31. レイテスまであと3日
幾度も襲撃を受け、その旅に兵士が少なくなっていき、いまは50人ほどしか残っていない。
生き残ってる兵士の方には、毎回食糧を渡してから別れているけどいまごろどうしているだろう。
私たちはなんとかレイテスまで残り3日程度の距離までやってきた。
護衛の兵士たちも残り少なくなっており、追加の兵士をこちらに向かわせるようお願いした騎兵を走らせたそうだ。
どちらにせよ、私のやることは変わらない。
兵士の皆さんに食事を用意するだけだ。
今日はなににしようかな?
「マスター、今日のお昼はなににしますか?」
「そうだね。ハヤシライスにでもしようか」
「はーい!」
このような状況でもサクラちゃんは明るく元気いっぱいだ。
私まで元気をもらえるな。
それじゃあ、調理を始めますか。
サクラちゃんと一緒にハヤシライスを作っていると、またコンロンが止まったみたい。
今度はなにがあったんだろう?
「主様、大変です! 武装した一団に取り囲まれています!」
「ええっ!?」
「リコイル様でも気が付けなかったほどの手練れ、少々危険かもしれません」
そこまでの相手がなんでこんなところに!?
エリンシア様を狙うにしてもそこまでするの!?
「申し訳ありません。私たちの事情にここまで関わらせてしまい……」
「ファムさん、なにか知っているんですか?」
「ここ数週間、エリンシア様の姉から家督相続権を引き渡せと再三の要求があったんです。しかし、それを私たちは断り続けてきました。これまでのモンスターたちも行動がおかしかったのですが、それもあの者たちによって仕組まれていたのでしょう」
リコイルちゃんによると、モンスターの行動を一時的に操ることができる魔道具という物もあるらしい。
ご禁制の品だから表に出ることはないけど、裏の社会では出回っているんだとか。
今回はそれを何回も使ってきたってことだね。
用意周到というか、計画的というか。
「それで、リコイルちゃん、勝てそう?」
「私たちが逃げるだけならどうにでもなる。ただ、この部隊が勝つのは厳しい」
いつになく真剣な顔のリコイルちゃんが言うには、周囲を囲んでいる暗殺者の数は20人を超えているだろうと言うことだ。
先頭で足止めをしている人数はわからないけど、森の中から複数の殺気を感じるみたい。
森の中の暗殺者が動かない理由は、おそらく前方にいる暗殺者が交渉中だからだと推察できるらしいね。
どうあれ、私たちは袋のネズミにされているわけだ。
私たちだけならコンロンの結界でいくらでも逃げられるんだけど。
そして、ついに森の中から矢が放たれてきた。
嫌らしいのは、曲線状に上から落ちて来る矢とまっすぐ直線的に飛んでくるボウガンの矢を使い分け、確実に攻撃してくることだ。
これによって兵士が何人も倒れてしまっている。
まだ直接攻めては来ないみたいだけど、それだっていつまでもつか。
「ミリア、打って出る?」
「リコイルちゃん、勝てるの?」
「怪我をしないように戦うとなると、攪乱するのが手一杯だと思う」
うーん、そうなるとリコイルちゃんを行かせるのも危険だなぁ。
どうしたものか。
「あの、ミリアさん。先ほどからこの車は矢の当たっている衝撃音がしないのですが、一体……」
あ、ファムさんに説明してなかった。
コンロンには結界を作る機能があって、それを使えば外からの攻撃を遮断できるんだよね。
それをいま教えてあげた。
すると、ファムさんはすごい勢いで迫ってきてエリンシア様だけでもレイテスまで送り届けてほしいと告げてきた。
なるほど、確かにコンロンなら安全にエリンシア様をレイテスまで連れて行けるだろう。
でも、それでいいんだろうか?
「エリンシア様の説得は私が行います。どうかよろしくお願いいたします」
「うーん、でも……」
「ミリア、私もその案に賛成」
「リコイルちゃんも?」
「どのみち、このままじゃ部隊が全滅する。私たちがエリンシア様を連れて部隊を離れれば攻撃が止まる可能性もある。……無事で済むかはわからないけど」
やっぱり全員が生き残る道はないのか。
きついなぁ。
でも、エリンシア様を逃がすのが先決だよね。
私たちは列から離れてエリンシア様の馬車にコンロンを横着けする。
そして、結界にエリンシア様の馬車も取り込みファムさんに中の様子を確認してもらいに行ってもらった。
その結果、エリンシア様の護衛がエリンシア様をかばう形で身をもって盾となり息絶えていたが、エリンシア様自身は無事で生き延びていたようだ。
ファムさんはエリンシア様に事情を説明し、コンロンへと移ってもらった。
さて、ここからどう逃げるか。
「……ミリアさん、出発前に兵たちに声をかけてもよろしいですか?」
「はい。どうぞ」
エリンシア様はコンロンの窓を開け兵たちに最後の指示を出す。
逃げ出せ、捕まった場合、苦しみたくなければ自決しろと。
それしか言えないいまのエリンシア様はどれだけの無力感にさいなまれているだろう。
でも、私にできることはエリンシア様を無事にレイテスまで送り届けるだけ。
つらい役割だけど、しっかり果たさないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます