10店目「教会で食べるチーズ料理 前編」
「ふぅー、今日は色々あった……」
高級レストラン『ビースト』で食事を終えた僕たちは、一旦別れることにした。
3日ぶりに帰ってきた宿泊中の宿『癒しの風亭』。
ドアを開けて中に入ると、女将ジュリアが慌てて僕の方へ走ってきた。
「一体どこまで行ってきたんだい?大丈夫なのかい?」
まるで僕の母親だ。こうして心配してくれるのはとても嬉しい。
「すみません、冒険が思ったよりも長引いてしまって……」
「無事ならいいのさ。それでお腹は空いているかい?まだ食べてないのなら今から作るけど?」
「いえ、今食べてきたところなので大丈夫です。それよりも横になりたい」
ジュリアははっと顔を上げ、僕の顔をまじまじと見つめる。
「そうかい、ベッドメイキングは済んでいるよ。夕食前には起こした方がいいかい?」
「はい、ではお願いします」
僕はジュリアに一礼すると、ゆっくりと階段を登り始めた。
部屋に入ると、僕はベッドに突っ伏した。
食レポとか残っているけど、もう後回しだ。
少しこのままで……
僕はいつの間にか意識を失っていた。
・・・・・・・・
「ミツル、ミツル」
……。
僕を呼ぶ声がする。
あの声は、ジュリアだ。
夕食の準備が出来たのだろう。
僕は眠い目をこすり、体を起こす。
いつの間にか僕の体には毛布がかけられていた。
きっとジュリアがかけてくれたのだろう。
本当に母みたいの存在だ。
「ミツル、ミツル」
ジュリアの声がドアの外から響く。
そうだ、返事をしないと。
「はい、もう夕食の時間ですか?」
「お、起きたね。気分はどうだい?」
「うーん、良くも悪くもないかな。さっきよりは随分とましになったけど」
「そうかい、そりゃ良かった。ミツル、お客さんだよ」
「え、客?」
客なんて誰だろう?僕はこの世界にほとんど知り合いなんていないけど。
「モルジーさんだよ。今下で待たしているから、準備が出来たら降りてきな」
ジュリアはそう告げると、パタパタと足音を立てながら僕の部屋から離れて行った。
モルジーさんはミトラの父だ。モルジー商会の会長で、ミトラと共に僕に良くしてくれる人だ。
そういえば、前回泊めてもらったお礼を言えてなかった。
この機会に感謝を伝えよう。
僕は『着せ替えアプリ』を起動し、衣装替えを行う。
今回は濃い目のグレーのテーラードジャケットに、ライトグレーのチノパンを合わせる。
シャツはカジュアルな濃いめのデニムシャツ。
靴もカジュアル寄りなブラックのレザーシューズだ。
これで準備は万端。
僕は階段を降りて、ロビーへと向かった。
ロビーでは、モルジーとジュリアが談笑している。
そう言えば、ミトラもジュリアと顔見知りだったっけ。
あっ、ジュリアの娘のナタリーも親し気に話をしている。
どうやら、家族ぐるみの付き合いなんだろう。
モルジーは僕に気づき、大きく手を振った。
「ミツルさん、ご無沙汰しています!」
最後に話をしてから一週間くらいしか経っていないが、これは商人の感覚なのだろうか?
僕はモルジーさんに一礼をする。
「ああ、ミツル。大丈夫なのかい?」
「大丈夫。少し寝たら随分楽になったよ。ジュリア、毛布ありがとう」
「毛布?ああ、それはナタリーだね。私じゃないよ」
ナタリーを見ると恥ずかしそうな顔をしている。
「ナタリーありがとう。気が利くね」
「ううん、ミツルさん疲れてそうだったから」
ナタリーは照れくさそうに髪の毛をいじっている。
「さぁ、モルジーさんがミツルに話があるそうだから、私らはもう行くよ。外に行くそうだから夕食代は宿泊費から引いておくからね」
えっ、外へ?
どうやらここでは話しにくいことなんだろうか?
「ミツルさん、突然ですが今晩は私にお付き合いください」
こうまで手回しをされたら、断ることなんて出来ない。
まぁ、元々断るつもりもないが。
この強引さは、さすがはミトラの父親ということだろう。
僕は密かにクスッと笑った。
「ではミツルさん、今日はちょっと大人のお店に行ってみましょう」
えっ、大人のお店って?
まさかね。
ドキドキしている僕を尻目に、モルジーはスタスタと速足で歩き始めた。
僕は黙ってモルジーの後ろ姿を追いかけたのだった。
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