19店目「骨付きステーキは手づかみで 前編」
ダンジョン探索二日目、僕たちはダンジョンの入り口に到達した。
今日は昨日よりも深い階層まで探索するつもりだ。
そのため、日持ちができる食料とキャンプセット、調理器具なども購入した。
キャンプをせずとも、毎日町に戻ってこれれば良いが、いつも帰れるとは限らない。
何があっても対応できるように、前もって準備しておくことは必要だろう。
今日の服装は、ネイビーのテーラードジャケットに黒のタートルネックのTシャツ。
ベージュのチノパンに、黒のモンクストラップシューズとビジカジを意識したファッションだ。
他のメンバーも腕を隠した装備をしており、極力肌を露出するのを避けているようだ。
1.2階層はマッピングを済ませているので、スムーズに進むことができた。
何度か魔獣に遭遇はするも、苦戦することはなかった。
僕たちは3階層に続く階段の前に到着した。
「あなたたちの実力なら三階層も問題はないと思うわ」
階段を降りながらリネアが話す。
三階層へ続く階段は長く、少し薄暗い。
階段の壁には等間隔にランタンが灯されているが、1.2階層のものと比べてやや明かりが弱い印象だ。
「三階層から徐々に薄暗くなるわ。視界が悪くなるから気を付けて!」
確かにすでに視界が悪くなってきている。
階段を降りるごとに明かりが弱々しくなり、十m先の階下が確認しにくくなった。
「まだライト系の魔法や道具を使わなくても済むけど、足元には要注意ね」
三階層に到着すると僕たちはリネアが言った意味が理解できた。
三階層は今までの階層と同じように石造りのダンジョンとなっている。
二階層に比べ天井は高く、通路の道幅は広い。
ランタンも等間隔に設置されてはいるが、広くなったために全体を照らすほど明るくはない。
特に足元は暗く、意識して見ないと罠などの発見が遅れそうだ。
「この階から罠の数が増えるわ。特に足元に注意ね」
僕らは最前衛ににアインツとリネア、中衛に僕とセリナ、後衛にミトラとし三階層の探索を開始した。
ダンジョン内は静まり返っており、僕らの声や足音以外に物音一つしない。
他の冒険者もいるとは思うが、この近辺にはいないのだろう。
三階層のダンジョンの造りもシンプルで、直線の通路が多く分岐は少ない。
現在のところ部屋数も少なく、隠し部屋のようなものも無いようだ。
三十分ほど探索した頃くらいだろうか、僕のスマホに敵を知らせる反応があった。
スマホで確認すると、二十体ほどの反応が50mほど先に現れた。
ラージバットだ。
ダンジョンに生息する吸血コウモリで、集団で行動することが多いらしい。
素早さが高く、超音波で攻撃を事前に察知し、回避することに優れているとのことだ。
単体での驚異度はF~Gのようだが、集団となるとEまで上昇する。
僕はパーティメンバーに警戒するように伝えた。
事前に攻撃を察知されるのであれば、遠距離からの飛び道具は当てにくいだろう。
敵が近づくまで待機してもらった方がいいのかもしれない。
「ミツル、ここから私の矢が当たらないって思ったでしょ?」
ミトラは僕の顔を見てニヤリと笑った。
「見てて、あなたの予想が間違っていることを教えてあげる」
ミトラはそう言うと素早く弓を引き、矢を連続で放った。
何かのスキルを使用したのだろうか?
矢を射るミトラの体は薄く赤く光り、射られた矢の速度はいつも以上に速い。
ピィィィッ、ピィィ……。
通路の先から弱々しい鳴き声が聞こえる。
どうやらミトラの矢が当たったらしい。
スマホを見てみると、半数ものラージバットの反応が消えている。
あの一瞬でミトラが倒したのだ。
いつの間にかミトラはこのパーティには無くてはならない、凄腕の狩人になっていた。
「みんな来るわよ!」
ミトラは再び弓を構え、僕らも近距離先頭の準備を始めた。
ピィィィ!
