18店目「シャバとは違う!?ダンジョン料理専門店 中編」

一階層を一通り探索すると、ダンジョンとはどのようなものかがおぼろげに見えてきた。

ダンジョン内に漂う空気は『魔素』というものが多く含まれており、これらがダンジョンに住む魔獣たちに栄養を与えているらしい。

魔獣たちはダメージを負っても、魔素を体に取り込むことで少しずつ回復していくとのことだ。


この『魔素』というものは、魔法の素にもなっているらしく、魔法は魔素を消費して発現されるとのことだ。

そのため、ダンジョン内で魔法を使うと外の世界よりも威力を発揮しやすい。


魔獣たちは倒されると、一定時間はそのままだが徐々にその遺体は分解されて『魔素』となる。ダンジョンはこの魔素を使用して、新たな魔獣を生成するというのだ。

もちろん、分解されるのは魔獣だけではない。

冒険者たちも同様にダンジョン内で倒されると、その体は『魔素』に分解されてダンジョンに吸収される。

そうした循環を繰り返し、ダンジョンは成長していくのだという。


「みんな、そろそろ次の階層に行かないか?」


アインツはリネアが持っていた地図を指さして言う。


「そうね。この階層はあらかた探索出来たわ、そろそろる次の階層に行ってもいいのかも」

「おー、俺もいいぜ」


僕らはダンジョンに慣れることを目的に、一階層をくまなく探索した。

途中で何回も魔獣たちに遭遇したが、別段苦戦することも無かった。

僕らは二階層への階段の位置をマップで確認し、目的地に向かって歩き始めた。



二階層に続く階段は、一階層からの階段とほぼ同じ造りのようだ。

階段は幅が広く、踏面は狭い。

一体どのくらい前から存在しているのであろうか。

石造りの階段はところどころ、劣化して崩れたような跡がある。

二階層までは一体どのくらい深く降るのだろう。

階段を降り始めてしばらく経つが、まだ底が見えてこないのだ。


「リネア、二階層はどんなところなんだ?」


セリナが堪え切れずに質問をする。


「そうね、二階層は一階層と大きく変わらないわね。ラージファンガスが主体で、スライムやダンジョンマウスがいるくらいかしら」


スライム?

スライム料理専門店『スラリン亭』に持っていくと喜ばれそうだ。


「着いたわ」


リネアが真っ先に降りて、周囲の確認をする。

安全を確認後、僕らにも降りてくるように合図をする。


「段の下で待ち伏せされている場合もあるからね。この時が一番無防備になりやすい」


経験者の意見はためになる。

確かに気を抜いている時に襲われたら、ひとたまりがない。


「リーダーさん、、ここでも練習をするのかしら?」


リネアがアインツに質問する。


「ああ、その方がいいだろう。俺たちはまだダンジョン初心者なんだ」

「ふーん。そういうのいいわね。ダンジョンは慎重な人ほど長生きするわ」


二階層も一階層と同じような造りだ。

石造りの回廊に、等間隔に備え付けられた松明。

一階層よりもやや暗めだが、視界が悪いというほどでもない。


「この階から罠が設置されているから気をつけてね、ほらここにも」


先頭を歩くリネアが何かを見つけたようだ。



「あの床、よく見ると少し窪んでいるでしょ?あれは踏み込み式の罠といって、あの部分を踏むと罠が発動する仕組みになっているの。いい?見ててね」


リネアは床に落ちている壁の破片を持ち上げ、窪みに向かって投げ入れた。

ゴン、と鈍い音が静かなダンジョンに響く。


ヒュン、ヒュン、ヒュン。

すると、間髪入れずに壁から矢が発射され、対面の壁に突き刺さった。


「これは矢を発射する罠ね。恐らく矢じりには毒が塗ってあるわ」


恐ろしいことをさらっと言うリネア、よっぽど経験があるのだろう。


「今回は矢だったけど、落とし穴だったり、天井が落ちてきたり、大きな岩が転がってきたりと様々な種類があるわ。戦闘中に誤って踏んでしまうこともあるから、罠を見つけたらその位置をしっかりと覚えておくのね」


