4店目「異世界風ロールキャベツ!?宿屋の食堂 前編」
ギルド長と分かれた僕は、今日の宿泊場所を探すことになった。
さすがに二日もやっかいになる訳にはいかない。
また、挨拶にいかなくては。
すでに二件分の食レポがたまっている。
出来れば今日中に書き上げたい。
となると探す部屋は限られる。
執筆活動が妨げられない、静かな個室の部屋だ。
出来れば今日だけでなく、一週間くらいは泊まりたい。
となるど、料金は可能なくらい抑えたい。
僕はアプリの中からチャットGOTを開き、条件を入力して検索した。
「該当が三軒あります」
流石チャットGOT様。
有能すぎます。
一軒目、『旅立ちの宿』。
冒険者御用達の簡易宿。トイレ共同・風呂なし・食堂完備。
冒険者ギルドより徒歩十分。
個室五部屋空きあり。
料金一泊五銀貨(約5,000円)。連泊にて割引あり。
うん、かなり良さそうだ。
一泊五銀貨というのも悪くない。
あまり料金が高いと、連泊することは出来ないだろう。
二軒目、『ハイクラスINN ゴールデンサーバント』
貴族も宿泊するという高級宿屋。個室にトイレを完備。
大浴場と食堂が自慢。宿泊者以外でも有料で利用できる。
冒険者ギルドより徒歩五分。
個室3部屋空きあり。
料金一泊一金貨+五銀貨(約15,000円)。
どうやら高級宿屋のようだ。
少々料金は高めだが、静かな環境で執筆することができるだろう。
貴族も訪れるというこの宿屋の食堂は気になる。
ただ、やはり料金は高い。一泊なら良いが連泊には向いていないだろう。
三軒目、『癒しの風亭』
冒険者以外にも人気がある簡易宿。この地域の家庭・郷土料理が食べられる食堂が人気。
トイレ共同・風呂あり。
冒険者ギルドより徒歩25分。
現在個室5部屋空きあり。
料金一泊五銀貨二食付き(食事をとらなければ一食につき七銅貨(約700円)の返金あり)。
冒険者ギルドより徒歩25分と遠いが、その分冒険者が少なく、静かな環境が確保できるかもしれない。
それよりも『地域の家庭・郷土料理』が気になる。
僕はまだこの世界での家庭料理というものを食べていない。
実際この世界の人が、毎日どんな物を食べているかも気になる。
また、さすがに毎回食レポのために外食するというのは予算的にも体調的にも厳しい。
食レポ以外の時は家庭料理を食べる方が良いだろう。
今回は『癒しの風亭』に宿泊することに決定。
早速お店に行って、宿泊交渉をしてみよう。
こういう時に電話が無いって、不便だよね。
僕は「ブーブルマップ」で『癒しの風亭』の場所と経路を検索。
さっそくお店に向かって出発しようとした。
「あーっ、やっと見つけた!」
聞き覚えのある声が背後から聞こえる。
後ろを振り返るとやっぱりミトラだ。
「冒険者ギルドに行ったら、ギルド長と一緒に出かけたって。結構探したんだよ」
どうやら僕を探して歩き回った様子。
額を流れる大粒の汗がそれを物語っている。
「まだ、この街に慣れてないでしょ?どこかに行くなら道案内してあげようと思って」
「ミトラ、ありがとう!今から『癒しの風亭』に行こうとしてたところなんだ」
「今日はうちに泊まらないんだ……。でも気を遣うよね」
「モルジーさんにもお礼を言おうと」
「うん、お父様も喜ぶと思うよ。今度お父様のところに案内するね」
僕たちは話をしながら『癒しの風亭』へと向かった。
どうやら『癒しの風亭』は、料理でも有名なようだ。
宿泊者以外でも食堂として利用する人も多いらしい。
「その日のメニューは決まっているから、選べないところがネックよね」
どうやらメニューは日替わりの一種類のみ。
ただ、連泊するなら注文が偏らない分、その方が都合がいい。
どうしてもメニューから選ぶとなると、気に入ったのばかりを食べがちだ。
頭ではバランスよく食べるのが良いと思っている。
しかし、誘惑に勝てるほど僕は強い人間ではない。
「何でも美味しいけど、私はキャベジッシュ包みが一番好きかな」
「キャベッジッシュ包み?」
「そう、『癒しの風亭』の名物なの。まだ若いキャベジッシュの葉で具材を包み、じっくり煮込んだ料理よ」
キャベジッシュとはキャベツのことだろう。ロールキャベツのようなものだろうか?
「中身はよく変わるけど、私は豆が入っているのが好きかな。あの味はなかなか出せないわよ」
ロールキャベツに豆?
僕が想像しているものとは違うかもしれない。
何にせよ楽しみなことには違いない。
「あっ、ほらここよ」
ミトラが指さしたところは、お洒落というよりかわいい建物だ。
三角形の屋根が特徴的な二階立ての建物で、煙突から白い煙が立ち上っている。
壁は赤茶色に塗装されているが、玄関のアーチ部分はレンガをそのまま積み上げて作られていた。
無骨なレンガの質感と、赤茶色の塗装との対比が美しい。
「じゃあ入りましょ」
ミトラはそう言うと、木製の扉を開けてお店の中へ入った。
僕も遅れずについていく。
建物の中は中世ヨーロッパの古民家といったところだろうか。
やや高めの屋根からいくつものシャンデリアが吊り下がっており、壁にもランタンが設置されている。
またいくつもの小窓らしきものがあるが、ガラスでは無く布のようなもので覆っているようだ。
確かに現代日本から考えれば薄暗いが、不思議なほどそこまで暗くは感じない。
床全体には絨毯が敷かれ、お洒落なアンティークの家具や調度品がまるでモデルルームのように陳列されている。
カウンターには小太りな中年女性、その隣にミトラほどの年齢の女の子がいる。
「やあミトラ、随分だね。お父様はお元気かい?」
「ジュリアおばさん、お久しぶりです。父は相も変わらずです」
どうやら、2人は知り合いらしい。
2人が談笑している間、女の子がじっと僕を見つめている。
(あれはお客さんかい?変わった格好だけど大丈夫なのかい?)
(それは保証するわ。意外と優しいのよ)
声のトーンを落としてひそひそ話をするミトラとジュリアと呼ばれる女性。
丸聞こえですけど。
(ちゃんとお金は払ってくれるんだろうね?)
(大丈夫よ。彼冒険者に登録したから、すぐに稼いでくれるわ)
(全く強そうに見えないんだけど?)
(襲われていた私たちを助けてくれたわ。ああ見えて強いのよ)
(へー、とてもそうは見えないけどね)
全部聞こえてるんだけど。
僕をほっておいて話すミトラとジュリア。
そろそろ、話をしたいんだけど……。
「お客さん、お待たせしました。『癒しの風亭』にようこそ!」
しびれを切らして、女の子が話しかけてくれた。
腰まで届く綺麗なブロンドヘアーの女の子で、笑顔がとても可愛らしい。
「あっ」
ジュリアもようやく我に返ったのか、いそいそと僕の方へと向き直った。
「お泊りかい?何泊するんだい?一泊5銀貨で朝・晩の食事付きだよ」
「取りあえず、一週間頼む」
「了解!2階の奥の部屋が空いてるよ。うちで食べない時は、連絡くれたらその分の食費は返金させてもらうよ」
どうやらチャットGOTの内容通りだった。
僕は前金で7泊分35銀貨を支払った。
そろそろお金を稼がないと、あっという間にお金が尽きてしまう。
「確かに受け取ったよ。ほらっこれが部屋のカギだ」
ジュリアの分厚い手から、可愛い装飾のついた鍵を受け取る。
「じゃあ、ナタリー。お客さんを案内してくんな」
ナタリーと呼ばれた少女は、大きく頷くと僕に再度一礼した。
「じゃあ、私も行くね。ミツル、明日の朝ギルドに来て。ナタリー、ミツルをよろしくね」
「えっ」
ミトラはそれだけ言うと、颯爽とお店を出た。
「それではミツルさん、お部屋にご案内しますね」
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