17店目「魔法と料理のコラボ 前編」
今日は久しぶりにパーティメンバー全員が揃う日だ。
Dランクになってからソロや少数での依頼が多く、四人全員で依頼を受けたことは数えるほどしかない。
今回はギルド長より四人全員に依頼してきた。
内容は直接会って伝えるということだ。
何にせよ、久しぶりにメンバーが揃うのは嬉しい。
アインツとセリナも随分と活躍しているようだ。
会って、それぞれの近況を聞くのも楽しみだ。
実は、先日より興奮してあまり眠れなかった。
集合時間よりも随分早く目が覚めてたので、たまっていた食レポをたった今仕上げたところだ。
そろそろギルドに向かう時間だ。
スマホを見ると十時を表示している。
僕はスマホを操作し『着せ替えアプリ』を起動する。
いつの間にか夏の暑さが終わり、少し過ごしやすくなってきた。
日本でいうと今は九月後半。
服装もそれらしいものにしなくては。
今回選んだスタイルは、ライトグレーの千鳥格子柄テーラードジャケットに長袖のストライプシャツ。
ドット柄の濃いネイビーのネクタイに、同じネイビーのスラックスを合わせる。
靴はややカジュアル調の黒のプレーントゥ、ベルトも同じ黒に統一をした。
さあ準備は万端、それではギルドに向かおう。
ギルドに到着すると、すでに他の三人は椅子に座って談笑している。
彼らも僕に気づいたようで、手を挙げて合図する。
「旦那、一か月ぶりだな。雷魚を捕まえたって噂になってるぜ」
「そういうセリナこそ、ミノタウロスを倒したらしいな。D級冒険者が異例の快挙だとみんなが噂していたぞ」
「ああ、アインツがいたからな。アイツが盾役で本当に良かったと思うよ」
「いや、一番の出世はミトラだろう。貴族からも次々に依頼が来てるというじゃないか」
僕たちはしばらくの間、お互いの武勇伝を話し合った。
こうして集まって話すだけでも凄く楽しい。
「よぉ、お前ら楽しそうじゃねぇか」
そう言ってやって来たのはギルド長だ。
ウメーディ最強の剣士であり、冒険者ギルドの責任者。
背中に背負った解体刀がトレードマークで、暇さえあれば魔獣の解体場に顔を出しているという。
実は日本からの転移者で、その素性はほとんど知られていない。
「待たせて悪かったな。今から俺の部屋に来てくれよ」
ギルド長の部屋はギルドの奥にある廊下の突き当りにある。
重要な話がある時にだけ、僕らはこの部屋に呼ばれるのだ。
ということは、今回も重要な依頼なのだろうか?
「まぁ楽にしてくれ」
ギルド長は僕らをソファーに座らせると、ギルドスタッフに飲み物を持ってくるようにと伝えた。
僕らが言われるままソファーに座ると、ギルド長も対面のソファーに座った。
「今回お前らに行ってほしい所はダンジョンだ」
「ダンジョン!?」
この世界には数多くダンジョンと呼ばれるエリアがある。
ダンジョンとはその成り立ちが謎に包まれている遺跡で、様々な魔獣やアイテムなどが密集しているという。
ダンジョンは地下深くへと続いており、より深部へ潜るほど強力なアイテムや魔獣が出現するらしい。
ウメーディの北にもダンジョンが存在し、冒険者たちが一攫千金を狙い挑戦しているようだ。
「お前らに頼みてぇのは、迷宮レストランの調査だ。冒険者の間で噂になっている迷宮レストランが一体どんなものなのかを調べて欲しい」
「迷宮レストラン?初めて聞く名前だ」
アインツは目をしかめて言う。
「私は聞いたことがあるわ。ダンジョンを探索していると突然現れるという不思議なレストラン。見たことのない料理を食べられるって話だけど、レストランに行って帰った人はいないって言うわ」
ミトラは興奮してソファーから身を乗り出した。
「そうだ。誰も見たことはねぇんだ。噂だけと思ってほっておいたが、冒険者からこんなものを渡されてな」
ギルド長は懐から手記のような物を取り出した。
「これは、先日ダンジョンで行方不明になったパーティのものらしいんだ。この手記には迷宮レストランについてと思われるものが残されている」
僕らはその手記を手にとって見てみた。
手記には殴り書きのような文字で、こう書かれていた。
「……なんだ、ダンジョン内に店が。罠かもしれない。でも行かずにはいられない……」
手記に書かれているのはこれだけだ。
行方不明になったのは、僕らと同じDランクのパーティのようだ。
ギルドで捜索をかけてはいるが、一向に見つからないらしい。
「どうだ、受けてはくれないか?可能であれば行方不明になったパーティのメンバーも探してほしい」
どうする?
受けてあげたいが、リスクは高そうだ。
ダンジョン未経験の僕たちが、即決することは出来ないだろう。
「ギルド長、この件はメンバーと話し合ってからでもよいか?」
アインツはパーティを代表して答える。
「ああ、もちろんだ。良い返事を期待している」
ギルド長もアインツの判断に頷いて返す。
僕らはギルド長に一礼し、部屋から離れた。
ギルドのホールに戻った僕たちは、机を囲んで座りお互いの意見を出し始めた。
「かなりきな臭い依頼だけど、どうすんだ?聞けば行方不明になったパーティはダンジョン中心に探索していたらしいじゃねぇか」
「じゃあ、そこそこ慣れたパーディだろうね。それが簡単に行方不明になるって」
「でも本当に行方不明なのかしら?身を隠しているだけかもしれないわ?」
「は?何のために?」
なかなか話は前に進まない。
ただ、僕が一番気になっているのは一体どんなレストランだろうってことだ。
迷宮レストラン……
不思議と惹かれる名前だ。
一体どんな料理人がいて、どんな料理を出してくれるのだろう?
上の空になっている僕の顔を、セリナが覗き込む。
「うわっ」
僕はビックリして椅子から転げ落ちそうになった。
「旦那の考えていたことを当てようか?迷宮レストランの料理のことだろう?」
うっ、図星だ。
アインツもミトラも分かってるぞと言わんばかりに、ニヤニヤしながら僕を見ている。
「しゃーねぇなぁ。ここは旦那の希望を組んでやろうじゃないか。なぁ、みんな」
アインツもミトラもうんうんと頷いている。
引き受けるってこと?
そんなに簡単に決めていいの?
「実は俺らも迷宮レストランが気になってるのさ。旦那と一緒にいると俺らまで食い意地がはってしまった」
セリナが僕を見ながらペロっと舌を出す。
「そうそう、みんなミツルのせいよ」
「ミツルに毒されてしまったなぁ」
ミトラとアインツも続く。
どうやらみんな本気でこの依頼を受けるつもりらしい。
「ねぇ、せっかくみんな揃ったんだからご飯に行かない?そこで迷宮レストランについてもっと話しましょうよ」
「了解」
ご飯を食べることに関して、驚くべき強い結束力を示す僕らのパーティ。
この種の提案に関しては、いつも異議を唱える者はいない。
意見がまとまったところで僕らはギルドを出て、繁華街に向かって歩き始めた。
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