18店目「シャバとは違う!?ダンジョン料理専門店 前編」

18店目「シャバとは違う!?ダンジョン料理専門店 前編」


鳥料理店でしっかり英気を養った次の日、僕らは新しい仲間リネアを加えダンジョンへと向かった。


というのも、昨日依頼を引き受けることを伝えるためギルド長の所に行くと、ギルド長と共に彼女がいた。


「依頼を引き受けてくれて礼を言うぜ。なあ、こいつを一緒にダンジョン探索に連れて行ってはもらえねぇか?こいつもDランクの冒険者で罠解除のスペシャリストなんだ。かなり役に立つと思うぜ」

「私はリネア。『虎の牙』の噂はよく聞いているわ。」


彼女はミトラと同じくらい小柄な二十歳代前半くらい女性だ。

全身黒ずくめの衣装で、吸い込まれるような漆黒の髪は腰まで届いている。


「おっと、ミツル。彼女はそうじゃないぜ」


そうじゃない?おそらく転移者じゃないということだろう。

カラフルな髪が多い子の世界での黒髪は生まれつきなのか、それとも染めているか。


「ギルド長の紹介なら信頼できる人なんでしょう。みんなそれでもいいか?」


アインツは彼女をパーティに入れることを、全員に確認する。


「ああ、私は問題無いぜ。役立ちそうじゃねぇか」

「私もダンジョンの罠は解除出来るか不安だし、いてくれると助かるわ」

「そうか、ミツルはどうだ?」

「ああ、僕も異論はない。リネアよろしく頼む」


こうして新しいパーティメンバーのリネアを迎え、僕らはダンジョンへと向かった。


道中僕らはリネアとコミュニケーションを図ったが、彼女のダンジョン経験の豊富さに驚いた。

彼女は普段はソロで活動する冒険者だが、ギルド長の指示にてダンジョン攻略に向かう様々なパーティに加わっていた。

ダンジョン攻略は死と隣り合わせの危険な任務であり、多くの冒険者が攻略の途中で命を失っている。

実は冒険者の多くは、強力な魔獣よりも罠に倒れてしまうことが多いようだ。

意識外から発動された罠は、屈強な冒険者であっても回避することが困難らしい。


しかしリネアが所属したパーティでは、罠で命を落とす者はほとんどいないらしい。

罠の回避率の高さは、そのままダンジョン攻略の成功率につながるという。

彼女はソロやパーティでの経験を合わせ、実に百回以上もダンジョンに挑戦している。

すでに地下十階までは攻略しており、そのほとんどの階でマッピングが出来ているとのことだ。

初めてダンジョンに挑戦する僕たちにとって、リネアの存在はとてもありがたい。


ウメーディーを出発してから一時間後、僕たちはダンジョンに隣接している町に到着した。

この世界では一攫千金を狙う冒険者がダンジョンに集結する。

ダンジョン関連の依頼は命を失うリスクが高いが、その分報酬も高く設定されている。

そのため、通常の依頼よりもダンジョンに挑戦する者が多く、その付近は冒険者たちのたまり場となる。

ダンジョンの周辺では、こうした冒険者たちを狙って町を建設することが多い。

このジュウジュウの町も、そのうちの一つなのだ。


今回ウメーディでしっかり装備やアイテムを整えている僕たちは、町にはよらずそのままダンジョンに向かうことにした。

ダンジョンは、ジュウジュウの町から三百メートルほど北に向かったところにある。

ダンジョンに近づくほどに、他の冒険者たちに遭遇する頻度も増えてきた。


ダンジョンの入り口の前には屈強な門番が二人立っている。

頑丈そうな門の前には冒険者たちが列をなし、ダンジョンに入る許可を門番にもらっているようだ。

特に細かいチェックなどはない。

冒険者カードを見せて、門番からの質問に答えるだけらしい。


十分ほど並んだ後に僕たちの番が回ってきた。


「冒険者カードを見せろ」

「ああ」


アインツは僕らを代表して冒険者カードを門番に渡す。

門番は冒険者カードを見ながら、パーティメンバーをチェックする。


「おっ、リネアもいるじゃねえか。今回はこのパーティかい?」

