6店目「異世界珍料理!壮絶スライム尽くし 後編」
合計四体のスライムを捕獲した僕たちは、ウメーディの街に帰還した。
「ねぇ、本当にあのスライムを食べるの?」
「そうだよ。ミトラも食べるかい?」
「絶対に嫌!!」
ミトラと別れた僕は、そのまま依頼主である『スライム料理専門店スラリン』へと向かった。
お店のドアは今度は開いていた。
ドアを開けて中に入ると、僕の目の前に大きなスライムの肖像画が飛び込んできた。
肖像画の下には、スラリン店主飛騨と日本語でサインが書かれている。
あの男、一体どれほどスライムが好きなんだろう。
内装はシンプルにテーブル席が3つにカウンター席のみ。
壁の至る所にスライムの絵が飾られているのが印象的だ。
お客さんは誰もいない。
店主も見当たらない。
ただこのお店どこかおかしい。
この地域の建物にはシャンデリアが吊られ明かりを灯しているが、この店にはシャンデリアが一つもない。
ランタンすらもない。
それにも関わらず、店内全体が明るいのだ。
「やぁ、ミツルくん。スライムを持ってきてくれたんだね?」
ビクッとして振り返ると、タンクトップ姿の男性が立っている。
店主の飛騨 信一だ。
いつの間に?
「あっ、はい。凍らせて圧縮していますが、解凍もできます」
僕はエコバックからスライムを取り出し、カウンターの上に置いた。
「うん、傷もなく鮮度もいいね。これならいいスライム料理ができるよ。じゃあ料理をしてくるからどこでも好きな席にどうぞ」
飛騨は僕が用意したスライムを受け取ると、そのまま厨房へと向かった。
解凍はしなくてもよかったの?
待つこと15分、信一はスープ皿を持って現れた。
「まずはスライムのスープだ。熱いから気を付けてくれよ」
最初の一品は薄い青みがかったスープだ。
スライムの体そのままの色。つい先ほど戦っていたことを想像してしまう。
さらさらのスープというよりも、とろみがかかったドロっとしたスープのようだ。
具材は入っている様子はない。スープのみを味わう料理のようだ。
表面にプツプツと気泡のような穴がいくつも開いている。
香りはコンソメスープに近い。
スライムとは別の動物系の出汁を取っているのだろうか?
まずはスプーンでスープをすくってみる。
思った通りとろみがすごい!
スプーンからゆっくりこぼれ落ちる様子は、スープというよりゼリーに近い。
恐る恐る口へと運んで見る。
う、うまい!
しっかりとろみがかったスープは、熱をしっかり保っており、油断すると火傷しそうになる熱さだ。
動物系の出汁に野菜の甘味が加わったであろうスープは、初めは濃厚に感じるが後味はさっぱりしている。
しかし、もっとも特筆すべきは食感だ。
初めはプニプニとした口当たりだが、口の中で食感が変化する。
ゼリーを食べているような感じから、段々サラサラとしていき、飲み込む際には液体になって喉を通る。
僕らが苦戦したスライムがその体の状態を変化したように、料理でもその形状を変化させるのだ。
こんなスープは今まで味わったことがない!
「次はこれだ!」
次に信一が持ってきたのは、5切れのスライスされた茶褐色の食べ物。
燻されたチーズのような香りがする。
「スライムの燻製・自家製マスタード添えだ」
スライムを燻製に!?
一体どんな味がするんだ。
「スライムの体にたっぷり塩をまぶすと、浸透圧でスライムの体から水分が漏れだしてくる。その硬くなった体は包丁でスライスしやすい。その体を自家製のスモークチップでゆっくり燻すんだ。これがエールによく合うからよ」
信一はそう言うと、エールも一緒に出してくれた。
早速スライムの燻製を口へと運んだ。
ん!
これは面白い食感と味わいだ!
芳醇な燻製香と塩味のピリリとした塩味が、丁度いいアクセントになっている。
おそらくスライム自体に味がほとんどないのだろう。
ただ、それこそがスライムの特徴の一つに違いない。
フカヒレのように出汁や調味料などを吸収しやすく、独特の食感が僕らを魅了する。
水分が無くなっても、どこかぷるんとした食感を残すスライムは燻製にしてもその存在感を主張している。
もちろんエールに最高に合う!
エールの苦みとスモーキーな香り、もちろん塩味も加われば最高のマリアージュだ。
これならエール何杯でも飲めるだろう。
「感動しているところ申し訳ないが、3品目だ。」
信一は新たな料理を持ってきてくれた。
ただ、見た目が少々グロテスクだ……。
なんとスライムを生で食すと言うのだろうか?
「当店名物、スライムの刺身だ」
やっぱり……。
たった今戦ってきたスライムを生で食べるのは、少々抵抗がある。
「もちろん、鮮度がよくなければ絶対食べられないぜ」
鮮度がどうこうの問題じゃないような気がするが。
「スライムの体をすみずみまで丸洗いして、特に内臓を綺麗に処理をする。内臓に異物が残っていると全体まで汚染されてしまうからな」
えっ、洗うだけ?
「スライムを生で食べられる部分は、頭のてっぺんの一部と尾側の体表の一部。結構貴重なんだぜ」
どうあっても食べさせたいらしい。
用意された専用のタレにつけて食べるようだ。
おそるおそる口に運んでみた。
おっ、意外といける。
スープの時の食感と違い、プリプリの食感。
噛むとプッツリと噛み切れ、水分が溢れてくる。
やや舌がピりつく感覚はあるが、酸味と同時に甘味まで感じる。
ハーブで香りづけをしているのだろう。
冥加に近い、日本人好みのハーブのようだ。
刺身自体は淡白な味わいだが、タレの旨味がスライムの刺身を引き立てている。
醤油というよりは魚醤に近い独特のタレは、刺身に旨味を足している。
やはり刺身には発酵された調味料だろう。
まさか異世界で味わえるとは思わなかった。
「どんどん行くぜ!次はスライム豆腐だ」
えっ?
何それ?
出されたものはお皿の上に乗った、薄い青色の豆腐。
上には薬味が振りかけられている。
「スライムを一度しっかり裏ごしし、トロトロになるまで煮詰める。煮詰めたスライムをさらにふきんに包んで絞る。そうして出来たスライム汁に自家製のにがりを加えてさらに煮るんだ」
結構手間暇かかってる……。
「そうしてできたものをパックに移し替えて、水抜きしながらしばらく置いて完成だ。今回は時間が無かったので魔法を使ったけどな。」
えっ、魔法?
「調理器具や材料が無いのを魔法で補ってる感じだ。まっ、取りあえず食ってみな」
聞きたいことはいっぱいあるが、取りあえず食べてみよう。
でも、スライムってもともと豆腐みたいなんだけど。
……!
……!!
えっ、何これ!
雑味が全く無い!
スライムってこんなにも清々しい味だったのか?
確かに今までのスライム料理は、どこか苦みやえぐみの様なものが微妙に含まれていた。
それはそれで美味しかったのだが、この料理に全くそれがないのだ。
それどころか、スライムの旨味が全て凝縮されている。
それにこの薬味も素晴らしい。
スライムの豆腐の清々しい味わいに、見事なバランスで香りと苦みを足している。
しかも薬味も豆腐と同化していると錯覚しているくらい、違和感が一片も無いのだ。
「信一、これは?」
「おっ、いい所に気づくじゃねぇか。これはスライム節だ」
スライム節!?
「これは俺の愛用の薬味で、スライムを5か月以上もの間燻製にしたものだ。その過程で敢えてカビをつけることで奥深さが出るんだ」
スライム豆腐の上にスライムで作ったスライム節を削って振りかけたってこと?
こいつぶっ飛んでる。
「さぁ、メニューはスライムステーキ、スライムの唐揚げ、スライムチップス、スライム茶づけ、スライムジェラートとまだまだ続くぜ。」
僕は次々に現れる絶品スライム料理と信一の感性に、脱帽せざるにはいられなかった。
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