30. レイテスに向かい5日目
毎日3回150人分の食事を用意するのは大変だけど、さすがに3日もやれば慣れてくる。
昨日は朝がカレーライス、昼がオーク肉の生姜焼き、夜がポトフだったがどれも好評だった。
ただ、生姜焼きは朝の方がいいかもしれない。
兵士の皆さんは健啖家揃いだし、エリンシア様用の料理は別に用意すればいいんだからね。
そんなわけで、食事メニューがなるべくかぶらないようにだったりとか、作りやすい物を選んだりとかしながら5日目の夕方を迎えた。
いまのところ雨などに当たることはなく進行速度も順調なようだ。
むしろ、食事休憩のときに自分たちで煮炊きをする必要がなく、すぐに食事が取れるということで想定よりも早く進んでいるらしい。
このペースを維持できれば、12日ほどでレイテスに到着するのではないかと噂されているほどだ。
私としても食材を追加しなくてもいい分、早く着いてくれるのは助かる。
「早く着いても大丈夫なのですか? 買い込んだ食材が余るのでは?」
心配をしてくれるのはファムさんだ。
でも、私としては困らないんだな。
「大丈夫ですよ。余ったら余ったで、レイテスの街で屋台をするときの食材になりますから。むしろ、遅れて食材が足りなくなったときの方が問題です」
「それはそうですが……何日分の食材を用意していただいているのでしょう?」
「20日分ですかね。さすがに、それ以上になりそうだと食材を制限しなければいけません。まあ、スープを作るための水には事欠かないのでそっちは心配していただかなくとも大丈夫なんですが」
具材なしのカレーとかシチューを作るのは大丈夫だ。
それで満足できるかはわからないけど、どんな状況になってもライスはあるし我慢してもらおう。
私たちは晩ご飯の仕込みをしながら隊列の中をゆっくり進んでいた。
進んでいたのだが、気がつくと窓の外の景色が止まっている。
どうやら停車したようだけど、なにがあったんだろう?
私は運転席にいるグリッド君に状況を聞いてみた。
「じゃあ、前方に止まった馬車がいるから進行が止まったわけだ」
「はい。前方にいた兵士たちが止まった馬車の様子を見にいき、馬車は轍にはまっていたようなので、そこから引き上げる手伝いをしたそうです。もう間もなく出発かと」
「そっか。大きな事故じゃないなら……」
「ウォォォゥ!!」
私がグリッド君と話をしていると、右手側に広がっていた森からうなり声が聞こえてきた。
そして飛び出してきたのは……オークの群れ!?
なんでこんなところに!?
兵士たちも不意を打たれ、隊列の側面を突かれたことで浮き足立ってしまっている。
これは危ないかも!
「リコイルちゃん! お願い!」
「わかった。グリッドはコンロンの守りを」
「かしこまりました。ご武運を」
「行ってくる」
リコイルちゃんは席から外に飛び出し、愛用の剣を構えながら突撃していく。
オークの数は多いけれど、リコイルちゃんはそれを物ともせずに倒していった。
ただ、やっぱりオークの数が多すぎる。
リコイルちゃんが押し返した部分は、ぽっかり穴が空いたようになっているけど、それ以外の場所は普通にオークがなだれ込んできているのだ。
結局、普通にピンチだよ!?
「主様、僕もコンロンの守りにでます」
「う、うん。気を付けてね」
「はい。問題は乱れた兵士たちの指揮をどうとるかですね」
兵士たちの指揮か、それはどうしようもない。
私たちはあくまで食事係として付いてきている民間人なんだから。
「とりあえず、僕もでます。サクラ、いざという時は頼む」
「はーい!」
グリッド君も外に飛び出し、どこかから身長ほどの長さの棒をとりだしてオークたちに対する構えを取った。
だけど、オークたちはあくまでも群れで迫ってきている。
グリッド君だけじゃコンロンしか守り切れそうにない。
エリンシア様がピンチじゃ!?