僕はスマホで最近ダウンロードしたマーキングアプリ、『リメイくん』を作動させた。

このアプリはスマホの写メ画面でマークした記号が、そのまま地形にも同じマークが投影される。

僕はスマホに罠を写しその周りを赤丸で囲むと、僕の目の前にある罠の周りにも大きな赤丸が現れた。


「えっ、何これ?」

「こうしておくと、罠に引っかからないよね」


これはダンジョン探索ではかなり使えるアプリだ。

リネアに罠の位置を見つけてもらい、僕がマークをつけると誰でもすぐに罠の位置が確認できる。


「あなた一体何者なの?こんな魔法見たことがないわ」

「ミツルのことで驚いちゃだめよ。慣れるしかないもの」


これは先の階を楽に進むための実践練習だ。

試せるものは何でも試しておいた方がいい。


しばらく歩くと僕の検索に無数の敵の影が映った。

確認すると、どうやらダンジョンマウスの群れのようだ。

30、いや40匹以上もいる。

真っすぐこっちに向かってきている。


「前方からダンジョンマウスの集団が向かってきている。どうする?戦うか?」


僕は前方からの驚異を報告する。


「ああ、ここで逃げるわけにはいかない。ミツル、ミトラ、お前たちで数を減らしてくれるか?」

「もちろんよ!」

「ああ、僕も大丈夫だ」


ミトラは背中の矢筒から赤色の矢を数本取り出し、しっかりと弓を構えた。

僕は『バトルフィールド』のアプリを起動し、スマホを持って向かってくるダンジョンマウスに照準を合わせた。


「ミツル、ミトラ、俺らの分も残しておいてくれよ」

「分かってるわよ。私らは数を減らすだけね。これは練習なんだから」


ミトラとセリナはお互いに顔を見合わせて笑う。

僕とミトラで敵の数を減らし、残った奴らは接近戦で仕留める作戦だ。


「行くよー」


ミトラが射った矢は、暗闇に向かって加速していった。

暗闇に消えた矢は、空気を切り裂く音のみが聞こえる。


ドッカーン!

暗闇の奥で大きな爆発音がした。

ミトラの矢が目的地付近で爆発したのだ。


ミトラが放った矢はエクスプロージョンの魔法が付与された矢。

矢じりが対象に接触すると付近に爆発が生じるのだ。


すかさず僕はスマホの画面にタップを連打する。

すると、先の尖った鉛の弾が無数に発射された。


ギィィッ…キィィ

ダンジョンマウス達の叫び声が響く。

レベルアップしたアプリ『バトルフィールド』は、以前よりも弾が大きくなり、発射される速度も倍増。貫通力も格段にアップした。

もちろん、このまま全滅させることも可能だが、今回は前衛の2人の練習とリネアの戦闘能力の確認。


残した10数匹ほどのダンジョンマウスが、近距離まで迫ってきた。


「鉄壁防御」


アインツはそう叫ぶと、アインツの周りを青白い光が包む。

これはアインツの十八番のスキルだ。

相手のヘイトを集めながら、自分の防御力を高める。


10数匹のダンジョンマウスは、真っすぐアインツに突進した。


ガッキーン!


しかし、吹き飛ばされたのはダンジョンマウスたちだった。

大きな岩に激突したかのように、ダンジョンマウスたちはアインツにぶつかった瞬間、開店しながら後方に吹き飛ばされたのだ。


その隙に飛び込んだのはリネアだ。

まだ空中に浮いているダンジョンマウスの首を、的確に二刀の短剣で切り裂いていく。

その動きの速さは恐らく僕らのパーティの中では一番だろう。

目にも止まらぬスピードで、ダンジョンマウスたちにとどめを刺していく。


「俺の分も残してくれよな」


ダンジョンマウスたちに追い付いたセリナは、肩から下げた大剣を抜いた。

セリナが大剣を振るうごとに、衝撃波の如く検圧がダンジョンマウスたちを襲う。

直接大剣に触れなくとも、検圧に触れただけでダンジョンマウスたちは真っ二つになった。


正直今の僕らの強さはDランクどころではないだろう。

僕はしみじみ思いながら、マウスたちの素材を回収した。

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