7店目「異世界のホルモンは鮮度が命 前編」

スライム料理をお腹がはちきれるほど食べた僕だったが、次の日になっても不思議と胃もたれはない。

それどころかむしろ体の調子が良いようだ。


「スライムには食物繊維が一切含まれておりません」


困惑する僕にチャットGOTが話しかける。


「また、脂肪分も一切含まれておらず、その分水分量が豊富に含まれています」


なるほど。スライム自体が良質な健康食品なんだ。

確かに脂肪や食物繊維は含まれていないよね。


確かにグロテスクな印象はあるが、食材としてはパーフェクトだ。

また、他の魔獣に比べると比較的採取が容易な生物だ。

この世界でも広まってくれれば、食糧難の地域も減るかもしれない。


僕hスライム料理の発展を期待して、食レポを作成し始めた。




そろそろギルドに行く時間だ。

ミトラの機嫌は直っているかな?


僕はさっと身支度をして、ギルドへと向かう。


本日のコーディネートは、グレーのヘリボーン柄ジャケットに紺色のストレッチが効いたスラックス。インナー薄い青色のシャンブレーシャツでカジュアル感を出してみた。

靴は黒のストレートチップ。

カジュアルの中にも大人っぽさを取り入れたコーデだ。


おっと、早くギルドに向かわないと…。




ギルドに到着すると、すでにミトラが掲示板のメモを真剣に見ていた。


「おーい、ミトラ」


声をかけると、ミトラは笑顔で振り返る。

どうやら機嫌は直っているらしい。


「ミツル、昨日の報酬を受け取っておいてあげたわよ」


ミトラはそう言うと、僕にコインの入った革袋を渡す。

それぞれの報酬は銀貨6枚。

料理も半額にしてもらったので、まぁこんなものだろう。


「それで、スライムは美味しかったの?」


僕を見ていたずらっぽく笑うミトラ、僕の反応を見て楽しんでいるかのようだ。


「ああ、今後人気が出ると思うよ」

「へぇー」


気のない返事をしなgら、ミトラは掲示板に視線を戻す。

僕も掲示板から目ぼしい依頼が無いかを探した。


「これなんかいいんじゃない?」


ミトラは一枚の依頼書を僕に差し出した。



「畑を荒らす角ウサギの討伐!


依頼場所:ウメーディより南のサウザンドフォレストに存在する農村

討伐対象:角うさぎ5匹以上

報酬:角うさぎ一匹につき二銀貨



うん、悪くない。

角ウサギは魔獣としては凶暴性が低く、耐久力も最弱レベルだ。新人冒険者にとっては討伐しやすい魔獣で、訓練としても利用されることも多い。


報酬も新人冒険者の依頼にしてはまずまずだ。

僕たちにとっては最良の依頼だろう。


「この依頼に決めても大丈夫?じゃあ受注してくるわね」


ミトラはそう言うと、颯爽と受注カウンターに向かった。

確かに依頼自体は難しいものではないかもしれない。

ただ、僕たちには戦闘の時の決定力が足りない。

敵を倒すための攻撃力が明らかに低いのだ。


この世界には「職業」というものがある。

各人に与えられた技術体系のようなもので、職業レベルが上昇するとスキルや特殊能力を習得されるというのだ。

職業には様々な種類があり、大きく分類すればナイトや格闘家なのどの戦士系、黒魔術師、召還師などの魔術系、戦闘や冒険の補助を得意とするシーフなどの補助系などだ。


その他上級職というものがあり、その詳細や取得方法は謎に包まれているらしい。


能力値の上昇は職業によって異なり、戦士系の職業であれば力や耐久力など、間熟系なら魔力や知力などである。

ミトラの職業はシーフのようだ。

索敵や罠の解除、素早い動きで敵を翻弄することに長けているらしい。

器用さの値が高く、様々な種類の武器を扱うことが可能である。

ただ、攻撃力が低く前線で戦うには向いていない。


ちなみに僕の職業は、どうやらレポライターらしい。

チャットGOTによると、レポライターという職業はこの世界でも認知されていない職業のようで、詳細についても不明とのことだ。

現時点ではスキルも覚えておらず、スマホの能力に頼らざるを得ない。


あれ?

受付嬢エリーさんの前で、ミトラは別の冒険者たちと話をしている。

何かあったのかな?


「あっ、ミツル。こっちに来て」


僕がミトラの方へ向かうと、冒険者2人が僕に気づいたようだ。


「あ、トラ顔紳士」


まず口を開いたのが、簡易な鎧をまとった赤髪の女性だ。

背中に大きな剣を背負っている。


「お初にお目にかかる」

深々とお辞儀をしてきたのは、分厚い鎧と盾を装備した屈強な大柄の男性。

見た目はいかついが礼儀正しい人のようだ。


僕も彼らにお辞儀をする。


「どうやら、この人たちも同じ依頼を受注しようとしていたらしいの。そこへ、エリーさんが一緒に受注したらどうかって」


どうやら共同で同じ依頼を受けないかと提案されているようだ。

僕は特に異論はない。

装備品を見る限り、剣士とタンクのようだ。

彼らが加われば、僕たちのパーティに足りない部分を補ってくれるだろう。

それに、ミトラたち以外とも知り合える良い機会となる。

この世界のことを知る助けとなろう。


「僕はいいけど、ミトラは?」

「私も賛成よ、あなたたちはどう?」

「私たちも問題無い。効率よく依頼を達成できるのは願ったりだ」

「俺もOKだ。討伐パーティーは多いほどいい」


こうして僕たちは、角ウサギの討伐依頼を共同で受けることになった。


「よろしくね。私はセリナ、剣士よ」

「アインツだ。見た通りタンクの役割を担っている」


二人はFランクの冒険者で、Gランクの僕たちよりも1つ格上だ。

お互いウメーディに来たのは最近とのことで、それまではナンバンの街を拠点にしていたらしい。


「じゃあ、早速サウザンドフォレストに向かう?」


一時的とはいえ、パーティーメンバーが増えたことに嬉しそうなミトラ。

いてもたってもいられないようだ。


「いや、今日は止めておいた方がいい。すぐに雨が降ってくるだろう」


アインツが即座に答える。


「えっ、雨?こんなに晴れているのに?」

「アインツの勘はよく当たるのよ。アインツが雨と言ったなら雨が降ると思うわ」


セリナは、アインツを強く信頼しているようだ。

確かにスマホを見ても降水確率は80%以上。

なるほど、アインツの勘は確かなようだ。


「ねぇ依頼は明日にして、今日は私たちで親睦を深めない?いいお店を知ってるのよ」


セリナが僕たちを交互に身ながら提案した。

確かに僕にとっては願ったり叶ったりだ。

『いいお店』というのがとても気にかかる。


「そうね、それもいいかもね。ミツルもそれでいい?」

「ああ、それがいいだろう」

「じゃあ決まりね。アインツ、いつものお店に行くわよ」

「わかった。任せよう」


僕たちはギルドを出て、セリナおすすめの『いつもの店』へと向かった。


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