甲高い鳴き声を上げながら、素早く僕らの頭上を飛び回るラージバット。
僕はスマホを連続タップして、ラージバットに鉛玉を発射する。
しかし、当たる直前で回避され、弾は全て天井に突き刺さる。
ラージバットも飛び回りながら、隙を見て攻撃を仕掛けてきた。
攻撃の瞬間を狙っていたアインツは、向かってきたラージバットに剣を振るう。
しかし、アインツの攻撃は空を切り、攻撃をかわしたラージバットはアインツの首に噛みつこうと飛び込んできた。
アインツは咄嗟に盾を上げると、ラージバットはその盾に激突。
地面に落ちたところに、アインツの剣がラージバットを貫いた。
セリナも最初は苦戦はしていたが、徐々にセリナの剣を振るスピードがラージバットの回避のスピードを上回っていった。
ラージバットが攻撃をかわすよりも早く、セリナはラージバットを切り裂いていく。
リネアに関しては特に問題はないようだ。
リネアは両手に短剣を持ち、ラージバットの攻撃に併せ、的確に急所を攻撃していく。
僕も負けてはいられない。
僕はスマホ画面にラージバットを映し、奴らを床に向けて強くフリックする。
防御不能の僕の攻撃に、ラージバットたちは床に強く叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
最初は苦戦したものの、最終的にはラージバットたちを圧倒したようだ。
幸いにも誰もケガはしていない。
全滅したラージバットたちを見ながら、僕はほっと一安心。
倒された何体かのラージバットは、すでにダンジョンに吸収され、代りに魔石になっている。
ダンジョンのモンスターは、倒すと魔石と呼ばれる鉱石やドロップアイテムに変化する。
魔石はギルドに持っていくと、その大きさや純度に応じて報酬がもらえるのだ。
しかし、一部を切り出しその場所から離れると、その切り出した部分は消えずに素材として持ち帰ることが出来る。
もしくは異空間収納などのアイテムの中に収納すると、そのままの形で持ち帰ることができる。
素材をそのまま持ち帰る冒険者はレアなので、綺麗な素材ほど高く買い取ってもらえる。
熟練のハンターは素材に一切傷つけず、生きたまま持ちかえることもあるとのことだ。
僕は残ったラージバット全てをバックの中に収納する。
全部で10体ほどであろうか。
バックにはするっと全部の素材を収納することが出来た。
それにしてもこのバック、一体どのくらいまで入るんだろう。
素材の回収を終えた僕たちは再びダンジョンの探索へと進む。
長い直線の通路を抜けると、十字路に差し掛かった。
僕たちは迷わず、真っすぐ進んだ。
この道も長い直線道、魔獣の姿も無いようだ。
しばらく歩くと、リネアが僕らを制止した。
「止まって!この先は罠が大量い仕掛けられている」
どうやらこの先はトラップゾーンらしい。
となると、トラップゾーンの先には重要なものがあるに違いない。
リネアが罠を解除し始めたその時、突然僕らの後ろで魔獣の反応が現れる。
さっきまで何も無かったエリアに突然、魔獣が出現したのだ。
「みんな敵だ!後ろに注意して!」
全く無警戒だったためか、みんなの反応が一瞬遅れる。
「来る!構えて!」
僕が叫ぶと同時に、魔獣が勢いよく僕らを目がけて突進してきた。
ダンジョンボアだ。
ダンジョンボアが二匹並んで、僕らの方へ突っ込んできた。
壁を擦りそうなぐらい密着して走ってくる2体のダンジョンボアに、僕らは防御をするしかなかった。
がっシーン!
僕らは必死でダンジョンボアの動きを食い止めようと、その場で足を踏ん張り受け止めようとした。
しかし、アインツの防御力をもってしても、じりじりと後方へ押されてしまう。
僕らは奴らの動きを止めることが出来ず、そのままトラップゾーンまで押しこまれてしまった。
プギィィィ!
左右の壁から飛び出した矢がダンジョンボアの脇腹に突き刺さる。
悲鳴を上げながらも、突進を止めようとしないダンジョンボア。
いくつもの罠を発動させながらも、僕らはトラップゾーンの中心部へと追いやられた。
もはや罠を回避する余裕なんてない。
ダンジョンボアの突進を抑えるだけで精一杯なのだ。
無数の矢が飛び、天井が落ちてこようとも、ダンジョンボアの突進は一向に止まる気配が無い。
「ミツルさん、あ、危ない!」
突然、リネアが大声で叫んだ。
リネアの方に振り返る間もなく、僕の足の感覚が即座に失われた。
お、落とし穴!?
いつの間にか僕の周りだけ、地面が無くなっている。
気が付いた時はもう遅い。
僕は体は吸い込まれるように、穴の中へと沈んでいく。
「うわぁぁぁぁ」
「ミツル!」
「旦那!手をつかめ!」
ミトラやセリナが手を伸ばすも、すでに手遅れだった。
僕は深い深い闇の中を、真っすぐに落ちて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます