6店目「異世界珍料理!壮絶スライム尽くし 中編」
依頼受注受付カウンターの担当はいつものエリー嬢だ。
僕たちの姿を見つけると、ニコッと微笑んでくれた。
僕はスライム料理店の店主から受け取った「依頼者推薦状」を彼女に渡す。
彼女は封を開き、手紙の内容を確認した。
「はい、確かにこちらの依頼を受注することが可能です。『スライムの捕獲』でお間違えは無いですか?」
「ああ、受付処理を頼む」
「承知いたしました。こちら捕獲したスライムの受け取りは、『スライム料理専門店スラリン店主ヒダ様』となっております。そのため、直接依頼者にスライムをお渡しください」
確かにその方が早そうだ。
「依頼達成後、依頼者からギルドに連絡。報酬はギルドにてお支払いするという形となります。この点はよろしいでしょうか?」
「ああ、問題はない」
「それではこちらの依頼受注書にご署名をお願いします」
僕とミトラは受注書に署名をする。
どうやら僕もこの世界での名前の書き方に慣れてきたようだ。
これも翻訳アプリの成せる業だろう。
「はい、依頼受注処理が完了いたしました。それではよろしくお願いします」
僕とミトラはエリーに礼を言って、ギルドを後にした。
スライムはじめじめした湿地帯を好むらしい。
ウメーディ周囲では、北西部の小高い丘の下方に湿地帯が広がっている。
ここではスライムを始め、比較的低級の魔獣や動物が生息しているようだ。
群れを成して襲ってくる魔獣も少なく、新人冒険者の訓練の場としても利用されている。
目的地までは徒歩で30分くらいだ。
距離的には15分くらいで行ける距離なのだが、整備されていない道路のおかげで余計な時間を食ってしまう。
目的地周囲には草が生い茂り、地面も段々ぬかるんできて歩きにくくなる。
緩い地面を歩くたびにグチュグチュと音を立て、靴に赤土がまとわりつく。
ぬかるみがひどくなるにつれて、ミトラの口数が少なくなっていった。
ミトラの可愛い赤色の靴は、すでに見る影もなかった。
僕らは無言のまま、スライムの探索を続けた。
周りは静まり返っており、僕らがぬかるみを歩く音以外は何も聞こえない。
本当にここにスライムがいるのかと不安になってくる。
湿原地帯にしては木はまばらで、意外なほど周囲は明るい。
そのため周囲の状況が確認しやすく、今魔獣が現れたとしてもすぐに察知できるだろう。
湿地地帯を歩き回っていても、なかなかスライムは出てこない。
ミトラの機嫌がさらに悪くなる前に、発見したいところなんだが……。
探索をしているうちに僕らの目の前に大きな池が現れた。
全体的に藻に覆われているが、水面は澄んでおり鏡のように周りの木々を映している。
池をのぞき込むと、泳ぐ魚の動きが手に取るようにわかる。
本当に綺麗な池だ。
僕は水面により顔を近づけた。
バシャッ
突然魚が飛び跳ね、僕の顔に向かって池の水が跳ねた。
「うわっ」
僕は驚いて、後方に飛びのいた。
「もー何してるのよ」
僕が驚く様子を見て、ミトラが笑う。
どうやら少し機嫌が直ったようだ。
気を取り直して、探索を再開しようとした僕だったが、水面に奇妙なものが写っていることに気づいた。
「ミトラ、危ない!」
「えっ?」
後ろを振り返ったミトラの肩に、サッカーボール大の物体が飛びついたのだ。
薄い青色をしたゼリー状の生物……スライムだ!
「痛い!放してよ!」
ミトラはスライムを引きはがそうとするも、スライムはびくともしない。
まるで吸盤で吸いついているかのように、ミトラの肩から離れようとしないのだ。
「ミツル、助けて!」
僕はスマホを取り出し、スライムに向ける。
スライムが画面に入ったと同時に、ミトラの肩から外れるように素早くスライムをフリックした。
僕の操作と同時にミトラの肩から外れ、勢いよく空中を舞うスライム。
勢いよく地面に激突するも、大きなダメージは受けていないようだ。
ミトラの肩から焦げ臭い匂いが漂う。
幸いにも防具を焦がしたくらいで、ミトラ自身はダメージを負ってはいないようだ。
「もー、スライムのクセに!」
ミトラはスライムの方に向き直り短剣を構える。
いきなり攻撃されたにも関わらず、気持ちは沈んでいない。
これなら大丈夫だろう。
さあ今から捕獲開始だ。
僕は捕獲のためエコバックを取り出し、左手で構える。
右手のスマホはスライムの方へ向ける。
……我ながら間抜けな格好だ。
スライムはずりずりと這いながら僕たちとの距離を詰める。
僕とミトラも同じように、武器を構えながらゆっくりと近づいていく。
ただ足場が悪い分、僕たちが不利だ。
スライムはなおもじりじりと近づいてくる。
ミトラも短剣をより胸に近い所に構えなおす。
……その時!
スライムが目にも止まらぬスピードでミトラに飛びついたのだ。
意表を突かれたミトラだったが驚くべき反射神経で、構えていた短剣を手放し、スライムを胸の前で両手で受け止めた。
しかし勢いは完全には殺せず、そのままスライムを受け止めたまま後方に倒れ込んだのだ。
「ミトラそのまま捕まえてて!」
僕はミトラの元に駆け寄り、スマホをスライムに向ける!
スマホ画面に写ったスライムだったが、ふっと画面から姿を消した。
えっ。
スマホ画面から目を離しミトラの方を見ると、なんとスライムがゼリー状から液体状へと姿を変え、ミトラの手からこぼれ落ちていたのだ。
しかも倒れたミトラの胸元にべっとりと絡みついている。
「あ、熱い!」
ミトラの防具から焦げる匂いが漂う。
スライムが再度ミトラを溶かそうとしているのだ。
僕は慌てて、スライムをスマホでフリックして引きはがした。
「もぅ、嫌!」
幸いにもけがは無いようだ。
ただ地面に倒れこんだミトラは、全身がドロドロでずぶ濡れ状態となっていた。
僕の予想は甘かった。
スライムと言えば僕の中では愚鈍なイメージだったのだが、攻撃の瞬間が驚くほど速い。
作戦を根底から変える必要があろう。
「ミトラ、僕が囮になる!」
僕はスマホを構えながら、スライムに向かって突進し始めた。
スライムも間合いに入ると間髪入れずに、僕に飛び掛かる。
僕は飛び掛かるスライムに向かって左腕を突き出す。
スライムは僕の意図通りに、僕の左手に飛びついたのだ。
僕の左腕に吸着し、溶かそうとするスライム。
僕はそのスライムにスマホを合わせ、『ライト変換アプリ』を起動させる。
スマホから放出される青い光りがスライムを照らし、スライムの体がパキパキと音を立て凍りつき始めた。
一度捕食活動に入ると、スライムの動きが止まるようだ。
体が凍りつきつつあっても、スライムは一向に捕食活動を止めようとしないのだ。
カチーン。
1分後、スライムは完全に動きを停止した。
僕は左腕で凍り付いたスライムを、ミトラに引きはがしてもらった。
地面に転がるスライム、これなら捕獲できそうだ。
僕は『圧縮・解凍アプリ』を起動し、スライムの大きさをテニスボール大までに圧縮した。
「一体そのマジックアイテムって何なの?機能があり過ぎるわ」
呆れた顔をして言うミトラに、僕は愛想笑いをしながらエコバックにスライムを詰め込んだ。
「さっ、もういいでしょ?帰りましょ」
帰ろうとするミトラの前に、うごめく3つの影。
今度はスライムが3体も同時に現れたのだ。
「もう嫌よぉぉぉっ!」
ミトラの叫び声が静かな沼地に響き渡る。
「ミトラ離れて!うぉぉぉぉ!」
僕はスライム3体に向かって突進していった。
3体のスライムは僕を捕食しようと僕の体に飛びつき、吸着した。
しかし、僕の服もマジックアイテムだ。
スライム程度の攻撃ではビクともしない。
僕は『ライト変換アプリ』を起動して、僕の体についたそれぞれのスライムを凍らせた。
攻略法が分かってしまえばなんてことは無い。
僕はスライムを圧縮して、エコバックに収納した。
「これならまだまだ捕獲できるかな?」
「ぜーったい嫌!」
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