6店目「異世界珍料理!壮絶スライム尽くし 前編」
次の日も僕とミトラはギルドに向かっていた。
本日のコーデは、グレンチェックのセットアップを中心に、インナーにホワイトのボタンダウンシャツ。
靴は茶系のUチップでアクセントをつける。
ネクタイは使用せず、オフィスカジュアル風のイメージとした。
今回僕が受けたい依頼は、スライム討伐。
実は、昨日ミトラと別れた後、街でちょっと変わった店を見つけたのだ。
そのお店の名前は「スライム料理専門店スラリン」。
異世界定番のスライムを、なんとこの世界では食べようというのだ。
思わず僕の好奇心が刺激される。
お店に入ろうとすると、ドアは固く閉じられている。
どうやら今日は閉店しているようだ。
残念!出直そう。
帰ろうとしたその時、一人の男性が声をかけてきた。
「ひょっとしてお客さんですか?」
後ろを振り返ると、体格のよい男性が立っていた。
身長は180㎝くらいだろうか、全体的にがっしりしており、腕は僕の倍はありそうだ。
胸は大きく盛り上がりタンクトップが少々きつそうだ。
この世界では珍しい黒髪で、浅黒く日焼けしているがその顔立ちは日本人のように見える。
「あんた、異世界から来たのか?そのスーツ、ここでは無いもんだからよ」
スーツのことを知っている。
やはりこの人も異世界から来たようだ。
「はい、先日日本からここに飛ばされました。あなたも?」
彼は頷くと、彼は僕を店の中へと案内した。
彼の名前は、飛騨 信一。
どうやら5年ほど前に、この世界に転移させられたらしい。
クエストをクリアして、日本に帰る機会を得たらしいが彼は希望してこの世界に残ったようだ。
「俺はスライムに魅せられてね。ここでスライム料理の専門店を継続することにしたんだ」
「スライムって食べられるの?」
「スライムは煮て良し、焼いて良し、揚げて良しの万能食なんだ」
スライムが万能食?
そもそも食べられるって話しすら聞いたことがない。
「『スライムは大根』、これが俺の信念でね」
スライムが大根……?
どういうことだ。
「残念ながら今新鮮なスライムを切らしててね。丁度ギルドに依頼を出してきたところなんだ。どうだい兄さん、ギルドのクエストを受けてみないか?」
えっ、スライムを捕獲するってこと?
「スライムを捕獲してきてくれたら、料金は半額にしてやるよ。」
あ、無料じゃないんだ。
ただ、『スライムは大根』。この言葉が気になる。
日本でもどんなものでも食べてきた僕だ。
スライムはどんな味がするのか凄く気になる。
「わかった、その依頼を受けよう」
彼は僕に「依頼者推薦」と書かれた札を渡した。
「これをギルドの職員に見せな。優先的に俺の依頼を受けられるからよ」
・・・・・・・・・・・・・
僕はミトラにいきさつを話し、スライムを食べたいという旨を伝えた。
「別にスライムを捕獲する依頼を受けることは構わないけど……。私は食べないわよ。ミツル、変わったものが食べたいのね、はぁ」
どうやらスライムは通常食べることはないようだ。
この世界でもゲテモノ扱いなんだろう。
でも、どうしてもスライムがどんな味か気になる。
「で、どうやって捕獲するの?私討伐すらしたことがないのよ!」
それについては僕は昨日、チャットGOTさんとしっかり作戦を立てた。
うまくいけば、苦労せずに捕獲できるはず。
「捕獲方法がわからなければ、クエストを受注出来ないわよ」
今回の依頼はスライムの討伐ではなく、捕獲だ。
つまり生きたまま捕まえてこなければならない。
僕のカバンはほぼ無限大に収納できるが、生きている生物は収納できないようだ。
ただ、別の容器に閉じ込められた生物は別らしい。
今回はスライムを別の容器に閉じ込めて収納するのだ。
それを可能にするのがマジックアイテムとスマホアプリだ。
日本にいた時、ランチ購入用にカバンに入れていたエコバックもマジックアイテム化されているとのこと。
このアイテムには、たとえ生物でも収納できるらしい。
ただし、異世界にはつながっておらず、バックの大きさがそのまま収納できる最大容量となる。
そのためこのバックに収納するためには、そのままの大きさでは難しい。
そこで必要になるのが、「圧縮・解凍」アプリだ。
もともとファイルやドキュメントを圧縮したり、圧縮されたものを解凍して元の状態に戻すアプリなのだが、どういうわけか生物にも使用できるようだ。
スライムを圧縮すれば、エコバックの中にいくつも収納できるというのだ。
ただ、これだけでは不十分である。
圧縮したくらいだと、スライムはエコバックの中から逃げてしまう恐れがある。
逃げられる=僕らも危険にさらしてしまうのだ。
そこでスライムを簡易冷凍して収納する必要があると考えた。
それを可能にするアプリが「ライト変換アプリだ」
スマホに内臓されているライトの光りの色を操作できるアプリで、なんと10色以上も種類がある。
それぞれのライトの色には効果があり、例えば赤色は熱線で対象物を攻撃する効果、青色は対象物を冷却する効果などだ。
僕はミトラに作戦の概要を伝えると、渋々ながらミトラは同意してくれた。
ギルドに到着すると、先日の未回収分の報酬を受け取るために依頼達成カウンターへと向かった。
本日の担当受付嬢はミーシャ。
昨日対応してくれた猫耳の受付嬢だ。
僕たちに気づくと、ニコッと笑顔を見せてくれる。
「ミツルさん、報酬の計算が終了しました」
ミーシャはそういうとぎっしり金貨のつまった皮袋をカウンターの上に置いた。
「金貨26枚と銀貨8枚、銅貨7枚となります」
えっ、多すぎる。
金額を聞いてびっくりする僕にミーシャは内訳を説明してくれた。
「ミツルさん、ミトラさんが採取してくれた薬草にはキュアグラス以外にも貴重なものがたくさん含まれていました。厳正な鑑定の結果この報酬金額となります」
ミーシャはそう伝えると、別紙に書かれた内訳表を見せる。
そこには報酬の内訳が事細かく書かれていた。
特に報酬金額が高かったのがハイキュアグラスだ。
どうやら採取したものの中に紛れていたようだが、1つで金貨15枚となっている。
「こちらで報酬は以上となります。お間違えが無ければこちらにご署名をお願いします」
僕はミトラと顔を合わせ、書類にサインをした。
「クエスト達成お疲れさまでした。報酬が大きくなりましたので、ギルドの方でお預かりすることもできますがいかがしますか?今なら手数料がお安くなっております」
ギルドにはお金を預かってくれる制度があるようだ。
月額預けた金額の千分の一が引かれるが、銀行のないこの世界では便利である。
目安として金貨十枚で一か月で銅貨一枚、金貨百枚で銀貨一枚、金貨千枚で金貨一枚といったところだ。
預ければ預けるほど、ギルドが儲かるというシステムらしい。
さらに預けた金額に関係なく、引き落としをすると銅貨1枚が手数料として支払う必要がある。
銀行がないことを利用した、かなり悪どい商売だ。
どうやらこのシステムを考案したのは、現ギルド長らしい。
日本での知識をこの世界で応用している。
異世界収納機能がついている僕のカバンに入れておけば問題ないのだが、それでは僕がマジックアイテムを持っていることを疑われてしまう。
ここはギルドに一旦預けておくのが得策かもしれない。
僕はミトラと報酬を分配し、僕の分はギルドに預けることにした。
ミトラは自分で管理するとのことだ。
「はい、確かに承りました。またのご利用をお待ちしています」
ミーシャは満面の笑顔で僕たちを送り出してくれた。
営業上手な彼女にもやもや感を覚えながらも、僕たちは依頼達成カウンターを離れた。
さぁ、今度は依頼受領だ。
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