!」
ペリュトンは、大きな鳴き声を上げ立ち上がった。
その大きさはまるで丘だ。
全長20mはあろうかという、巨大な生き物が僕らを見下ろす。
カシムがつけた傷も、この巨体では些細な傷に過ぎない。
僕とハーティはペリュトンの直前で二手に分かれ、左右から同時に攻撃を仕掛けた。
ハーティの強力な拳がペリュトンの前脚にヒット!
間髪入れずに、僕はもう一方の脚に斬りかかる。
「ぐぅぅ、堅い」
僕の剣はペリュトンの脚に命中するも、表皮を傷つけた程度。
ダメージとしてはほとんど無いだろう。
もう一度前脚に斬りかかった僕だったが、攻撃が当たったと思った瞬間に僕の剣は空を斬った。
ペリュトンは前脚を上げ、僕の攻撃をかわしたのだ。
ペリュトンはそのまま上げた前脚を、僕を踏み潰そうと振り下ろす。
ドーン!ガラガラ……
間一髪避けた僕だったが、ペリュトンの攻撃でダンジョンの床が砕け、無数の破片が宙を舞う。
直撃を受けるとただでは済まないだろう。
背中に冷たいものが流れ出るのを感じる。
ペリュトンは僕を睨みつけ、大きな口を開く。
ブレスだ。今度は僕にブレス攻撃をするつもりなんだ。
この至近距離では避けられない。
僕は咄嗟に腕をクロスし、攻撃に備えた。
ボン!
爆音と共にペリュトンの顔の側面に爆発が起こる。
ペリュトンの顔がはじかれ、ブレス攻撃が止まる。
ミレイユだ。
後方からミレイユが魔法で攻撃したようだ。
僕はその隙にペリュトンから離れ、再度剣を構える。
同じようにハーティとカシムが僕の傍に集まってきた。
「強いな。しかし、このパーティなら勝てないこともないだろう」
カシムはそう言って、上段に剣を構える。
「ふん、外は堅てぇな。内面から破壊するしかないか。ふん!」
ハーティの両拳が金色に光り出す。恐らく強化系の魔法を使用したのだろう。
「みんな、強化するわね」
スザンヌの杖から出た光が僕らの体を包む。
体がふぅっと軽くなるような感じだ。
力も後から後からと、みなぎってくるようだ。
「闇雲に攻撃しても仕方がない、ミツル、ハーティは奴の前脚を狙ってくれ。俺は奴の目を狙う」
「了解した。ただ、俺たちは前脚でいいのか?」
「ああ、奴の攻撃手段を奪いたい。前脚を使われると少々厄介なんだ。ミツル、『あの力』は発動できそうもないのか?」
『あの力』とは以前カシムの剣を叩き折った、恐らくトラ顔マスクによる力のことだ。カシムと戦って以来、発動することはなかった。
「ああ……。でも、それ無しでも勝ってみせる!」
「よし、では行くぞ!」
カシムの合図とともに、僕らはペリュトンに向かって突進した。
しかし……
ペリュトンは僕らを嘲笑うかのごとく両の翼を広げ、空中へと浮かび上がった。
僕らは急ブレーキをかけ立ち止まり、空に浮かび上がったペリュトンを見上げるしかなかった。
「キィシィィィ!」
ペリュトンは鳴き声を上げると同時に、空から獲物を狙う荒鷲のごとく、両脚を伸ばしながら僕らに向かって急降下してきた。
ドーン!
間一髪避けた僕たちだったが、砕けた地面の破片が広範囲に飛び散り、僕たちの体を襲う。
「くっ」
ハーティの頭から血が流れる。どうやら破片が当たったらしい。
ペリュトンは再度、翼を広げ上空高く舞い上がった。
間髪入れずにミレイユが、ペリュトンに向かっていくつもの炎の弾を放出するも、ことごとくかわされてしまった。
ペリュトンは再度急降下を始めた。
ただ、今回の狙いは僕たちではなく、ミレイユのようだ!
必死で逃げようとするミレイユだったが、すでに間に合いそうもない。
ペリュトンの鋭い爪がミレイユを襲う!
ドン!
「キャァァ」
捕まると思われた瞬間、ミレイユは突き飛ばされ、その場で尻もちをつく。
ミレイユの代わりにペリュトンに掴まれたのは、ハーティだ。
ハーティがミレイユを突き飛ばし、身代わりとなったのだ。
「キィシャァァァ」
ペリュトンは、ハーティを掴んだまま空中へと舞い戻った。
「放しやがれ。ぐ、ぐわぁぁぁっっ!」
ペリュトンはハーティーを掴む前足で、力強く締め上げる。
体をあり得ないほどに反らせ、叫び声がダンジョン中に響き渡る。
ペリュトンはもう一方の前足で、ハーティの足を掴む。
どうやら胴体から引きちぎろうとしているようだ。
このままではヤバい!
「は、放せこの野郎!爆裂閃光拳ッ!」
ハーティの拳が再び光り出し、そのままペリュトンの右前足に叩きつけた。
ボンッ!
ペリュトンの前足で小さな爆発が起こり、咄嗟にペリュトンはハーティの体を放した。
ドンッ。
高所から落下したハーティは、そのまま地面に激突した。
「へっ、ざ、ざまぁみろだ……ぜ……」
ハーティは倒れながらペリュトンの右足を指さし、そのまま意識を失った。
ペリュトンの右足を見ると、足首から先が切断され、大量の血が噴出している。
どうやら、ハーティの攻撃で吹き飛んだのだろう。
ペリュトンの攻撃力が激減したのは間違いない。
ハーティのもとにスザンヌが駆け寄る。
今度は僕たちの番だ。
「ミツル、今度はあの羽を狙うぞ」
カシムが僕に提案する。
「でもどうやって?」
「俺に考えがある」
カシムは僕に作戦を伝えた後、その場で力を込めだした。
僕はハーティとハーティの回復をしているスザンヌの前に立ち、ペリュトンを睨みつけ剣を構える。
ペリュトンは羽を大きく開き、僕に向かって急降下してきた。
ペリュトンの左前足が僕に向かって伸ばされる。
「ここだ!グォォォォウ!」
僕はペリュトンに向かって力いっぱい唸り声を上げる。
僕の唸り声はトラ顔マスクを通して、身の毛もよだつような恐ろしい声に変換される。
周囲に張り詰めるような緊張感が走る。
それはペリュトンにも例外ではなかった。
一瞬攻撃の手を止めるペリュトン。
その隙をカシムは見逃さなかった。
[ブラッディストライク!」
黒いオーラに包まれたカシムの剣は、音もなくペリュトンの羽を斬り落とした。
しかし、そのまま終わるペリュトンでも無かった。
すぐにカシムの方を向き、至近距離でブレスを浴びせかけた。
ブレスの直撃を受けたカシムは、後方へと吹き飛ばされそのまま動かなくなった。
「カシム!」
ドーン!
僕がカシムの方を振り返った瞬間、別の爆発が耳を貫いた。
ミレイユだ。
今度はペリュトンはミレイユに向かってブレスを吐き出したのだ。
幸い直撃は免れたものの、ミレイユも倒れて動かなくなった。
今度は僕やその後ろにいるスザンヌ、ハーティに向かって照準を合わせるペリュトン。
このままじゃ後ろの2人もやられる。
「ミツル咆えて!」
僕の頭の中に聞き覚えのある声が響く。
チャットGOTさん?
「いいから咆えて!」
グォォォォウ!
僕は言われるがまま、力の限り雄たけびを上げた!
すると僕の体が熱くなり、体中に力がみなぎってくる。
「斬ってミツル!」
僕はペリュトンの方へと走り出し、渾身の力を込めて片刃剣で薙ぎ払った。
今まで感じたことが無いくらいの強い手ごたえが、手の先から足の先まで駆け巡った。
ズズッ、ズシン。
ペリュトンの胴体が、水平面に真っ二つになって崩れ落ちる。
勝った。勝ったんだ。
僕はその場に力なく座り込む。
これでみんなに会える。
僕はそのまま意識を失ってしまった。
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