「ええ、ギルド長に勧められてね」

「ギルド長公認なら大丈夫だろう。通ってもいいぞ」


さすが経験豊富なリネアだ。

冒険者カードよりリネアの顔パスの方が有効らしい。

門番は重い門の片側を開け、僕らを中へと案内した。


門の開けると、下へ続く石造りの階段が現れた。

まずは下へ降りろということだろう。

階段の幅は広く、他のパーティとすれ違っても十分余裕がある。

階段の壁には等間隔で松明が灯っており、ダンジョンの中とは思えないほど明るい。


「階層によって明るさに差があるわ。周りを照らす魔法や魔道具が無ければ、先へ進むことが困難になるわね」


その点なら十分だ。

僕のスマホのライト機能は、今では30mくらいまでを明るく照らしてくれる。

ミトラもライトの魔法が使えるし、僕のカバンの中にはいくつかカンテラも入っている。


階段を降りてたどり着いた一階層は、壁や床・天井までが石造りの空間だった。

これぞダンジョンと言わんばかりの、年季入りの構造だ。

階段を降りてすぐは、広いホールのようだ。

他の冒険者たちの姿もちらほら見える。

ホールの中央部には、二メートルを超す大きな台座付きの鏡が設置されていた。


「あれは転移の扉ね。五階層ごとに設置されていて、その階の転移の扉を使用すればこの階まで一瞬で戻ってこれるようになるの。逆もしかりね。この扉から、使用したことのある転移の扉まで移動することができるわ」


正に異世界だ。

この扉を使用すれば、ダンジョン内の移動の手間やリスクが大幅に軽減される。

僕がこの世界に連れて来られた方法も、この転移の扉の延長線上にあるんじゃ?


「まずはこの階層で経験を積もう。俺らはまだダンジョンのことを知らなさすぎる」

「そうね。私は賛成」

「僕も問題はない」

「俺もそれがいいと思うぜ、リネアにとっては退屈かな?」


全員リネアを見る。


「それが賢明だと思うわ。私もあなたたちの実力も見たいし」

「すまない。ではそれで行こう」


僕らはアインツとセリナを前衛に、僕とリネアは中衛、ミトラを後衛に配置しダンジョン探索を開始した。

一階層は意外なほど明るく見通しが良い。

直線続きの通路が多く、通路の幅も広めだ。

罠もなく、敵との遭遇率も低い。


比較的快適な探索が進んでいたその時だ。

僕のスマホに魔獣の反応が現れた。

ミトラもリネアも気づいたようだ。

2人の横顔に緊張感が走る。


「この通路を真っすぐ進むと、五分くらいで魔獣と遭遇する。敵は三匹、ラージファンガスのようだ」


僕は索敵で得られた情報を全員に共有する。


「えっ、魔獣の種別まで分かるの?」


リネアが驚いた表情で僕を見る。


「だってミツルなんだもん」


ミトラが得意げに答える。

僕はそのままチャットGOTでラージファンガスの情報を調べる。


ラージファンガスはダンジョン内に生息するキノコ系魔獣の1種で、眠気を誘う胞子を吐き出してくる。驚異度F。ダンジョンでは最弱に部類される。


「ミトラいけるか?」

「当然」

「ミツル周囲は大丈夫か?」

「ああ、ラージファンガス以外何もない」


アインツの合図と同時に、ミトラは3本の矢を同時に発射する。


「えっ、まだ遠いわよ」


驚くリネアを尻目にミトラの矢はスピードを上げながら、真っすぐラージファンガス目がけて飛んで行った。


「……ギェッ」

「……グェッ」

「……ギィィ」


遠くで小さな悲鳴が聞こえてくる。

どうやら全て命中したようだ。


「反応が消えてるわ。まさかこの距離で三本とも当てるなんて……」


リネアがミトラの方を見ると、ミトラは得意げに鼻を膨らましている。

ミトラはドヤ顔の際には鼻を膨らませる癖があるようだ。


「あなた達って凄いのね。この依頼楽しみになって来たわ」


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