「皆の者、慌てるな! オークの群れに向かい槍を構えよ!」
その時、オークの怒号の中でもよく響き渡る声が聞こえてくる。
これは、エリンシア様の声?
「不意を突かれたくらいで慌てるな! いままでの訓練を思い出せ! モンスターどもを蹴散らすのだ!」
「お、おーっ!」
エリンシア様の指揮の下、兵士たちがオークの群れに向かい槍と盾を構えた。
そして、オークの群れと兵士たちが激突する!
「ブモーッ!?」
「クソッ、重いな! 押し負けるな、押せ、押せ!」
突進してきたオークを槍で貫き、勢いを盾で受け止めた兵士たちは、オークの力に負けじと押し返していく。
そして、オークの突進を受けきったところで騎馬に乗った騎兵がオークたちを倒していった。
さらに、オークたちの突撃の中、ひとりで戦うことになっていたリコイルちゃんはオークの背後に回る形となり、兵士たちと挟撃するようにしてオークの数を減らしていく。
ちなみに、グリッド君はいざという時に備えて待機中だ。
それにしても、なんでこのタイミングでオークたちが現れたんだろう?
あまりにも都合がよすぎる気がする。
なにかの罠?
「よし、最後の1匹を討ち取ったぞ!」
いろいろなことを考えているうちにオークの群れは倒しつくされたようだ。
窓から見える限り、大量のオークが事切れて転がっている。
ただ、死んでいるのはオークばかりではなく、兵士たちの死体も見受けられた。
やはり、被害なしとまではいかなかったようだ。
「被害状況の報告を!」
「はい、エリンシア様。いま死傷者の数を確認しておりますが、兵士の死亡者は10名以上いると思われます。幸い、騎兵は失われておりません」
「わかりました。被害状況の把握に務めながら負傷者の手当と死者の弔いを済ませてください。それから、オークの死体を放置すれば新たなモンスターを呼び寄せるかもしれません。炎で焼き払いなさい」
「かしこまりました」
エリンシア様たちは必死に被害状況や負傷者の手当を行っている。
でも、傷が深く助かりそうにない者や今後の行進には付いてくることができない者がたくさんいるそうだ。
さすがに私の料理でも傷は治せないし、どうしたものか。
「主様、エリンシア様より被害の状況を確認して参りました」
エリンシア様に私たちの状況報告を兼ねて全体の状況を確認しに行ってもらっていたグリッド君が帰ってきた。
ただ、その表情はあまりいいものではない。
やっぱり死傷者が多いのか……。
「エリンシア様の話によると、死者と行進についてこられない者を合わせると50人ほどが脱落するようです。やはり、大量のオークに側面を突かれたことが痛手となりました」
「そっか、やっぱりそんな数が」
覚悟はしていたけど、50人も減っちゃうんだ。
なんだか寂しいなぁ。
「それで、ここからは相談なんですが」
相談ということでグリッド君が耳打ちをしてくる。
死者はどうにもならないが、負傷者はなんとかする方法があると。
「本当にそんなことができるの?」
「はい。サクラの魔法なら治療可能です。ただ……」
「ただ?」
「貴族に対してサクラが高位の回復魔法の使い手だと知られるのは問題です。また、本来であればあの程度のオークの群れ、サクラの魔法で一撃でした。そこを突かれると不利になります」
そうか、そういえば回復魔法の使い手って貴重だったんだっけ。
それも深手を回復できるとなれば相当な高位の使い手だ。
そんな子供がいると知られれば、どういう動きが出てくるかわからない。
それがグリッド君の危惧していることだ。
最終的には私の判断に任せるらしいけど、さすがに私も兵士の命とサクラちゃんのことを天秤にかけるとサクラちゃんを優先する。
怪我をした兵士たちには申し訳ないけど、治療はできないかな。
ごめんなさい、みんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます